殺戮人形の涙〜勇者が死んだので代わりに人形達が魔王を倒します〜

心之助(修行中)

第1話「殺戮人形」

 目が砕けました。


 左手が砕けました。


 右足が砕けました。


 胴に穴が空きました。


 だが、私の魂は砕けてない!!


 ほぼ原型を留めてない機械の少女が、目の前の魔族の喉に業火に燃えたぎる炎剣を振るった。


「がは、なぜ、そんな体で、動ける?」


「なぜ動けるのか? 私は、人類が生み出した最終決戦兵器『殺戮人形』だからだ!!」


 魔族の大将を討ち取った少女は、その首を千切り、魔族の軍勢の前に掲げた。


「聞け魔族共! お前達の大将は私が討ち取った! 我が名は殺戮人形No.44『クライ』! 人間の勇者を討ち取ったぐらいで、人類が諦めると思うな!」


 大将を失って戦意を喪失したからか、魔族のゴブリン兵士達は目の前の殺戮人形に恐怖し、皆一様に逃げた。


 しかし、そこには別の殺戮人形達が待ち構えていた。


「嘘だろ!? あんなバケモノが、まだこんなに居るのかよ!?」


 ゴブリン兵士達が再び武器を構えるよりも先に、次々とゴブリン兵士達は殺戮人形達によって、文字通り一匹残らず殺戮された。


 


 全てのゴブリン兵士を殲滅した後に、クライはゴブリンによって奴隷として扱われていた人間達を解放した。


「お待たせ! こんな状況下で、よく頑張ったね! 私達が安全な場所に避難してーー」


「ひぃ!? バケモノだー!!」


「え?」


 クライはキョトンとした。助けたはずの人間達が、クライを見て一斉にパニック状態になった。


 すると、魔術に特化した別の殺戮人形の少女が現れて、パニック状態の人間達を眠らせ、全員眠ったのを確認してから、八体の殺戮人形達が流れ作業のように人間達を回収し始めた。


「あれ? おかしいな? なんで人間の皆さんは、びっくりしたの?」


「それはビックリするでしょ」


 と、背後から別の殺戮人形が現れて、手鏡をクライに向け、クライも納得したように言った。


「あー、私達、人間に似せて作られたけど、片目がない、片腕がない、片足がない、オマケにお腹に大きな穴が空いてる……くく、あははは! これで動いてる人形が居たら、確かにバケモノかも!」


「笑ってる場合かよクライ。私達は痛みを感じないが、不死身と言うわけじゃないんだ。お前はすぐに修理機関に搬送する。魔族の大将を討ち取った功績は、人類会談に報告する……とは言え、くくく、あははは! 何度見ても人間達が私達を見て驚くのを見るのは楽しいな!」


「あはは! ずっと笑いこらえてたんだー! カシャも人が悪い、いや悪い人形だねー!」




 勇者が魔王に敗北してから三年後の世界。かつては機械と魔術を融合した技術で生活をしていた人類は、勇者の敗北によって世界の九割も魔王軍に制圧されてしまった。


 苦肉の策として、残された人類の帝国『エルスクリア帝国』では、魔術と機械技術の結晶として作られた最終決戦兵器『殺戮人形』達によって、人類の命運を託す事になった。


 魔王軍の侵略が激しすぎるせいで、作る事ができたのは、たった100体の殺戮人形だけだった。見た目は人間の少女の姿をしてるが、彼女達は完全なる殺戮兵器。まさに機械のごとく作業通りに魔族を殲滅し、奴隷や家畜にされていた人類を解放するなどの戦績を上がる中、一部の殺戮人形達に異変が起きた。


 それは、自我の覚醒であった。


 本来は兵器である彼女達に存在しないはずの自我が芽生え始め、まるで人間のような振る舞いをするのを見て、人類側は脅威に感じた。


 世界最強の勇者すら倒した魔王軍を次々と殲滅する殺戮人形達が反乱を起こしたらどうなる?


 なぜ、殺戮人形達に自我が芽生え始めたのか分からないまま、人類は彼女達に命運を託すしかなかった。





「たっだいまー! みんなの頼れるお姉ちゃんクライの凱旋がいせんだー! へぶ!?」


 クライが『家族』の元に戻ると青い髪の殺戮人形の少女がクライの顔面に請求書の束を投げ付けた。


「バカクライ……お前が無茶するせいで家計が圧迫されてんだぞ?」


「まぁまぁ、良いじゃないの、クライちゃんが頑張ってくれてるお陰で我が家は支えられてるわけだし」


 椅子に座って編み物をする穏やかな雰囲気の殺戮人形の少女は青髪の少女をなだめるように言った。


 このように、一部の殺戮人形達は『家族ごっこ』と言うコロニーを形成し始めていた。


 クライが所属するコロニーには、クライを含めて四体の殺戮人形達が人間の真似をして暮らしていた。


「あはは、ほーんとごめん、昨日のゴブリンの大将がガチで強くてさー。いやー私もボロボロになっちゃったけど、この通り圧勝だ!」


「そーだな……てなるかよ! 修理費は私達が負担してんだぞ! 次からは怪我しないでくれよ!」


「それは無理ー、だって私達に痛みなんて無いんだから、どこを怪我したか、なんて分からなーい」


「あ、殴ろう、よーし殴ろう!」


 このようにして、殺戮人形達は家族ごっこをして心のケアをするのであった。


 そう、人間の真似をして。

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