第1話 冒険のはじまり
真っ白に染まった視界が開け、目の前に女型の天使族のような存在が現れる。
「ようこそ、新しき冒険者。私はドロウ・ザノアを管理する女神『アナザ』。あなたの名前を教えてください」
アナザという名前には聞き覚えがある。
(ゲーム発表時に説明があった、このゲームを管理する高度知能精神体...だったか?)
名前はプレイヤーネームのことだろう。以前から考えていたものを伝える。
「
オルテンガルム戦記に出てくる、世界を統べたと言われる伝説のドラゴン。そして、俺のご先祖さまでもある。
彼のように伝説に残るようなドラゴンになるのがこのゲームでの目標だ。ここは存分にあやからせてもらうとしよう。
「黒龍帝、その存在は既にこの世界に旅に来ています。あなたの本当の名前を教えてください」
(被っているのか。せっかくだから憧れの名前にしたかったんだけど...普通に名前にするか)
「じゃあ、グレンで」
それを告げるとアナザはニッコリと笑った。
「グレン、良い名前です。その名前がこの世界でり輝くことを祈ります。では次にあなたの魂の色を教えてください」
(こっちは被ってないのか..)
アナザがそう言うと、様々な色の着いた炎のようなモヤが俺を中心にボボボボと次々広がっていく。そのうちの一つに近づくと、うっすらとヒューマンの男の姿が映し出された。
「種族を選ぶのか、これが噂の...」
このゲームが世界中を引きつけてやまない理由の一つ、それが異なる種族で生活が出来る点である。
例えば、空を飛べない種族が翼のある種族、あるいは飛行魔法を使える種族を選べば、空を飛ぶ事ができる。
ただ生きているだけでは実現しようがない夢、それをこのゲームは叶えてくれるのだ。
そして、俺も。
「あった、竜族」
近づいた俺に反応するように、小さな竜の姿が映し出される。
「女神アナザ様。この色です」
俺がそう告げるとアナザはまた微笑んだ。
「強靭な体を持つ竜は、その身に強大な力を宿します。しかし、1人前になるには長い時を過ごすでしょう。その色でいいですか?」
強力だが成長が遅くなっているという事だな。
「構いません」
「わかりました。では、あなたの旅は原初の姿から始まります。思い出してください、あなたの原初の姿を」
再び目の前に幼竜の姿が映し出される。
(容姿決めだな。なるべく強そうな顔がいいが、これじゃイケメンすぎるか...)
30分経過
「よし!これでいいだろう。女神様、お願いします」
目の前には透き通るような水色に全身を染めた幼竜が映し出されていた。黒龍帝の名前が使えなかった以上、自分の色に近づけた結果だ。
「では、あなたを世界に送り届けます。冒険者グレン、あなたの旅路に幸福があらんことを」
これで最初の設定が終わりか。
やがてアナザが転送魔法を唱え、目の前が再び白に染まる。去り際に手を振っていたアナザの様子が妙に印象に残った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ようこそ!旅立ちの街!『アルファラ』へ!」
こんな喋り方の精霊にイラついた事はある?
何回も名前を聞いてくる女神との対話を終え、いざゆかんドロウ・ザノア!と身構えた次の瞬間、感嘆符を連発する精霊によるチュートリアルが始まるのだ。
だけど、イラつくからといって話を聞き流してしまったら、あなたは愛玩動物になって終わるだろう。
「
このゲームで1番重要な魔法だ。半透明の板のようなもので自身のステータスが見れるようになる。
例えばこんな風に
〜〜〜〜〜〜
名前:グレン
性別:雄
種族:竜族
固有種:ベビードラコ
生命力:32/32
魔力:3
職業:無し
装備:無し
魔法
〜〜〜〜〜〜
そこから始まるのは感嘆符にまみれたチュートリアル。
文字起こしをすると私の頭が感嘆符でおかしくなってしまいそうなので、簡単なものは箇条書きでまとめる。
・名前、種族は最初に決めたものと同一
・性別は魂接続の時に自動的に決められている
・生命力は文字通り尽きたら最後に訪れた街に飛び、しばらく街から出られなくなる
・装備は現在の装備
そして、ここから書く情報を必ず覚えておかなければ、あなたは必ず後悔する事になる。
固有種と職業について
固有種は、種族という大きなくくりから派生する小さなくくりだ。様々な条件を満たす事によって『進化・変異』が可能になる。
職業も固有種同様条件によって『成長・変化』が可能になるのだが、職業を取得すると固有種としての『進化・変異』は不可能になる。
それぞれが決まった能力値を持ち、固有種、職業によってバラバラ。雨後の筍のように生えてくる固有種と職業、あなたは選択の自由に溺れる事になるだろう。
種族:ヒューマンを選ぶと固有種が少ない代わりに職業が非常に多いように、種族によっても差がある。
魔力・魔法について
魔法は様々な追加特性や、現象を引き起こすもので。
現実の魔法とは異なり、自身の魔力を使用して魔法を使う訳では無く、生命力を使用する。
各魔法に魔力量が決められており、合計が自身の魔力量上限の値以下になるように魔法を覚えることが出来る。もちろん魔力量が高いほど価値の高い魔法を使えるが、その分生命力を削り、危険になるという訳だ。生命力を使用しない魔法もあるが、固有種特有のものが多い。
魔法欄にはこのような感じで魔法が表示されるはずだ。
〜〜〜〜〜
・飛行(翼)-0 翼を使用した飛行が可能になる。
・幼竜の息吹-2 口から風の塊となったブレスを吐く。
〜〜〜〜〜
魔法も当然、条件を満たす事でしか習得できない。
なんて事だ!
様々な条件を満たさなければあなたは強くなることが出来ない事実に気づいた!
