第4話 始動!



「げっ……」


 寝覚めの良い朝の最初に聞いたのは、妹の嫌そうな声だった。


「げっとは何だ、げっとは」

「最悪。朝からあんたの顔見るなんて」

「そりゃあ同じ家に住んでる以上仕方ないだろ。というか、今日早いな。日直か?」

「別に。……友達と一緒に行くだけ」

「ほーん」


 父と母は既に仕事に出ているようで、リビングに姿はない。


「……そういえば、あんた昨日いつ帰ってきたのよ」

「ん? ああ、昨日はあれだ。部活動で遅くなってな」


 食パンをトースターにセットしつつ適当に答える。


「部活なんて入ってたっけ。……というか、そんなに遅くまで部活ないでしょ」

「あるよ、あるある。高校は中学とは違うんだよ」


 真実では無い事実を口にしながら妹からの追求をのらりくらりと躱していく。その態度に呆れたのか諦めたのか、何も言わずに学校鞄を手に取りリビングから出ていこうとした。


「もう出るのか。いってらっしゃい」

「……」


 バタンと扉が閉まる音だけが返ってきた。


 

 ☆ ☆ ☆



「やほっ」


 放課後。

 昨日の今日での学校なので、いつもよりも疲労感が強く、眠気を覚ますべく目を擦っていると可愛らしい少女が話しかけてきてくれた。何を隠そう、星ノ宮さんだ。


「なんかお疲れだね、今日」

「昨日から部活に入ってね。慣れてないからちょっと疲れてて……」

「へー、それって超常現象部?」


 まさかこの間の会話を覚えててくれたのか……天使だ。天使すぎる。マジ天。マジ天ちゃん。


「そうそう。超常現象を探して街中歩き回るような部活でね」

「楽しそうだね!」

「楽しそうか……?」


 散歩とかが趣味なのだろうか。確かに散策とかが好きそうイメージだったし、可能性はある。

 言葉の意味を理解しようとうんうん唸っていると、いいことを思いついたとばかりにパンっと手を叩いた。


「そうだ! わたしも入ろうかな、その部活」

「え、やめておいた方がいいよ。ほら、あの部活のメンバーちょっとアレな人しかいないから」


 星ノ宮さんが変な部活に入るのを阻止すべく、大して知っている訳でもない三人を躊躇なくこき下ろした。


「えっ、でも、稲福くんも入ったんだよね……?」

「自分で言うのもなんだけど、俺もちょっとアレなところがある人間だから」

「アレって……?」


 当然のごとく俺自身も切って捨てる。

 星ノ宮さんをあんな部活に入れる訳にはいかないからな。


「そこまで言うなら辞めておこうかな。ところで、稲福くんはこれから部活?」

「そう。さすがに入部二日目で休む訳にはいかないからね」

「そっか。じゃ、一緒に帰れないね」


 ちょっと残念そうに言う星ノ宮さん。

 そんな彼女の姿を見て、ドキリと心臓が鼓動を打った。


「あ、そろそろ部活行かないと。じゃあね、星ノ宮さん」

「うん。また明日」



 ☆ ☆ ☆



「よく来たわね! 超常現象部へ!!」


 窓を背に、身につけていた外套をばさりと広げて決めポーズ。思わず扉を閉めてしまいそうになるのをぐっと堪える。


「どうも。昨日の今日で元気ですね」

「どの口が言ってんのよ」


 長机の右側、雲上先輩の隣に座っている金髪の少女がこちらをギロリと睨みつけてくる。


「さあ、部活動を始めるわよ!」

「ちょっと待ってください。超常現象部のメンバーはこれだけなんですか?」

「? ええ、そうよ。貴方を含めて四人。そう、精鋭部隊といった所かしら」

「精鋭も何も四人しか居ないのでは」


 そうなると、あの場にいた五人目は外部からの助っ人か。

 立ったままというのも疲れてきたので、長机の金髪の少女の対角線上に椅子を持ってきてそこに座る。


「それじゃあ自己紹介でもしましょうか!」


 自己紹介か。名前だけ……とはいかないか。無難に、知っているであろう情報と予想がついているであろう情報を出して誤魔化すか。


「それじゃあ私から。私の名前は雲上 マリア。この部の部長にして、物体を操る異能……念力の持ち主よ!」


 額に人差し指と中指を当てて決めポーズ。

 雲上先輩は何と言うか、ちょっと中二病感があるよな。しらっとした目で見ていると、金髪の少女がはあぁっと嫌そうなため息を吐いて口を開いた。


「知里真 ミナ。一年。以上」


 それだけ言ってぷいっとそっぽを向いてしまった。異能についての言及はなし。流石に警戒されているか。


「あ、えっと……次はわたし……でしょうか」


 おずおずと手を挙げたのは薄青色の少女。


「えっえっと、その、津久里 スイです。……その、異能は空間分離、でその、設定した対象を現実とは分かれた世界に閉じ込められる能力……です」

「ちょっと! そこまでわざわざ言う必要ないわよ!」

「えっあ、ああ、ごめんなさい!」


 あの結界のような能力は薄青色の少女、津久里の異能だったか。ということは、彼女らを相手取る時最初に狙うは――っ。

 脳に針を突き刺したような痛みにより、思考が中断される。今の思考が超常現象部への害を成す行為となったのだろう。


「最後は俺だな。俺は稲福 星一。異能は空間転移。自身と触れた物体の転移、あるいは事前に登録しておいた地点のものを転移させることが可能だ」

「物体……ね。貴方以外の人間を転移させることは出来ないのね?」

「そうですね。あと、転移する場所が転移するものよりも小さければ転移は失敗します」

「なるほどね。……そして、貴方の能力はまだここで終わりじゃないのよね。登録していた場所を追跡する力が……!」

「それは無いです。あの時の言葉は騙すための嘘です」

「そ、そう……」


 正確に言うならば、確認した時点での登録したものがどこにあるかを把握する能力。追跡とはまた違う。


「自己紹介、こんな感じでいいですか?」

「ええ。それでは、今後の部活動について決めていくわ!」


 こうして、アレなメンバーが集う超常現象部は動き出した。

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