第2話 成長の道


 ついに旅立ちの街を飛び出したグレン。


 街の出口付近は多くの冒険者で溢れ、モンスターが湧くのを待つ時間も惜しい彼は、その飛行能力を生かし、街から離れた場所に来ていた。


「街の出口近くと同じモンスターが出るのはこの辺りまでか...」


 遠目には明らかに、雰囲気の違う者たちが闊歩しているのが見える。

 グレン感覚的に理解した。アレらにはまだ敵わないと。


(説明されてない部分で何かあるのかもしれないが、これを頼りにモンスターへ挑んだ方が良さそうだ)


 と、飛んでいる彼の元に高速で何かが飛来する。


 ブウォンッ


「うわっ!?」


 慌てて旋回して避け、下手人を睨む。


 鳥型のモンスター『スカイハンター』との戦闘が始まった。


「クェエエ!!」

「最初が飛んでいる相手とは、なんとも奇遇だな!」


 相手の名前の下に表示されている生命力は10/10

 序盤の敵らしく、今のグレンでも勝てる自身はあった。


「クェエエッ!」


 鋭い鳴き声と共に、錐揉みしながら突っ込んでくるスカイハンター。直線的な動きを翼を翻して避けるグレン

 攻撃の後に隙が出来たのを確認したグレンは、もう一度来た同じ攻撃を避け、魔法を使う。



「"幼竜の息吹"!」


 自身の口元に風が集まる。

 狙いは翼の付け根、機動力を奪えば攻撃能力は無くなるだろう。


 バシュンッ


「グワッ」


 しかし、狙いは正確に定まらずスカイハンターの胸元を掠めるに留まる。


(逸れたっ!)


 幼竜の、短くも自身にとっては長い首が、飛んでいる事と衝撃によってブレてしまったのが原因である。


(現実で火を吐くのとは訳が違うな...)


 竜人であるグレンは火を吐く事が可能であるが、現実のようにはいかないと歯噛みした。

 人型の竜人と竜の違い。そして、火は自身の肺から生み出される物に対し、今回の魔法は口元に風を集めるものであったという違い。


「仕方ない!」


 生命力を削っても有効打になり得ないと判断し、近接攻撃に切り替える。


 飛行自体は現実とさほど変わらない。

 多少のバランス感覚は違えど、生まれて80年ほど慣れ親しんでいるのだ。


(腕に皮膜があるタイプの竜じゃなくて助かったな。ありがとうございますアナザ様)