能力値は、条件を満たして固有種や職業によって成長させる事しか出来ず。
その手助けをしてくれるはずの魔法も条件を満たさなければ覚えることが出来ない。
更にリスクのおまけ付き。
このままでは冒険を始めた瞬間BADENDだ!
慌ててステータスを全部見てみると職業の欄に獲得可能な職業がある。
おお、これは天啓だ!
この職業を育てろという。女神『アナザ』の思し召しに違いない!
「冒険とは!得てして困難なものです!苦労を超えた先に!成長と達成感が待っているのです!」
あなたは愛玩動物になった。
なんてことのないよう。
────ドロウ・ザノアの歩き方
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「わかった、説明はこれで終わりかな?」
「最後に一つ!1年に1度だけ!輪廻転生をすることが出来ます!己の道を!間違ったと感じた時に!使用してください!」
(救済措置か、まあ使うことはないだろう。というかうるさいなこの精霊)
「では改めて!良い旅を!」
──────
部屋の扉が開かれる。
足を踏み出した瞬間、その賑やかさに圧倒された。
旅立ちの街と呼ばれるらしいこの場所は、まさにその名の通り、多くの異種族たちが集まり、活気とエネルギーに満ち溢れていた。
石畳の道には様々な露店が並び、行き交う冒険者たちの声が響き渡る。
ヒューマンの給仕が食事を配っている。ドワーフの鍛冶屋が武器を磨いている。彼らの間を、妖精たちが飛び回り、それを追いかけて犬が走る。
耳をさすのは、冒険に浮き足立つ若い声、商品をアピールする店員の高い声、終わった冒険の武勇伝を語る野太い声。誰もがこのゲーム...この世界に生きていると実感できるほどに、その顔には活力が溢れていた。
(これが、ドロウ・ザノア...)
胸の中で呟いた。現実の世界ではありえない、他種族が並び立つ姿。先程と変わらぬハズの背中の翼が軽く感じ、思わずバサリと飛び上がる。
風を切る己が化身。
水の出る噴水をくぐり抜け、妖精を追い越しピエロの持った風船に乗る。冒険者たちの間をスルリスルリと、喧騒の中を飛び回る。
仮想空間と思えないほどに、五感が刺激されている。
(気持ちいいな...)
ふと、自分がこの場所にいる理由を思い出した。自分の目標は、ご先祖さまである黒龍帝のような偉大なドラゴンになること。その夢を実現するためには、この街から出て冒険を始めなければならない。
(街の出口は...あそこか)
空から見つけた出口に向かいながら、周りを見回す。よく見ると旅立ちの街だけあって、似たような格好の冒険者が多い。しかし、そうでは無い冒険者もチラホラいるようだ。
勧誘か何かだろうか?
〜〜〜〜〜
「おぉーっと!強い、強いぞこのヒューマン!大食い選手権、オーク族を退け優勝したのは、『裏飯屋』選手!!感想を一言どうぞ!」
「おかわり!!」
〜〜〜〜〜
「おっとごめんよ、妖精か、気づかなかった。」
「なるほど..これが見下ろされる感覚。踏み潰される感覚...悪くない!悪くないぞぉおおおお!!」
「ひっ!?」
〜〜〜〜〜
「クハハハハハハッ!見よ!『ミッシェル』!吾輩は遂に太陽を克服したのだ!!いや、それだけでは無い...むしろ太陽を浴びるほどに力が湧いてくる!」
「流石です『グランツェ』様」
「この力なら必ずや一族の悲願も叶うだろう。征くぞ!」
「どちらへ向かいますか?」
「欲しがるヤツめ!無論、あの太陽に向け進軍だ!」
「仰せのままに」
〜〜〜〜〜
「どういう事だ!私は、空を飛ぶために鳥を選んだはずだ!全然飛べないぞ!」
「ペンギンは飛べないでしょ...」
「こんなに可愛いのにか!?」
「そんなに可愛くない...」
〜〜〜〜〜
それぞれの冒険に向け、動き出す者たち
彼らが会合する日は来るのか。
「待ってろ!ドロウ・ザノア!」
空に同化する水色の軌跡。
ドラゴンロードの始まり
─────────────────
おまけ設定
『オルテンガルム戦記』
勇者という名のヒューマンをリーダーとした一行による、旅と戦いの記録。一行、そしてその子孫は、後に世界連盟を作ったが記録には残っていない。多くの種族が登場する冒険譚は閉鎖的になった種族観からはとても信じられず、世間にはおとぎ話と思われている。同作の普及により、この時代は多くの創作で取り上げられ、人気ジャンルとなった。
最近黒龍帝と勇者のラブストーリーが映像化し、大ヒットした。
『愛玩動物』
誰でも取得出来る職業、取得した時点で一番近くにいるNPCとの主従契約が結ばれる。
主人が死ぬ、または契約が破棄されると、『孤独な獣』という職業に変化。
あらゆる身体能力が向上する代わりに、常時発動型の『捨てられた』という魔法を習得する。
『捨てられた』
何の役にも立たないお前は捨てられた。
生命力の回復が不可能になる。
開発者の1人の"美女のペットになりたい"という欲望から作られた職業
誰でも取得が可能であったため、チュートリアルで精霊と主従関係を結ぶ事例が多発。
精霊はチュートリアルを終えると"消える"ため、チュートリアル直後に『孤独な獣』となって詰みとなったプレイヤーの報告により。サービス開始3日で削除され、輪廻転生がシステムに追加された。
なお、『孤独な獣』を作ったのはアナザである。血も涙もない。
時折、チュートリアルの部屋から謎の声が聞こえるという報告が上がるが、輪廻転生したプレイヤーの恨みか、欲望を叶えられなかった開発者の嘆きか。
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