第5話 式典
「——で、あるからして」
「はぁ、はぁ……! 間に合ったかっ……!」
ホテルから伸びた石畳を辿っていき、数分ほどでPLOW前の会場まで辿り着く。
歴史的な式典を最初から見る事が出来なかったのは残念だったが、それでもまったく見ることができないよりかはマシだと思い、後方から豪華に装飾された舞台を眺める。
壇上ではテレビで見たことのある
——その時、ふと人混みの中ある人物の姿が目に留まる。
「あの人は——」
船で見た綺麗な女性が、つまらなそうな顔をして祝辞を聞いていた。
俺の視線に気付いたのか、それとも偶然か。女性と目が合ってしまい、今度はすぐに視線を逸らす。
視界の端で女性は怪訝そうにこちらを見ていたが、しばらくして壇上に視線を戻していた。そこまでまじまじと見られるような行動は取ってないはずだが、気を付けよう。……などと考えていると、覚えのある名前が壇上から聞こえた。
「——次に紹介するのは、
司会の紹介と共に一人の老人——というには体格がしっかりしていて、若々しさを感じる——が姿を現した。
年齢が反映された七三分けの白髪と口周りの白い髭が、シルバーのビジネススーツによく映えている。科学者という弱々しいイメージは一切感じられず、ダンディな男性という印象を受けた。
「皆さん初めまして。紹介に
PLOWは多くの知識人から完成することは無い、バベルの塔の再現、神への挑戦などと言われてきました。——さて皆さん、それでは〝神〟とは一体なんでしょうか? 私は、神とは〝未来〟であり〝時〟であると思っています。個人差はあれど誰にでも与えられ、どんな時でも決して止まることなく流れ続けてゆくもの。
己に限らず、人は
……なかなか難しい話をする。
科学者ともなれば変人は多いと聞くが、その例に漏れない程度には、この無﨑という人物も変わり者なのかもしれない。周りの人たちは必死に理解しようとしているのだろうが、眉に
だが、そんな事はお構いなしといった様子で無﨑は続ける。
「〝死〟は終わりではない。灰になろうと煙になろうと、細胞がどこか別の何かに行き着くのだから終わるわけがないのです。冗談のように思うかもしれませんが、微生物から人間へと進化していったことを踏まえれば、それほど飛躍した話でもありません。
しかし、人間とはそもそもなんであるのか、元を辿れば辿るほど不思議なものだとは思いませんか? 我々の真の生みの親は一体なんであるのか——」
「あ、あの! すみません無﨑さん……」
その時、無﨑の話を遮るようにしておずおずと司会の女性が口を挟む。個人的には気になる話だったが、PLOWの式典に相応しくない内容だった為、方向修正しようとしているのだろう。
それを察してか、それとも知っていてか、無﨑は気にする素振りを一切見せず、失礼と一言口にしてから僅かに笑みを浮かべて続ける。
「私の——いえ、人類という種の最大の望みはこの世界の
それは何故か。例えば、神の不在を証明したとしましょう。その時、人類は広大な宇宙に浮かぶ一個の生命体となり、絶対的な孤独から自ら死に向かって歩みを進めることになるでしょう。逆に神の存在を証明した暁には、この世から絶対の〝未知〟が消え去り、やはり生きる意味を失うことになる。
どちらにせよ、パンドラの箱を開けるのと同様の行為。だから、私は何もかもを暴こうと考えているわけではありません。私が求めるのはただ一つの未知。先ほども言った宇宙の果てのそのまた向こう、〝果ての世界〟なのです。そして、このPLOWではそれが可能。ですから皆さんにも是非、夢と希望の——いえ、PLOWという名の新世界へ向けたノアの箱舟を堪能していただきたい。ふふっ、最終日には、皆さんが見たことの無い世界へ連れていくことを約束しましょう」
そうして一礼すると、無﨑は拍手も待たず壇上から去っていった。
随分とスケールの大きな事を言っていたが、世界中から注目される式典とあってはこれぐらい大袈裟なぐらいでちょうどいいのだろう。……尤も、この場の人間の心を掴んだかは微妙なところだったが。
「え? あっ以上、無﨑さんでした。無﨑さんどうもありがとうございます!」
司会の言葉に合わせて、
「コホン。そ、それでは、次はPLOWの基礎となる設計をしたものの、志半ばで
「霧山紬……⁉」
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