26

藤本陽生



…——目が覚めたら、隣にあいつは居なかった。




気配がない事に気づいて、寝起きの頭はすぐに覚醒した。



リビングを見渡しても人影は勿論のこと、物音一つしない。



とりあえず自分の部屋に行ってみたが、あいつは居なかった。



連絡を取ろうにも、肝心の連絡先を知らない。



兄貴が帰ってきた時には、確かに俺の隣に居たと思い返してみたが、その記憶すら疑わしくなってくる。



まさに、夢から覚めた様な感覚だった。



再び瞼を閉じる。



抱き締めた時に香る匂いや、声…表情、肌の柔らかさ…その全てに、全神経が反応した。



髪の毛から瞳まで、全部を愛おしいと感じた。



こんなにも離したくないと思った。何度抱き締めても抱き寄せても足りない。



足りないのに、さっきまであった温もりが一気に冷めていく。



「何なんだ…」



ソファの背にもたれたまま、天井を見上げる。



もう手遅れかもしれない。



その存在が、自分の中の大半を占めている事に気づいた。

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