第18話:ステラの行動
上流へ進む程、周辺の石が大きくなり、道は歩きづらくなっていた。
あまりに酷い場合は、森の方へ遠回りして進んで行くが、それでも自然の道だ。
レインはともかく、基本的に城暮らしだったステラには過酷であり、額に汗を浮かべながらレインの手に捕まったりして進んでいく。
「……もう一度休憩しましょう」
レインも無謀に進む気はなく、ステラの体調も把握しなければならない。
その為、休憩を促すのだが、当のステラはそれを断った。
「い、いえ……まだ大丈夫です。――今は休む時ではありませんから!」
両手で拳を作り、自分は元気ですと、アピールをするステラ。
一応ではあるが、レインは彼女に飲み物は渡しており、歩きながらステラも水分補給は行うが、その歩みを止める事はしなかった。
そして時々「もう少し……」とか「この辺り……」等とブツブツと呟くステラを、レインは横目で見ていた時だ。
「む、川の音が……」
レインが違和感を聞き取った。
今まで流れに沿っていた様な綺麗な川の音が、一定の場所に来た瞬間に乱れ始めたのだ。
それは虫の知らせと言うべきか、レインは場違いな騒音となっている川の音に何か感じ、その場所へ向かおうとした時だ。
レインよりも先に、ステラが動いた。
「――ステラ王女?」
「こちらです!」
やや駆け足で急いだ様子のステラの後をレインも追うと、徐々に川の音が大きくなっていく。
発生源へ近付いている証拠であり、回り道から川へ出ると、二人の目の前にある光景が広がっていた。
「これって……」
目の前の光景に、ステラは驚いた様子で目を丸くするが、それも無理はない。
――川が
そう表現するべきか――否、どちらかと言えば
巨大な傷跡が川の形を変え、水がそれに巻き込まれて異質な音を奏でていた。
例えるなら、巨大な生き物が暴れた跡だが、レインはこれを行った犯人を察した。
「……
レインには見覚えがあった。
この川を抉った跡、それは豪快なグランの特有の技の痕だと。
おそらく、川に流されていたグランが目覚め、脱出の為に一撃放ったのだろう。
「ならば……」
レインは、川の傷痕に目をパチクリさせながら驚いているステラを連れ、周囲の木々の確認を始めた。
丁寧に木々を一本一本、レインは一周しながら丁寧に見て行く。
それはまるで、何かを探している様だが、ステラがそれを聞く前に見つかった。
川のすぐ傍に立つ一本の木。そこに隻角の牛の焼印が刻まれていたのだ。
「……グランの
レインが探していたのは、この
それは、アスカリアの騎士達が万が一や、任務の時に仲間に情報を知らせる時に使う魔法の一種。
決まった相手の魔力にしか反応しない細工が施されていた。
その為、今回は四獣将でグランの魔印であり、これに反応できるのは同じ四獣将か、その親衛隊だけでレインは条件に該当している。
ならば話は早いとレインは手に魔力を込め、撫でる様にその魔印の周辺を触れた。
すると、その魔印の下に文字が浮かび上がった。
『グラン・ロックレス。ここに生存を記す。周辺でキャンプし、周囲と生存者の探索を行う。――これを見ているって事は、無事で良かったぜレイン』
「この近くにいるか……」
グランの生存と状況を知れたレインは頷きながら手を放すと、浮かび上がった文字は静かに消えていった。
ともあれ、これでレインの目的は達成したも同然であり、ステラも達成感を抱くように元気に頷いていた。
「グラン様もご無事で良かったです……そうですよねレイン様!」
「……えぇ、そうですね」
悪い事ばかりの中でのグラン生存。
良い事が続いていた事で、ステラにも元気が戻って来たが、レインは、ステラに気づかれないように彼女を疑う様な視線で見ていた。
――都合が良すぎる。
ここまで道、それは殆どがステラが決めていた様なものだった。
レインが示す場所ではなく、ステラは自信を持って道を示し続けて、思えば最初からグラン生存にも全く疑いを持っていなかった。
――探知魔法? いや、そんな素振りはなかった。
レインは探知魔法の類とも疑ったが、ステラからは魔力を使っている様子はなく、魔法の類は一切使っていない筈。
魔法大国ルナセリアの新たな魔法とでも言われればそれまでだが、少なくともレインは納得が出来なかった。
「当然ながら秘密を持っているか……だが、それはお互い様でもある」
今は追求するつもりはない。
秘密を持っているのはお互い様であり、レインは任務に従うだけだと言い聞かせた。
利用できる内は利用すれば良い。後の分岐点が来る日までは、と。
自分が何故、ここにいるのかを自覚しながらレインは、ステラを連れてグランのキャンプへと歩いて行った。
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