第21話:VSアースワイバーン
強烈な衝撃により、周囲にいた並みのアースワイバーン達は吹き飛んでバラバラとなった。
また木や地面に衝突して絶命するのもいる中、グラウンドワイバーンだけが受け身をとってダメージを軽減、そのままグランへ威嚇している。
『グルラァァァァ!!』
「ほぉ……変な個体がいると思っていたが、どうもアースワイバーンじゃねえな。――どうなんだレイン?」
「顔を見ろ……赤い模様があるだろ? 既にはぐれ化している」
「なるほどな、こいつが噂の“はぐれ魔物”か。俺は縁がなくて見た事がなかったが、高々アースワイバーンが変異してこれとは、どうりで周りが騒ぐ訳だな」
再会だというのに二人は、今まで一緒に行動していた様な感じで話し、現状報告をしているとステラも恐る恐るとレインの後ろから顔を出した。
「あ、あの……グラン様ですよね? ご無事でよかったです」
「おっ、よう姫さん! レインが一緒だと思ってたから大丈夫と思ってたが、取り敢えず無事で良かったぜ」
満面の笑みを浮かべてステラに手を振るグラン、そんな軽い様子にステラはやや困惑してしまった。
最悪、死に別れた可能性もあったのに、レインもグランも感動の再会とかではないからだ。
やはり四獣将ともなると、この程度でも取り乱さないのかとステラは感心すると、グランは何やら大きな荷物を担いでいたらしく、二人の前にそれを下ろした。
「そうだそうだ、夕飯に食おうと思ってたがこの際土産だ。――どっこいせ!」
「……“ビアボア”か」
グランが下ろしたのは、一言で言えば――巨大なイノシシ。
通常とは違って角が真っ直ぐに伸び、やけに毛がサラサラしていて清潔感がある変わったイノシシ――それがビアボアだ。
「なんですかビアボアって?」
「あぁ、姫さんは初めてか? こいつはアスカリアの名物ともいえるイノシシでよ、野生の割に肉に臭みもなければ柔らかく、かなり美味なんだ。――しかも、コラーゲンもタップリで女性人気も凄いぜ」
「えっ!」
グランの言葉にステラの瞳が輝いた。
コラーゲンたっぷり、つまりは美容だ。女性として王女でも興味があった。
最初は野生のイノシシだからと少し怖かったが、今では何故か宝石の様に輝いて見える。
「よし! 今日の夕食はこのビアボア料理だな! 姫さんにアスカリア名物食わせてやる!」
「本当ですか!? えっと……本当に美容に良いんでしょうか……?」
「おう、それは保証する。やっばいぜ姫さん、ルナセリアに帰る頃には肌が輝いてるぞ?」
「えぇぇ……ど、どうしましょう!?」
過酷な環境の中、美容に気を使えるとは思ってもなかったステラにとって、それは嬉しい誤算だった。
けれども、別に嘘を言っていないグランだったが、そんなすぐ信じるステラを見て詐欺に引っ掛かりそうだと不安を抱いていると、今まで沈黙していたレインが間へ入った。
「そろそろ現実に戻れ、来るぞ……!」
『グルラァァァァ!!』
レインの言葉で我に返るや否や、忘れてんじゃねえよと言わんばかりの咆哮をグラウンドワイバーンが放ってきた。
それと同時、生き残りのアースワイバーン達も動き出し、一斉に地面に潜り始める。
『クルルル!!』
更に、グラウンドワイバーンも勝負に出たのか、三人を中心として素早い速度で周辺を回り始め、その走った跡が抉れて円のフィールドを作り出す。
また、その限られたフィールドの地面からは蠢く様な揺れもあり、真下にアースワイバーンが集結するのもレイン達は分かった。
つまりは、明らかな連携。そんな動きにグランは驚いた様子で構えるが、その表情は楽しそうだった。
「おいおいレイン、はぐれ魔物ってのはこんな事も出来んのか?」
「あぁ、通常個体とは全く別の魔物と思った方が良い」
