第08話 ゴブリンの夜(1)

 快晴の原っぱに、木剣の鈍い剣戟が響いた。

 ゴン! と重々しい音と共に、僕はライキとの鍔迫り合いに入る。


「ぐッ……今日こそ土の味を教えてやるぜ、ナイツ!」


「それは楽しみ。というか、剣を振る速度が遅くなってきてるよ。もうヘバったの?」


「ほざけッ!」


 木屑を散らして距離を取り、僕たちはまたも切り結ぶ。

 

 ライキと出会ってから、一年が経った。

 八歳になった僕たちは、三日に一度、剣術の鍛錬を行うようになっていた。

 きっかけは、鍛錬に出かけようとした僕にライキが連いて来たことだった。原っぱで黙々と木剣を振る僕を見て、ライキが「オレもやる!」と言い出したのだ。


 ただの興味本位だと思っていたが、素振りを重ねるごとにライキは剣術の楽しさに目覚めていったようで、いまではこうして僕と手合わせをするまでになった。

 家を継ぐための勉強ばかりで、身体を動かすことに飢えていたのかもしれない。

 もちろん。僕は杖の能力も使わず、かつ力を一割ほどに抑えて相手をしている。

 本気を出せば、両断されたあの樹のように、ライキを傷つけてしまうかもしれないからだ。


「ほら。大振りになってきてるよ、ライキ」


「う、うるせえ! 余裕ぶりやがって!」

 

 ライキには根性がある。負けん気と言うべきか。なにを目指すにも必要な資質である。

 けれどそれ以上に、剣術の才能が凄まじい。

 戦場に出ることに憧れ、魔族四天王の剣術、果ては勇者パーティーの剣技を盗み見てきた僕だからこそわかる……ライキ・レイスンの素振りの速度、体捌たいさばき、型にとらわれない状況判断能力、どれを取っても一流のソレだ。

 生粋の天才である。

 ここ一年の鍛錬で、間違いなく前世の僕は越えている。それほどだった。

 まあ。前世の僕は弱すぎたので、あまり自慢にはならないだろうけれど。

 閑話休題。


「だあッ! もう無理、疲れた! 腕が限界!!」


「今日はここまでだね……ふぅ」


 木剣を放り投げ、ドサッ、と草原に大の字に寝転ぶライキ。そんなライキの隣に腰を下ろし、僕はわずかに乱れた呼吸を整える。

 やはり【促進の杖プロモーション】の効果は大きいのか。ライキも目覚しい成長を見せているものの、現時点ではまだ僕のほうが実力は上のようだった。

 だが。これから先はわからない。どれだけ鍛錬を積めるかで実力は簡単に覆る。

 杖の能力を過信せず、追い越されないよう精進しないとな。


「……あれ?」


 ふと。蝶々と遊んでいるタマの近くに、一輪の『花』が咲いていることに気付いた。

 紫色の茎の頭に白い花弁を咲かせているソレは、ライキの母親であるミレーの慰霊碑、そこに供えられていた花と同じもののようだった。


「ねえ、ライキ。あの白い花って」


「ん? ああ、なんだ『夜見草よみくさ』じゃん。ナイツ、見たことねえの?」


「お供えもののならあるけど、自然のやつは初めて見た。珍しい花なの?」


「全然。森に行けばいくらでも生えてるぜ。まあ、こんなだだっ広い草原に生えてるのは珍しいかもだけど――それな、夜になると花弁がぼやー、っと淡く光るんだよ。森に迷ったときは、その光を頼りに森の出口を目指すといいらしい」


「へえ……夜見草ね。知らなかったや」


 魔王城の周辺は土地が荒廃しているので、花らしい花なんて生えていなかった。

 転生後も、カルラの言いつけにより森に行くことは禁止されていたので、ああして自然に生えている姿は見たことがなかった。

 黄色の腕輪を二の腕まで上げながら、ライキは言う。


「ジイちゃんの話では、夜見草は縁起のいい花らしいぜ。暗い夜になると灯り出すことから、未来を照らす『道しるべ』とされているんだとさ。メルヘンだよなー。本来は、外敵から身を守るための発光でしかねえのに」


