第2話「レベルアップと自我」
「はぁ、レベルアップ? 何それ?」
「うむ、本来なら我々、殺戮人形が獲得するわけがない概念だが説明しよう」
アダージョ研究所。
殺戮人形No.69『アダージョ』が経営している研究所で、人類から特別に魔族の研究を依頼されて作られた研究所だが、所長のアダージョ、愛称はアダ先生は、密かに殺戮人形と人類の研究をしていた。
先のゴブリン大将を討ち取ったクライは、後遺症が無いかの診察を受ける為に来たのだが、アダ先生が唐突に目の前のクライに語り始めた。
「本来なら生物のみが獲得する経験値と言うものがある。これは敵を倒すと獲得して、その個体が強くなると、その個体の強さを提示するレベルと言う数字が出てきて、経験値を獲得するとレベルがアップするわけだ」
「へー、なんで急にレベルアップの話を始めたの?」
「うむうむ! 実に興味深いのだがね? 人類も我々殺戮人形達も困惑している自我の獲得なんだが、これはレベルアップと関係してると判明したのだよ!」
首を傾げるクライを見ながら、アダ先生は眼鏡をくいっと上げて説明した。
「本来なら生物しかレベルアップできないはずなのに、我々殺戮人形にもレベルアップの概念があるらしい。ほれ、これを見た前」
すると、クライの目の前に数字らしきものが表示された。
「58? 何この数字?」
「クライの現在のレベルだよ。魔王軍を攻略するには四天王を倒すだけでもレベル80は欲しいが、今のクライでは難しい話だ。しかし、変じゃないかね?」
「何が?」
「我々は兵器だよ? 生物ではない。なのになんでレベルの概念がある? そもそも、我々はどのようにして作られた?」
「え? さぁ? 残された人類のなんか凄い人が作ったんじゃないの?」
「そこなんだよなー、なんで殺戮人形の誕生秘話を人類が隠してるのか。そもそも我々はどのようにして生まれたのか謎すぎるし、それに他の殺戮人形達を診察して分かったが、どうやら殺戮人形はレベル30に達したら自我が発現する事が分かった」
「ふーん、それって良い事?」
「いや、悪い事だ。我々は魔王軍を殲滅する為だけに作られた最終決戦兵器。そんな兵器に人間のような自我が芽生えて、もしも人類に反旗を
言われてみればそうだ。アダ先生の解説によると、魔王に殺された人間の勇者のレベルは120だったらしい。
そして、現在残されている人類の平均レベルはたったの20らしい。
現在魔王軍と戦ってる100体の殺戮人形達は、残念な事に数は減っているが、中にはクライやアダージョのような自我が芽生えた殺戮人形達が居るのは事実だ。
勝てるのかどうかも分からない戦況で、わずか少数の人類に味方をし続ける殺戮人形は居るだろうか?
中には、人類の在り方に疑問を持って反乱を起こす個体が現れてもおかしくない。
しかし、クライは明るい顔をアダ先生に向けた。
「別に良いんじゃない? 反逆個体が現れたら私達が倒せば良いじゃん」
「あっさり言うなぁ……で? 君の家族の中に反逆個体が現れたら?」
クライは腕を組んで悩んだ後に口を開いた。
「まぁ、殺すしかないんじゃない? だって私達は人類の最後の希望だし」
「……やっぱり私達は兵器なんだな。いくら外見と自我が人間に近くても、所詮は殺戮兵器だ……くっくっく、じゃあクライが反逆個体になったら私が直々に殺してあげよう」
「あははは! アダ先生と戦えるんだ! その時が来たら、お互い容赦なく殺し合おうね!」
そう言い残して、クライは研究所を後にした。
クライが去った後に、アダージョはニヤニヤしながら自分のレベルを見ていた。
「私に勝てると良いねー、元気っ子なクライちゃん」
アダージョの現在のレベルは85だった。
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