 縦横無尽にスカイハンターに突撃し、ついに生命力を削りきった後、グレンはアナザに感謝するのだった。




 ────



 はじめての戦闘を終え、俺は竜の体の性能を大方把握した。


 爪と牙は頼りにならない。

 引っ掻いたり噛み付くより、スピードを乗せた体当たりの方がダメージが入っていた。その分こちらにもダメージは入るが、生命力の差がある相手ならこちらが有利だ。

 ブレスに慣れることも急務だろう、遠距離の攻撃手段が無ければ、自分より素早い相手に詰んでしまう。


「今度、アイツに聞いてみるか...」


 知り合いである、太った竜の顔を思い浮かべる。


「お、そうだ!何か手に入ったかなぁっと"状態分析"」


 ステータスを見ると、いくつか新しいものが出現しているのを見つけ、一つ一つ素早く確認していく。


 取得可能職業

狩る者ハンター

 取得条件:獣を狩る


 魔法欄

『鳥のさえずり』-2

 美しい声で鳴くことが出来る。

 取得条件:鳥系モンスターの討伐


 "new"アイテム欄


 職業も、魔法もあまり喜べるものでは無かった。祈るようにしながらアイテム欄を開く。


 鳥の羽 ×1


「まあ、そんなもんか...」


 しかし、出なかったものは仕方ないと頭を切りかえる。やるべき事は見えてきた。早めに動くべきだろう。


 ふわりと飛び上がり、向かうべきは『アルファラ』だ。



 ──────



 アルファラの門付近では相変わらず、冒険者の数が多かった。湧き出たモンスターが瞬く間にリンチを受けている。


「あれじゃ、自分に何が足りないか把握するのは無理だな。数の暴力だ」


 改めて離れて戦闘をして良かったと考える。1人で戦わなればモグラ叩きのような作業で一日が終わっていただろう。


 目的の場所は空から見ると簡単に見つかった。

 店先に降り立ち、店主に声を掛ける。


「ごめんください」


 店主は俺を見ると、無精髭を揺らしながらニコリと笑った。


「おう!竜族の子供とは珍しいな?ウチの店に何の用だ?」


「装備を揃えたいんだけど...俺みたいなヤツ用のものはある?」


 レベルなどの、ひたすらにモンスターを倒し続ける事で強くなる要素はこのゲームには無い。

 というより、様々な要素に条件が設定されており、明示されていない関係で、強くなるのには運の要素が絡んでいる。

 その点、確実に強くなることが保証される装備は、真っ先に手をつける部分だろう。


 俺の問いにドワーフの店主は豪快に笑った。


「ガッハッハッ!旅立ちの街『アルファラ』を代表する武具屋だぞ?一通りの種族用の物は揃っとる」


「良かった。じゃあ、竜族用の装備を見せてくれ。一番安いものでいい」


「まだ、はじめたてって所か?ならあそこら辺がいいだろう」


 店主はそう言うと、店の奥に入って行く。

 やがて戻ってきた店主は店のカウンターに装備を並べていく。


「初心者の竜族にはコイツらがオススメだな」


 並べられた装備を見ていく。


 レザークロウ- 100コイン

 武器-爪

 耐久力100/100

 革製の手甲に鉄で出来た爪をつけた簡素な武器。


 レザーヘッドギア-80コイン

 防具-頭

 耐久力100/100

 頭を守る革製の防具。


 レザーアーマー-150コイン

 防具-体

 耐久力100/100

 体を守る革製の防具。


 鞍- 30コイン

 装飾品

 身につけた者に騎乗が可能になる。



 自身に最初に与えられているお金と、装備の値段を見比べる。


「装備を入手する手段は、この街だとこの店だけ?」


 今持っているお金だと、鞍を除いても全部買うには足りない。


「依頼の報酬で、装備を渡す酔狂なやつも居なくはないが、基本的にはここでしか買えないな。別の街に行けば鍛治屋もあるが、値段で困っているなら、鍛治の方が高くつくぞ?」


 まじか、ドワーフなら鍛治をやっているかもと期待したんだが。


「分かった、今120コインあるんだが、オススメはある?」


「それなら、武器を買った方がいい。幼竜の肉体は他の種族よりいくらか硬いが、攻撃能力は高くないからな」


「ありがとう。そうするよ」


「毎度!お前さんが強くなった頃にまた来な!」



 購入を選択すると、カウンターに置いてあった装備が消える。


「おぉ...」


 先程よりもサイズも形も違うが、俺の手には装備が装着されていた。


(体に合うように変形するのか、便利だなこれ)


 鈍く光る鉄が、妙に格好よく見える。

 これで、近接攻撃もある程度のダメージが期待できそうだ。

 先程、店主が依頼の話をしていた。防具も欲しいので、これに乗らない手は無い。




 俺は広場にある掲示板に向かうのだった。







─────────────


おまけ設定


アルフィアの武具店

ドワーフの店主が経営するこの世界で初めに訪れるであろう装備屋

最初の街にあるだけあって、性能は低いが全種族向けに装備を揃えている。

成長した後に訪れると、アイテムをくれるらしい。



『狩るもの』

獣系のモンスターを倒すことで取得可能になる比較的簡単に解放される職業。

成長・変化の幅も広く、最初に取得する冒険者も多い人気の職業。




『鳥のさえずり』

鳥系のモンスターにモテる



鳥の羽

ただの羽

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ドロウ・ザノア マゴステラ @dejin042

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