第11話「惨劇を乗り越えて」

 ペルザ討伐から一週間後。


「よし、そっちに逃げた! メライ!」


 クライとメライは食料である生物の生き血を得る為に山で野生のモンスターの狩りをしていた。


 魔王軍の配下ではないが、人類の脅威であるのは変わりない。


 今回の獲物は巨大な蛇のモンスターだった。


 クライがある程度ダメージを与えた後に追い立てて、メライがトドメを刺す寸法だ。


「ごめんね」

 

 そう言って、メライは背中から生えている6本の自在に動く刃で蛇の脳天に刃を突き立てて、別の刃で蛇の首を切断した。


「おっし! 狩り成功! 今日の晩ご飯は蛇の生き血シチューにしてあげよう! この間、行商人をやってる殺戮人形からエルスクリア帝国の牧場で採れた牛乳を手に入れたからーー」


「クライお姉ちゃん」


「ん?」


 蛇の生き血を特性の布袋に入れながら、メライは心配そうにクライを見ていた。


「無理してない? ペルザ倒した後に、あんな事があったのに……」


「あー、あれ? 確かにショックだったし、私がもっと早く止めていれば、助けられた命はあったはずだけど……悩んでも失った命は戻って来ない。だから、無理してでも前を向いて生きなきゃ! それが、死なせてしまった人達へのせめてもの償いだと思う!」


「……やっぱりお姉ちゃんは強いね。ワルツやクルミは、まだ元気が無いけど」


「大丈夫大丈夫! あの二人も案外強いし! それに今日のクライお姉ちゃんの特性蛇シチューを飲めば二人の顔に笑顔が戻るよ!」










「とか考えてるだろうなぁ、あの熱血バカ」


 ワルツは、小屋の寝台に仰向けになりながら、一週間前の惨劇を思い出していた。


 ーーこれが、未来のお前の姿だからなぁぁぁ!!


 恩師であり戦友のアーシャの最後の言葉が何度も頭の中で反響する。


「アーシャ、お前は何を見たんだ? アレが私の未来の姿……んなわけねぇだろ、私は絶対にアーシャみたいにならねぇからな!」


「……」


 ワルツが強気な言葉を発する中、椅子に座って編み物をしているクルミは考えていた。


 ーーなぜ、ペルザに私の処刑魔術は通用しなかった? なぜ、私達が助けたはずの人達は自害したのか? 何も分からない……あの時、私の処刑魔術で助けた人達を楽にしてあげた方が良かったんじゃ……ハッ!?


 その考えを振り払って、クルミは編み物に集中した。


 ーーいけない! 殺戮人形は人類最後の希望! それが自殺の手助けなんてして、どうする! ペルザは何か隠してるし、それにペルザを倒したのに一週間もエルスクリア帝国から連絡が来ない……これは、帝国内部も調べる必要があるか。


 もしも、帝国の方から連絡が来て、何か進展があったら聞ける範囲まで聞こう。


 いや、それだけじゃ足りない。もっと情報が欲しい。殺戮人形の研究をしているアダージョ……彼女も信用できないか。


 残念な事に、クルミは最初っから誰も信用していない。仲間、家族、そして自分すらも。


 この家族ごっこなんて、いつ終わるか分からない関係だし、いつまで続くか分からないし、気をうかがってブレイクキラーを離脱するか?


 そうやって思考を巡らせていると、いつの間にかワルツが顔を覗いていた。


「わぁ!?」


「なーに一人で思い詰めた顔してんだ、お前?」


「え? 顔に出てた?」


「んだよ、私が近付くまで気付かなかったのか? 天下の最強殺戮人形クルミ様にも隙があったのか?」


「……はぁ、ちょっと考え事、らしくもない事を考えてた。確かに隙だらけだったわね。ワルツは私が気に入らないでしょ? なら、その隙を突いて殴るとかすれば良かったのに」


 あまりにもネガティブな発言をしてしまったクルミだったが、ワルツは当たり前のような事を言った。


「は? 私がいつクルミの事が気に入らないとか言った? 確かにクルミの強者理論は好きじゃないが……それにクルミは、私達家族の一員だろ? 家族を殴るとか、そこまでグレてねーよ」


 クルミは、目をパチクリして、思わず笑い声を出してしまった。


「ふふ、まだ私の事を家族だと思ってたんだ」


「……なんだ、グレてたのはクルミの方かよ。クライとメライが帰ってきたら告げ口してやろうかなー?」


「もう、やめてよ、ふふ」


 色々悩んだが、なんだかんだ、この家族ごっこも居心地が良いと再認識するクルミであった。


 すると、狩りから帰ってきたクライが大声で叫んだ。


「たっだいまー! 今日は蛇のシチューだよ!」


 それを聞いたワルツは、嫌そうな顔で確認した。


「一応聞くが、普通の蛇だよな?」


「いんや? モンスターの蛇」


「毒があったら、どうするんだよぉぉぉ!! 毒は舌が痺れるだろうがぁぁ!!」


 クライとワルツが、じゃれ合うのを見て、なんだか自分の悩みがちっぽけに思うクルミであった。

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