第3話「愛されたい」

 最初は人間の親子を見た時だった。


「お母さーん!」


「あぁ、良かった! 本当に良かった! この子が生きてるだけで私は幸せよ!」


 子供? お母さん?


「親父!? 生きてたのかよ! 良かったぜ!」


「おう! 魔族どもにコキ使われてたが、そこの人形ちゃん達が助けてくれたんだよ! ありがとな!」


 親父? つまりお父さん?


 人間達を助ければ助ける程、親子の感動的な場面を何度も見ていく中、殺戮人形達の間で、ある疑問が蔓延まんえんし始めた。


 ーー人間には愛する家族が居るのに、なんで私達には居ないの?


 愛されたい、理由は分からないけど、魔族を倒したら親に褒められたい。人間を助けたら、ご褒美が欲しい。


 なのに、殺戮人形を褒めてくれる親は居ない。人類側も疲弊していて殺戮人形達に充分な報酬を与えられてないのが現状だ。


 愛されたい、褒められたい、どうすれば、この悩みが解決するの?


 そんな疑問を抱えながら、殺戮人形達はある回答に辿り着いた。


 ーーそうだ。親や家族が居ないなら、自分達で家族を作って、自分達で愛し合おう、自分達で褒め合おう。


 そして、魔王を倒して世界に平和が訪れたら、この願望が叶うはずだ。


 ーー人間の子供になろう! ここまで頑張ったんだから、きっと殺戮人形と人類は共存して仲良く暮らせるはずだ。それが達成されるまで、タッセイサレルマデ、コロソウ、コロソウ、コロス、ミナゴロシ、コロシタイ、コロシタイ、コロシタイ。








「と、言うのが私達、殺戮人形達の共通の願望でありモチベーションになってるけど、はてさて、人類は私達を受け入れてくれるかしら?」


 かつて人類が暮らしてた木製の小屋にて、編み物をしながら一体の殺戮人形が語り出した。


 それを聞いた青髪の殺戮人形は床でくつろぎながら返答した。


「無理でしょ。私達の愛されたいって願望が何なのか知らないけど、私は嫌だね。人類の平均レベル知ってる? たったの20だよ? そんな弱い連中に愛されるより、逆に強い私達が愛玩用に飼い慣らしてやる」


「もう、すぐ強気な言葉を使うわねワルツ」


 ワルツと呼ばれた青髪の殺戮人形は立ち上がって編み物をしている殺戮人形に向かって言った。


「クルミは良いよなぁ。私達、家族の中で最強の殺戮人形のくせに、クライにばかり戦わせて自分は編み物ばかり作りやがって、ちょっとは戦ったらどうなの?」


「うーん、だって、私が出たら他の殺戮人形達の出番が無くなるじゃない。それに、私がここに居るだけで、他の殺戮人形達への抑止力になってるでしょ?」


「うわ、出た、クルミの強者理論。それマジで嫌い」


 クルミとワルツが言い合っていると部屋の隅でうずくまってる殺戮人形の少女は震える声で言った。


「あう、クライお姉ちゃん、まだかなぁ?」


 すると、小屋の玄関からクライが帰って来た。


「たっだいまー! 今日の晩御飯は魚魔族の生き血だよー! 帰る途中で見つけた魚っぽい魔族を殺して生き血を絞って帰ってきましたー!」


 クライが帰って来ると、うずくまっていた殺戮人形の少女は立ち上がってクライの胸に飛び込んだ。


「おかえり、お姉ちゃん!」


「メライ! 今日もお互い生き残れたね! 我が自慢の妹よー、よーしよしよし!」


 クライとメライと呼ばれた少女が仲良くしてるのを見て、ワルツは悪態をつきながらクライの顔を見た。


「お前なぁ、私達が生物の血が無いと生きられないからって、よりにもよって魔族の……しかも何? 魚? 私、魚嫌いなんだけど?」


「こらこらワルツ、好き嫌いはダメだよ。さーて、クライお姉ちゃんが、この採れたて魔族の血をスープに変えてしんぜよう!」


 意気揚々として、生き血がたっぷり詰まった布袋を台所に運んで、クライはエプロンを付けて生き血を煮込み始めた。


 これが殺戮人形達の『家族ごっこ』の光景である。

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