「夢のないこと言うなあ、ライキは……」


「現実主義と言ってくれ――それよりも、さっきの手合わせだ!」

 

 ガバッ、と勢いをつけて上体を起こし、ライキは話題を移した。


「やっぱナイツはすげえよな。オレの攻撃が全然入らなかった。悔しいって気持ちより、すげえって気持ちが勝っちまうよ」


「そんな。今日のライキだってすごかったよ。いままでで一番危なかったかもしれない」


「あんな余裕ぶっといてよく言うぜ……てか、地味に気になってたんだけどさ」

 

 蝶々と遊び疲れたタマを膝の上に寝かせていると、ライキが素朴に訊ねてきた。


「ナイツの剣術って、元は誰に教わったものなんだ? 冒険者のおじさんはお前が生まれる前に亡くなってるって話だし。まさか、カルラおばさんに教わったわけじゃねえよな?」


「あー、えっと……」


 魔族四天王や勇者パーティーの剣術を盗み見て、それを僕なりにアレンジした――

 なんて言えるわけがないので、ここは適当な言い訳をしておくことに。


「が、我流ってやつ? フィーリングで剣を振ってる、みたいな?」


「なッ……す、すげえ!! お前天才かッ!? あんな隙のない剣技を感覚でやってんのか! 本当にすげえ! ナイツはマジモンの天才だ!! 天才・ロードウィグだな!」


「うん、もうその辺にしてもらっていい? なんか恥ずかしくなってきた……というか、それを言うならライキの剣術だって」


「オレ? オレのは完全にナイツのパクリだよ。お前の剣術を見よう見まねでやって、合わないところはオレのやりやすい動きに変えてるってだけ」


「……それだけで、あんな上達したの? たった一年で?」


「? まあ、そうだけど」


「……この天才雷小僧め」


「ぶわッ! 悪い、風が吹いてちょうど聴こえなかった。なんて?」


「なんでもない」

 

 拗ねるように言って、僕は視線を青空にそらす。

 次の手合わせでは力を二割ほど出してやろう、そうイジワルに思った僕なのであった。



    □



 ライキと剣術の鍛錬をした翌日のこと。


「おーい、そこの坊や」


 原っぱで剣の素振りをしていると突然、見知らぬ男性が声をかけてきた。

 黒の総髪に無精ヒゲ、だらしなく着崩された制服。年齢は三十代前半といったところか。

 その中年男性は、なぜか目元を黒い布で覆っていた。


〈……あの人、スイカ割りでもしてるんスかね? あるいは、ハチマキがズレ落ちてることに気付いてないとか?〉


〈シュールすぎるでしょ、それ――いや、それよりもあの人〉

 

 視界を塞いでいるのに、どうして僕のことがわかったんだ?

 そんな僕の疑念もよそに、男性はフラつくこともなく歩を進め、正確に僕の前で止まった。

 見えていないはずなのに、完全に見えている動きである。


「急に悪いね。鍛錬の邪魔しちまって」


「いえ、大丈夫ですけど……その目、怪我でもしてるんですか?」


 気になって思わず訊ねてみると、男性は黒布の端をつまみ「ああ、コイツかい?」と飄々と語り出した。


「数年前の討伐任務でヘマしちまってね。とある魔女に両目を『魔眼』にされちまったのさ。おかげで年中不審者あつかい。難儀な話だよ、まったく」


「魔眼?」


「そう。見ただけで相手を動かなくさせちまう、怖ーい魔眼さ。んで、この布っきれはその魔眼を封じる『黒魔布くろまきん』って魔道具でね。魔眼の能力だけを遮断する優れものなのさ。だから、こう見えても視界は普通にクリアなんだぜ? 坊やの顔もよく見える。そこのかわいい猫ちゃんもね」

 

