第3話 馬車旅って暇

「セス、これって普通かな」


「どうかなさいましたか?」


「見てこれ」


 俺は馬車から降りると遠くの木に向けてを放った。

 俺の手のひらからは風が吹き荒れ遠くにあった木に傷が入った。

 魔法使いというのに憧れて母親から借りた魔導書を読み漁り馬車の移動時間を費やした結果少し魔法が使えるようになったのだ。


「か、カイル様、どこで魔法を」


「これ、母さんがくれたんだ、20日もあれば基礎くらいできるからね」


「シュエラ様がですか……魔法は普通、学園で習得する物なんですよ、独学で使うなんて聞いたこともないですからね!?」


「せ、セスが驚いてる!?」


 セスが驚いているところなんて生まれて10年見たことがなかったのに魔法を使うだけでここまで喜ばれるとは……

 もっと使ってみようかな、闇魔法とか凄いよ?

 闇の魔装っていうの? ほら、闇を纏って身体強化みたいなのできるんだよ凄くね?

 光魔法は使えているっぽいんだけど怪我の治癒とか怪我人いないからわかんないし。


「て、敵襲!!」


「カイル様!! 早く馬車へ」


 マジか、王都に近い場所なのにこんな盗賊まがいの奴がいるのか?

 うちの護衛は辺境伯で質が高いのだ、余程のことがなければ負けないはず……


「か、数が多い!!」


「隊列を乱すな! 馬車へ矢を通すなよ!」


 ま、不味そうな悲鳴が聞こえるんだが?


「っ、私も行って参ります」


「セス!!」


 おいおい、あのセスが焦ってるって相当状況が悪いんじゃないのか?

 窓の外を見れば数名の騎士が倒れており、セスが全線で指揮をとっているのが見えた。


「俺のせいか……」


 騎士たちの動きは洗練されている、俺を守る為に護衛なれしている騎士をつけてくれたようだ。

 しかし、賊の数が多くリーダーらしき人物が騎士を圧倒している。


「回復……できるのか?」


 やるしかないのだろう、馬車の近くには怪我で動けていない騎士が退避させられている。

 その騎士が動けるようになって俺の心配をする必要がなくなればきっと勝ってくれる。


「鍵!? セスめ、俺のことなんてお見通しかよ!!」


 馬車には鍵がかかっていて無駄に頑丈なこの扉はびくともしない。


「頼むぞ、闇魔法!! うぉぉぉぉぉぉ!!」


 手に闇を纏い本気で馬車を殴りつけた。

 数発殴れば少し扉が歪み本気で蹴り込めば俺が通れるほどの穴が空いた。

 何とか穴を通り抜けて外に出ると戦いの空気が直に感じられた。

 誰もが死ぬ気で戦っている、文字どうりのを前世も含めて初めて直で味わい足がすくみそうだ。


「大丈夫か!?」


「カイル様!? 馬車にお戻りください」


「まだ軽傷の者を教えてくれ」


「私と、あそこで介抱している2人です」


「傷を見せてくれ」


 彼の太ももは大きく切り裂かれており包帯で止血だけの処置だ。

 まずは水の魔法で傷を洗うべきだろうか? 分からないことだらけだがやれる事は全てやるべきだろう。

 洗った傷を光魔法で治癒するとみるみるうちに傷は癒えていった。


「マジか……そうだ、動くか?」


「はい! これで前線に復帰できます!」


「いや、俺をそばで守ってくれ」


「騎士たち! 俺の心配は一切しなくて構わない! 後ろを見ずに全力で戦え!」


「「「「うぉぉぉぉぉぉ!!」」」」


 おうおう、父さんたちの騎士は強いって事を見せつけてやれ!!

 全力で戦えればそんな奴らに負けるはずがないだろう。

 俺は騎士くんに背後を守って貰いながら、次の騎士の治療を始める。


「流石にこの重症じゃ、どうしようもないか」


 重症の者は流血を止めるので精一杯、軽傷の者は動けるくらいには回復してくれた。

 そろそろ向こうも決着がつく頃かな?


「我々の勝利だ!!」


「「「「うぉぉぉぉぉ」」」」


 どうやら向こうも決着がついたようだ。

 セスが指示しながら後処理を進めているようだ。

 目立った怪我人は……いなさそうかな?


「カイル様、どうして馬車の中で待機してくださらなかったのですか!?」


「あのままじゃ、負けると思った」


「それは……」


「あの場で1番お荷物だったのは俺だ、だからお荷物にはならないようにした」


 そういうと、「次からは事前にいってください」とだけ言って盗賊の後始末に向かった。

 まあ、怒られてしまったけど俺は後悔してない、初めて肌で感じた敵意はいい経験になった……気がする。

 それよりちょっと死体を見たせいで気分が良くない、怪我人の近くで吐くのはよろしくないし少し離れよう。


「おぇぇぇぇ、はぁ、はぁ」


 マジか異世界ってこんなに簡単に人死ぬの?

 傷の手当てをしてる時は死にたくない一心だった、しかし改めて血塗れた平原を盗賊の死体を見てこれまでにないくらい気分が悪くなった。

 異世界……戦争もあるらしいし盗賊も多い、これからも死体を見る事が多いのだろうか?


「カイル様、こちらをお飲みください気分が落ち着くはずです」


「ありがとう、セス」


 俺の気分が落ち着くとセスはこれからの事を話してくれた。

 どうやらこの盗賊たちは最近王都でも噂になって賞金までかかっている盗賊集団のようで王都に行った後にギルドに報告するようだ。

 こんな面倒ごとに巻き込まれるなんて女難の相の効果か?

 いやいや、女要素ねぇし違うか。


「それにしても、この薬まっず」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る