第10話「後味が悪すぎる」

「……なんだ? この惨状は?」


 救援に駆け付けた殺戮人形のカシャと、人間と殺戮人形達の部隊は目を疑った。


 ペルザの魔城に踏み入ると、そこには、ペルザに囚われていた人間と殺戮人形達の死体や、氷漬けになった者や、手足と口を布で縛られた人間達が声にもならない悲鳴を上げながら、のたうち回っていた。


「おい、おい、クライ! 何があった! 状況を報告しろ!!」


 呆然と立ち尽くすクライの肩をカシャが揺さぶると、クライですら困惑した顔になっていた。


「わ、分からない、助けた人間と殺戮人形達が、その……自殺? そう、自殺を始めたから、私達が彼等の生命を守る為に拘束しました」


 いつも元気溢れるクライからは、想像もできない程に、目の前の惨状を理解できてない状態のようだ。


 それに対してカシャは舌打ちをした。


「チッ、魔天聖母ペルザの魔術か何かか? ここは私達に任せて、お前達ブレイクキラーは自宅に帰って待機してろ。事態が整ってから、再度連絡する。以上だ!」









「……」


「クライお姉ちゃん? ご飯食べないの?」


 明らかにいつもの元気が無いクライは、今回のピクニックで手に入れたワルキューレの生き血のスープを前にして、スープに映る自分の顔を見ながら妹のメライやワルツとクルミに質問した。


「ねぇ、私達って、ペルザを倒したはず……だよね? なんで、こんなに気分が悪いんだろう?」


 その質問に答えられる者は、ブレイクキラーの拠点である小屋の中では誰一人居なかった。


「……生まれて初めてだ、こんなに食が進まねぇ食事は」


 そう独り言のように呟いたワルツは、ペルザの魔城で見た光景をフラッシュバックしていた。








 数時間前、ペルザの魔城にて。


「アーシャ? お前アーシャか? 何やってんだ?」


 ワルツの目の前では、短剣を何度も自分に突き刺す一体の殺戮人形が居た。


 殺戮人形No.12『アーシャ』。


 殺戮人形の中でもクルミのような異能に近い魔術を使う人形であり、魔術師としては最高クラスの人形にして、ワルツの魔術の師匠でもある。


 そんな、かつての師匠にして戦友の凄惨せいさん極まる姿を前にして、ワルツはなんと言えば良いのか分からなかった。


 すると、顔面に短剣を突き刺したままのアーシャが片目だけでワルツを見た。


「あー、そこに居るのは、ワルツか? 久しぶりだな、私は会いたくなかったがな」


「アーシャ……自分が何やってるのか分かってるのか?」


「……それを言うなら、お前達が何やってんだよ。なんでペルザ様を殺した? あのお方は、我々殺戮人形の正体を教えてくれた方だぞ? お前は、ペルザ様から何も聞いてないのか?」


 首を横に振るワルツに対して、アーシャは笑みを浮かべながら口を開いた。


「そうか……なら、よく見ておけよワルツ、これがお前の師匠の最後であり、そして……未来のお前の姿だからなぁぁぁぁ!!」


 アーシャは絶叫すると同時に、短剣が刺さった顔面を床に叩き付けた衝撃で、アーシャの頭部は完全に粉々になった。


 頭部を失っても、アーシャの体は痙攣けいれんを繰り返すのを見ながら、ワルツは泣きそうな声で言った。


「なんだよ、これ? これが未来の私の姿? アーシャ、お前は何を見たんだよ? ……あぁああああああああああああ!!」


 ワルツの絶叫が魔城に響き渡った。

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