 僕の足元に寄り添うタマを見て、ひらひら、と手を振る男性。確実に見えているようだ。


「へえ……便利なアイテムですね」


「不審者に見られちまうのが玉にきずだが、まあ便利は便利だよ――っと、悪い。話がそれすぎたな」

 

 区切って、男性は話を本題に戻した。


「坊やに声をかけたのはほかでもない。ちょいと訊きたいことがあったからなのさ。きみは、このモナルーペ村の子供だよな?」


「? はい、そうですけど」


「OK。じゃあ、最近この村でおかしなことは起きなかったかい? 村人のきみが感じた限りの、ささいなことでいい」


 穏やかだった男性の語調に、わずか緊迫感が滲む。

 タマと目を合わせたのち、僕は首をかしげながら。


「いえ、特には起きてないと思います」


「村を囲っている柵や家の壁に、変な『しるし』が刻まれていたりは?」


「印? いえ、それもないかと……」


「そうか……うん、それならいいんだ。よかった。教えてくれてありがとうな、坊や」

 

 剣の稽古、がんばってな。

 そう言い残して、男性は早々にきびすを返した。

 外見はたしかに不審者のソレだが、話し方や雰囲気は悪人のものではない。先の質問に悪意はないと見ていいのだろうが、しかし。


〈……なんだったんスかね? ご主人〉


〈……うん、なんだったんだろうね〉

 

 男性の背中から視線を外すと、僕とタマは再度見つめ合い、「?」と首をかしげた。



    □



 それから三日後。

 僕とライキは、夕暮れに染まるあぜ道を全力疾走していた。

 まさかこんなに鍛錬が長引くとは。このままではカルラに叱られてしまう。

 まあ、半分は僕のせいでもあるのだけれど。

 というのも。先日の予告通り、僕が二割の力を出して圧勝すると、ライキがムキになって何度も再戦を挑んできたのだ。

 さすがに大人げなかったと反省している。


「ライキ、早く! お母さんに怒られちゃうよ!」


「く、クソ……手合わせだけじゃなく駆けっこでまで負けるのか、オレは!」


「悔しがってないで、いまは走ることに集中して!」


〈本当、負けん気だけは一人前っスねー。ライキの坊ちゃん〉


 呆れた様子のタマを抱えながら、僕は納屋に木剣を置くと、ライキと共に家の玄関を開けた。

 よかった。全力で走ってきたおかげで、ギリギリ陽が落ちる前に帰宅することができた。


「お母さん、ただいま帰りました!」


「……おかえりなさーい」

 

 僕たちを出迎えたのは、ふてくされた顔のカルラだ。


「随分と遅かったね……あーあ、私、陽が高いうちに帰るようにって言ってあったのになー。約束を守れない悪い子たちは、スペシャルな晩ご飯抜きにしちゃおうかなー」


「なッ……そんな、カルラおばさんの晩ご飯が、オレの鍛錬終わりの唯一の楽しみだったのにッ!! うぅ、あアあぁぁ……世界の終わりだッ!」


〈本気で泣いてる……絶望しすぎじゃないっスか、ライキの坊ちゃん〉


「あ、あの、帰りが遅くなったのは僕のせいなので、ライキの晩ご飯は抜きにしないであげてくれると……」


「――まあまあ。許してやりなよ、カルラの嬢ちゃん」


 突然。そんな低い声が響いた。

 声のしたリビングに向かうと、そこには、あの目隠し中年男性の姿があった。


「男の子なんてのは、帰りが遅くなってナンボみたいなところあるんだから。むしろ褒めてやらないと。俺とダイのガキの頃なんかもっとひどかったぜ? 十歳のときにはもう街に夜遊びに行ったりしてたんだから」


「シデンくんは黙ってて。というか、私は別に本気で食事抜きにするつもりじゃあ……」


「あの、お母さん……その人は?」

 

 話の流れから、カルラの知り合いであろうことはわかるが、いまだ正体は不明だ。

 カルラの背後に隠れつつそう訊ねると、男性が僕のほうに顔を向けて「おや?」と驚きの声をあげた。


「よく見たら、あのときの坊やじゃないか! そうか、きみがダイの忘れ形見がたみのナイツくんだったのかい。どうりで。はじめて見たときからなんかダイの面影があるなと思ってたんだよ。久しぶり、三日ぶりかな?」