「そうか、厄介でもあるがそれまでだな。――にしても、レインも派手にやったなぁ」
レインと共にステラを囲んで身構える中、グランは周辺の攻撃痕を見て、レインの技痕が混ざっている事に気付いていた。
「荒れ具合からみて、余裕がなかったのか?」
レインが魔力の無駄撃ちをするとは思えず、それで仕留めきれなかった事へ疑問を抱いていた。
だが、その上でレインにも言い分があった。
「……ステラ王女がいた以上、こちらから接近戦は仕掛けられない」
「そう言う事か……確かに護衛を放っておけねぇからな」
グランは納得した。敵は妙な個体とはいえ、レインが接近戦すれば決着は付けただろうが、アースワイバーンがステラに狙いを定める可能性があった。
その為、よくて中距離戦が限界であり、逆に、この数相手にステラを守り通した事が凄かった。
「す、すいません……私のせいで」
「おっと……失言だった。すまねえな姫さん、別に姫さんが悪いって訳じゃねぇんだ。――さて、護衛対象の姫さんにこんな事を言わせちまった以上、俺も仕事しねぇとな」
申し訳なそうなステラに気付き、反省した様に頭を掻きながらグランは一歩前に出ると、グランソンを振り上げて攻撃態勢をとった。
実を言えば、二つ名の“剛牛”の通り、グランの技は豪快且つ強力なものが多い。
それを知っている為、レインは限られた現状で使う気かと、少し険しい視線を向けていた。
「グラン……お前の技を使えば、魔物ごと周辺が吹き飛ぶぞ?」
「ハハッ……まぁ、見ててくれよレイン。少し前に習得した技があってな。この技なら、ぶっ飛ばさずに害獣を狩れるぜ……!」
その技は、グランが前に、とある田舎町に討伐任務で向かった時に習得した技だった。
当時、田舎に出た討伐魔物ごと畑をぶっ飛ばしてしまい、グランは部下共々、畑の持ち主に激怒された事があった。
――一緒に畑を直してくれた部下たちに感謝だな。
畑は田舎の民にすれば生命線ともいえる財産。
魔物から守ってもらう為に呼んだのに、破壊されてしまえば意味がない。
だから、グランは無暗に強力な攻撃をしては駄目だと理解した。
守りたい者を守る為の力で、他者を傷付けてはいけないと思い、その想いで身に付けた技だ。
「レイン! 姫さん抱えて少しだけ飛んでてくれ!!」
「!――失礼」
「えッ!? ま、またですか!?」
グランは注意を促すとグランソンを両手で掲げ、身体中から大地色の魔力を溢れ出させた。
そして、その姿を見たレインも危険と判断した。
その為、言われた通りに素早くステラを抱えると、その場で高く飛び上がった。
――瞬間、大量の魔力が篭ったグランソンを、グランが歯を食い縛りながら全力で地面へ叩き付けた。
「剛・波動滅!!」
強烈な衝撃が地面に響き渡り、それは地中のアースワイバーン達を呑み込んだ。
『!』
――うごけない……?
土が重い。身体中に、なにか変な感じがする。
アースワイバーン達は、外側からは強烈な衝撃の余波を感じ、内側も内蔵がごちゃ混ぜになった様な気持ち悪さを感じていた。
――まずい、にげなければ。
アースワイバーン達は、今更になって異変に気付いたが、時すでに遅し。
土がアースワイバーン達を押し潰していき、衝撃が肉体を地中で破壊していった。
「どうよ……!」
グランがそう言った後、少しの時間差。
強烈な轟音と共に、アースワイバーンの空けた穴のせいもあって地盤沈下を起こし、地表もアースワイバーンの血によって赤黒く染まっていく。
そして、レインが降りた頃にアースワイバーンは一網打尽となり、その命は消えていた。
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