あたしの過去

高校生になってすぐに、あたしとゆう人間は“こうゆう子”とゆう印象が出来上がったのが、事の始まりだと思う。



中学からの仲良しグループとか、新しく出来た友達とか、同級生の子はみんな誰かと居た。


楽しそうにしてた。


だけどあたしは、目すら合わせなかった。


そうこうしてるうちに、出来上がってしまったグループに溶け込む事も出来ず、だいたいいつも一人でいて…



ある日、話しかけられた。



同じクラスの女の子に。



それは、桜が散りかけた高一の春。



「ねぇねぇ、図書委員だよね?」



馴染めないクラスで、一人机に向かって読書をしている時だった。



「…え?違うけど」



話しかけられ顔を上げると、同じクラスの女の子が居て、


「あれ?津島さんが図書委員だって聞いたのに」


彼女は困ったように目を泳がせてた。



「誰が言ったの?」


「…あの子達」



彼女が指差す方へ目を向けると、窓越しに廊下で談笑している女の子グループが見えた。



「あー…あたし本ばっか読んでるからね」



そう頷いたのは、彼女達が同じ中学だったからって理由だけじゃない。



中学の頃から「図書委員」とゆう仇名で自分が呼ばれている事を、あたしは知っていたから。



「で、からかいに来たの?」



視線をそっと目の前の子に戻すと、


「何が…?」


彼女は困惑した表情を見せ、逆に問いかけて来たから、本当に図書委員を探してるんだと思った。



「…何でもない。図書委員は知らない」


「そっか…」


「もう良い?」



本へ視線を戻すとすぐに、


「あ!ねぇ、」


彼女が呼びかけるから「なに?」と、また視線を上に向けた。



「あの子達と仲悪いの?」


「え?」


「いや、図書委員って誰か知ってる?って聞いたら、急に笑われて…ってゆうか、バカ笑いみたいな?」


「……」


「そしたら津島さんの名前が出てきたから…」


「……」


「仲悪いのかなって…」


「……」


「あの…、」


「何か言ってた?」


「え?」



廊下で談笑している三人グループに視線を向け、「あの子達、他に何か言ってたの?」そう聞くと、


「いや、」


彼女が戸惑いを見せたから、開いていた本をパタンと閉じた。




「だいたい予想つく」


「え?」


「あたしの事、言ってたんでしょ?」


「いや…」


「何て言ってた?」


「何って…」


「大丈夫だよ。昔から仲悪いの。有ること無いこと耳が腐る程言われて来たから」



中学の時を思い出して、可笑しくもないのに何故か笑えた。



「いや、津島さんの事は何も言ってなかったよ」


「え?」


「津島さんは図書委員じゃないでしょ?確かに、津島さんの方を見ながら笑ってる気はしたけど…」


「……」


「図書委員やってる子の話みたい」


「……」


「あたしが津島さんって可愛いよね。って言ったの」



彼女は照れくさそうに微笑んでた。



「そしたら、「図書委員は昔から有名人だ」ってあの子達が言ってて、意味分かんないよね?津島さん図書委員じゃないのに…」


「何て言ってた?」


「ん?」


「その“図書委員”の事、何て言ってたの?」


「図書委員ってゆうか、図書委員をしてる子の、お父さんの話だったのかな?」


「……」


「あの子達の地元じゃ有名な話らしくて、中学の時にその図書委員の子のお父さんが、あの子達の親からお金を借りて、返せなくなって逃げたらしいよ」


「……」


「他にも…、当時の同級生の親にはほとんど借りてたらしいけど」


「……」


「まぁ実際、本当の話かどうか怪しいよね」


「……」


「津島さんは、その“図書委員”の事知ってるの?」



そう…彼女はきっと、悪気なんてなかったと思う。


ただ聞かされた事実を、あたしに話してくれただけ。



…―視線を廊下へ向けると、あの三人の女達が、あたしを見て笑っていた。



バカにしてるんだろう。



…――小学生の時、知らぬ間に両親が離婚して、気づいたらあたしは父親と二人暮らしで。


中学生の時、父親が失踪して、あたしは訳も分からず周りから責め立てられた。



ハッキリした事情も分からず、何となく理解したのは“父親が金を持ち逃げした”とゆう事。



子供に罪は無い。と言いながら、周りの視線はあたしを非難するものだった。



父親が居なくなって、これからどうしたらいいんだろう…と落胆するあたしに、心配して来てくれた担任が母と連絡をとってくれた。



既に再婚していた母は、新しい旦那さんと二人で生活していたらしい。



数年ぶりに再開した母に、思う事は色々あった。


父親と別れてから一度も連絡をくれず、今の今まで見放されていたんだと思っていたし、母に対して軽い失望すら抱いていた。



そんな母が、あたしに言った。



「あなたの産みの親じゃない」と…



数年ぶりに会って聞かされた事実に、あたしは失望していた母に対して、感謝するべきだったんだと後悔した。



…――母が父親と結婚した時、あたしは三つか四つの歳だったらしい。つまり父親の連れ子だった。


母が産みの親だと思い込んでいたあたしは、もちろん当時の記憶なんてない。



産みの親の事は、母も知らないと言っていた。


離婚したのは、父親の金使いの悪さが原因だったらしい。



本当の母親じゃない母が、何年も連絡してこないのは当たり前だと思ったし、父親と別れたのも当然だと思った。



それなのに―…



「うちにおいでよ」



父親が失踪して途方にくれるあたしを、実の母親でもないのに母は引き取ってくれた。



だから―…



「何か、“図書委員”のお母さんも大変だね」


「……」


「あの子達が言ってたよ、旦那の金も返さずにのうのうと暮らしてるって」



関係ない母の事を言われるのは、許せない―…




「津島さん!?」



衝動的なものだった。



嘲笑う三人に向かって、足が動いたのは…



「何よ」って、言われた気がした。


あいつらに近づくにつれ、腹立たしさに拍車がかかって、



「いやぁっ…!」



掴みかかったら、呆気なく悲鳴をあげられた。



こっちは物凄く腹立ってるから、周りとかどうでもよくて。



怒りに任せて、中心にいた奴を振り回した。



叩いたし、引っ張ったし、殴ったかもしれない。



中学の時から溜まってた物が、この時あたしの中で爆発したんだと思う。



自分でも、あーあ…って、しでかした事に気づいたのは、周りに居た生徒があたしから視線を逸らした時だった。



言うまでもなく、それ以来あたしは同級生から敬遠されている。



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