「は、はい。お久しぶりです……それで、あなたは?」


「え? ああそうか。あのときは村の安否確認のことばかり考えちまってて、俺の自己紹介もしてなかったな。これは失敬」

 

 んん、と咳払いを挟み、男性は告げた。


「俺の名前は『シデン・リュウソウ』。モナルーペ村の南東にある街『アイドラルン』の騎士団で副団長を務めている、若くてピッチピチな三十二歳だ。気軽にシデンって呼んでくれ」


「……若くてピッチピチ?」


「なんだその不思議そうな顔。スタイルもよくてピッチピチだろ? 騎士団の制服をここまでスマートに着こなす三十代なんて、ワイドパレンズ中を探してもそうそういないぜ?」

 

 どやぁ、と自慢げに胸を張る男性――シデン。

 たしかに、騎士団に所属しているだけあってスタイルはいいけれど、ピッチピチという古い単語を使っている時点で、若くはないように思う。

 精神年齢三百五十歳越えの僕が言えたことではないけれど。





 そうして。

 なんとかカルラの許しを得て、晩ご飯ができるのを待っている最中。僕とライキは、突然の来客者であるシデンと様々な話をした。

 シデンは僕たちと同じこのモナルーペ村の出身で、父であるダイ・ロードウィグとは子供の頃からの腐れ縁だったそうだ。

 カルラ、そしてライキの母親であるミレーとも、幼少期からの長い付き合いらしい。


〝――遊び場を巡って、村に住む『年上の男の子』と喧嘩したこともあったな――〟


 なるほど。その年上の男の子がシデンだったわけだ。

 いまでこそ落ち着いて見えるが、子供の頃はヤンチャしていたようである。


「今日は、ダイとミレーの墓参りをしてすぐアイドラルンに戻るつもりだったんだが、運悪くカルラの嬢ちゃんに捕まっちまってね。『晩ご飯だけでも食べていきなよ』ってうるさいもんだから、こうしてご相伴しょうばんにあずかったってわけさ」


「なるほど。そんな経緯があったんですね」


「まあでも、偶然であれなんであれ、こうしてきみたちに会えて嬉しいよ。最近まで騎士団の仕事やら魔女討伐やらで忙しくて、きみたちの顔を見に行く暇すらなかったからさ。ようやく、大事な親友たちの忘れ形見に会えた。本当、こんなに嬉しいことはないよ」


「僕たちも、シデンさんに会えて嬉しいです」


「ナハハ。敬語だけじゃなく、お世辞までマスターしてるとは。しっかりしてるなあ、ナイツくんは――あっと、そうだ。ところで、ライキくん」


 ふと。シデンが思い出したかのように、ライキに話題を振った。


「さっきカルラの嬢ちゃんから聞いたんだけど、きみも『雷人間』なんだって? 同じ村からってのも驚いたが、まさかミレー嬢の息子が『ふたり目』になるとは思わなかったよ。これも運命ってやつなのかね」


「きみ『も』って、まさかおっさん……」


「そう。俺がその『ひとり目』なのさ」


 シデンが右手を上げると、五本の指先にバチッ! と一筋の電撃が走った。

 目を見開く僕とライキ。タマも僕の膝の上で驚いている。


「俺もライキくんと同じく、昔っから電気を溜めやすい性質でね。気付いたら『雷光らいこうのシデン』なんて痛々しい通り名で呼ばれちまってた。俺が副団長なんてクソ面倒くさい地位に就いてるのも、全部この性質のせいさ。ある意味、この魔眼よりも難儀な話さね」


「雷光のシデン……」


「ライキくん。きみ、いつもなにかを触るときに、静電気が起きてないかい? そのたびに、その金属の腕輪を触って放電をしている、とか」


「ど、どうしてそれを……もしかしておっさん、オレのストーカーかッ!?」


「ナハハ! 褐色肌だけじゃなく口の悪さまで母親譲りだな。まあ、同じ雷人間同士だからね。ライキくんの悩みはストーカーなんかより熟知してるさ。もちろん、それの『対処法』も」


