第34話 実家での違和感
「ん~……なんか落ち着かない……」
ひとり呟くオレ。
実家のオレ部屋にひとりで居ることなんて、当たり前すぎることなのに落ち着かない。
朝の気配に目覚め見上げれば、見慣れた天井。
いつもと同じだ。同じなのに、なぜ違和感があるのだろうか?
シェリング侯爵家で暮らしていた時だって、作業に疲れた時は、このベッドでよく昼寝していた。
実家で暮らしていた時はもちろん、シェリング侯爵で暮らしていた時だって、オレはココで寝てたのに。
なのに今は違和感を感じる。
なぜだ?
寝慣れたベッドの上でゴロンと向きを変え、室内を見回す。
作りかけの魔法道具や設計図が広げられた部屋の中はゴチャゴチャだ。
ゴミと必要なモノの区分けがイマイチはっきりしない、オレだけがルールを知っている、オレだけの部屋。
18歳までを過ごした部屋。
ついこの間まで暮らしていた部屋。
なのに、落ち着かない。
実家に帰ってきて一週間ほどがすぎた。あれから、ルノの顔を見ていない。
だからどうっていうほどのこともない。
シェリング侯爵家に居た時だって、しょっちゅう顔を合わせていたわけではないのだから。
だが領地経営が主な仕事であるルノは、同じ屋敷の中にいることが多かった。
でもココにルノは居ない。
シェリング侯爵家とランバート伯爵家の違いと言えば、そんなところだろう。
窓から見えるのは、長年見慣れた風景だ。オレは人生の殆どをココで過ごした。
だから窓から見える光景に違和感はない。……はずだ。
暑さをしのぐための魔法道具も、いつもの夏と同じように動いている。
この部屋は快適だ。
なのに、モゾモゾする胸の奥。この違和感の正体はなんだ?
実父と義母は既に屋敷には居ない。遠方の領地に幽閉されるような形で送られた。
長年一緒に暮らした実父と義母の姿が消えた屋敷には、秒で馴染んだ。
なのに。ルノが居ない生活には、一週間経っても慣れない。
「なぜだ?」
答えは分かっているけど、言ってみる。
「ワカンナイや……」
認めたくないから、言ってみる。
視線を窓の外に向けたって、思い出すのはシェリング侯爵家の奥さま部屋からの景色。
人間、思い入れのない場所を思い出したりなんてしない。
それを認めてしまうことは、面倒なことに向き合わなきゃいけないことを意味する。
だから認めたくない。認めたくないけど、思い出してしまうんだ。
今は封じられている部屋の端にある魔法陣。
あの魔法陣を使って転移すれば、すぐにシェリング侯爵へと帰ることが出来る。
「帰る、か……」
オレの居場所は、ルノ。
もうとっくの昔に、お前の隣になっていたんだなぁ……。
「なんだ、ミカエル。まだ寝てるのか?」
ドアをトントンと叩く音と同時に赤い髪した背の高い男が現れた。
「ジョエル兄さま。……こっちに住んでた頃より遠慮がないね。オレ、一応結婚したオメガなんですけど?」
「なんだ? オメガって言われるのも、結婚のことも。嫌がってたじゃないか」
「それとこれとは別です。プライバシーは守って欲しいな。オレは大人なんですから」
「おやおや。八つ当たりかい?」
ジョエル兄さまの後ろから、ひょこっとノイエル兄さまが現れた。
「そんなことは無いですよ、ノイエル兄さま」
「なら、ジョエルとなんて揉めてないで支度しなさい」
「えっ? 支度って?」
「仕事でしょ。王宮へ行かなきゃ」
「へっ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
ノイエル兄さまが呆れた声で言う。
「寝ぼけてるでしょ。さっき私がココに来て、カーテンを開けたことも覚えてないなんて」
「ホント、ミカエルは変わらないね。実家だからって油断し過ぎでしょ?」
ジョエル兄さまも呆れた様子だ。
「……」
んっ。そうだよな。窓の外が見えるという事は、カーテンが開いている。
寝る前に閉めたはずのカーテンが開いていて。
オレが開けたのでなければ、誰かが開けたって事だよな?
……アレ? オレってば、落ち着きすぎて爆睡してたってこと?
「寝ぼけるのはその辺にして起きなさい、ミカエル」
ノイエル兄さまが急かす。
「そうだよ。支度しないと。いくら転移魔法陣を使うといっても約束の時間に間に合わないのは困るよ。僕も仕事があるんだから」
ジョエル兄さまが顔をしかめている。
機嫌を損ねすぎるとジョエル兄さまは、雑にオレを扱うからな。
「あー、ハイハイ。起きます。起きますよ」
「魔法道具で空調するのも考えものだな、ジョエル」
「それな。快適過ぎるんだよ。もうとっくに起きてると思ったのに。昼近くまで寝てるとは思わないだろ」
嫌味臭く会話する兄さまたち。
年寄りは、若人にあたりがきつくてヤだね。
で、なんでこんなに眠いんだっけ?
「あー……」
そうだ。午後一番に王宮へ行く日だった。
それで昨日の夜は頑張って遅くなったから……。
「早く起きてシャンとしなさい」
キチンとしているノイエル兄さまが言うと説得力がありすぎてヤだ。
「食事は抜くなよ。腹が減ってると仕事にならないからな」
食いしん坊のジョエル兄さまらしいアドバイスに腹が鳴る。
「ハイハイ、分かりました」
オレはモゾモゾと起き出した。確かに寝すぎた。支度しなきゃ。久しぶりに王宮へ行くんだから。
でも……ルノが一緒じゃないのは、初めてだ。
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