第10話 AI
リリィの手は俺の胸の奥深くに埋没していた。痛みは感じない。それどころか、触れられた感覚そのものが無かった。
「これは……まさか本当に……⁉」
弾かれるようにリリィを見る。
「そのまさかです。先ほど柊さんが——あ、いえ、春ちゃんが説明してたホログラムと同じということですね」
言いながらリリィは俺の胸から腕を引き抜く。ホログラムで形を作り、AIで思考を、ということなのだろうか。
「ここにある建物も、実体のある物にホログラムを被せただけだから触ることもできるけどね」
……と、春佳が補足する。リリィがAIであることは俺の身体で証明されたわけだが、それでもまだ半信半疑のままなのは認めたくないという思いがあるからなのだろう。
「……ん、ちょっと待ってくれ。〝先ほど〟ってことは、リリィは俺たちの会話が聞こえてたのか?」
「はい。お客様へ迅速な対応が出来るよう、PLOW内の出来事はほとんど把握していてAI同士で共有しています」
「なるほど……」
「もちろん個人情報は厳守します。必要だと判断した場合のみ、それも相手の合意のもとでしか情報の開示は致しませんので安心してください」
「規約に書いてあったでしょ?」
春佳に言われて、規約書にサインした時のことを思い出す。……そういえばそんなことも書かれていたような気がする。どうせ大したことは書いてないだろうと思い、流し見してしまっていた。
「じゃあ、リリィがここの管理を?」
「いえ、私は初めて作られたAIなので指示系統が独立しているんです。他のAIとは少し違った立ち位置といえるかもしれませんね。基本的に私は紬様の
「正式名称は〝ヘルメス〟なんだけど、親しみを込めて〝ルメ〟っていう愛称で呼ばれてるんだよ!」
リリィの言葉に今度は春佳がそう補足する。
「ルメ……姿形はリリィと同じなのか?」
「いいえ。ですが、ルメに関しては他のお客様と見分けがつかなくなっても困るので、一目でそれと分かるよう、全員同じ姿形をしているんですよ。
「へえ、性格も違うのか」
「はい。そして、ここにいるすべてのAIは、最上階に展示されている〝
PLOWの頭脳、SOWISか。
……しかし、証明済みとはいえ目の前の女性がAIでホログラムだなんて、こうして直接話していてもまったく実感が湧かない。実体が無い以外は受け答えや仕草も含めて、人間と何ひとつ変わらないからそう思うのだろうが……。
「さて、私の説明も済んだことですし、そろそろPLOW全体の詳しい説明でも始めましょうか」
「いや、せっかくだけどやっぱり自分の目で見てみるよ。その方が楽しめそうだ」
「そうですか? 柊さんがそれでいいなら私からは何も言いませんが」
「ああ。まずは最上階に行って、そのSOWISとやらを見てみることにするよ」
PLOWの頭脳と呼ばれる存在がどういったものなのか、リリィの話を聞いて興味を惹かれていた。
「じゃあ、エレベーターまではあたしが案内してあげる!」
そう言って春佳が一歩先を歩き、俺とリリィが並んで歩く。
向かっているのはPLOWのレプリカがある場所。遠目からは微かにしか分からないが、扉が開閉していることから、あそこがエレベーターになっているのだろう。周囲には水が張られていて、水面には複数の
そして、その合間を縫うようにして八つのアーチ状の
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