「対処法? この電気ってなくせるのか?」


「なくすことはできないかな。でも、極力抑えることはできるようになる。雷人間云々の話をしたのは、それをきみに教えたかったからなのさ」


 右手から左手へ電撃を巧みに移動し、制御しながら、シデンは言う。


「いまのライキくんは、言わば蛇口じゃぐちを全開にしている状態だ。身体に蓄積された電気が、溜まる間もなくドバーッ、と常に外に流れ出している。静電気をなくしたいのなら、この蛇口を閉めてやればいい」


「どうやって?」


「頭の中で『イメージ』するのさ。四方八方にビリビリ飛び出てる電気を、身体の中心、心臓の辺りにギュッと集束させていく感覚だ。最初は手こずるだろうが、その感覚を掴めれば静電気レベルの漏電はなくなるはず……って、嘘だろ?」


「おお、本当だ! ビリビリしねえ!」


 ほんの数秒だけ目をつむり、シデンの教えを実行すると、ライキの身体から静電気が消えた。

 僕と握手をしてみてもビリっとしない。


「すげえな、おっさん! こんな方法があったなんて知らなかったぜ! ありがとな!」


「……喜んでもらえてなにより。本当は、一ヶ月ぐらいかけて習得していく感覚なんだけどな。天才肌ってやつか――ともあれ、その感覚はしっかり覚えとくといい。ある程度慣れれば、俺みたいに電撃を自在に操ることもできるようになる」


「わかった、練習しておく!」


「それと、最後にひとつ」


 すこし真剣な声音で、シデンは続けた。


「いま教えた『制御』のイメージとは逆、蛇口を開いて放電する『解放』のイメージだけは、絶対にしないことだ。無駄な漏電がなくなった分、ライキくんの身体はこれまで以上に電気をたくわえやすい状態にある。感覚に慣れてない現在の状態で『解放』すれば、身体中の電気を全部放出しちまうことになるからな」


「電気を、全部……」


「良くて失神、最悪神経に支障をきたす怖れもある。『制御』の感覚に完璧に慣れるまでは、『解放』はしないことだ。わかったかい?」


「お、おう……わかった、気をつける」


「ナハハ。口は悪いくせに意外と素直なんだな。そんなところまで母親譲りとは……本当、ミレー嬢にそっくりだ」

 

 言って、シデンはライキの左手首、ブカブカの黄色の腕輪に顔を向ける。

 遠き日を懐かしむような、それはそんな表情だった。


「ライキくん。その腕輪、大切にしろよ。ミレー嬢が子供の頃からずっと愛用してた宝物だ。お金には代えられない、母親の愛が詰まった代物だぜ」


「……でも、もう片方の腕輪が」


「らしいな。でも大丈夫さね、そっちもすぐに見つかる。こういうのは案外、忘れた頃にひょっこり出てくるもんさ」


「みんなー、ご飯できたよー」


 と。ここで、カルラの晩ご飯の完成を告げる声が届いた。

 僕たちは話を切り上げて、意気揚々とテーブルに向かう。

 

 その直後だった。


「――カルラや! カルラはおるかッ!?」


 そんな大声と共に、玄関の扉がドンドン、と強く叩かれた。

 この声は、隣に住むおじいさんだ。こんな時間にいったいなんの用だろう?

 食事を運んでいたカルラが玄関に向かい、扉を開ける。


「はいはい。私はちゃんといますよー。こんな時間にどうしました?」


「おお 無事じゃったか! 子供たちもおるようじゃな……ああ、本当によかった。あんな、おぞましいものが刻まれておったから、急いで村のみんなに報せねばと思うて……」


「? なにかあったんですか?」


「急いで逃げるんじゃ!」


 ひどく狼狽しつつ、おじいさんは叫ぶ。


「この村に、ゴブリンの群れが来るぞッ!!」

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