第30話 オメガ vs アルファ

 実家で媚薬を盛られたオレは、ルノワールに抱かれた。

 ガッツリ愛されたオレは、うっかり愛してると言われてしまったし、言ってもしまった。

 ヤって、ヤって、ヤりまくりの時間は続き。

 結局、オレのヒートが収まるまでには、五日ほどを要したのだった。


♡♡♡


「なんでだよ?」

「キミのためだよ、ミカエル」


 オレたちは、ピンクピンクした奥さま部屋で揉めていた。

 日はすっかり高くなり、本来であれば実家のオレ部屋で作業の真っ最中である時間帯。

 なのに、まだオレはだらしなくベッドの上にいた。


 ヒートの期間は終わり、体も回復している……と思う。

 だが、過保護なルノが、オレを解放してくれない。


「仕事がしたいっ」

「今はダメだ」


 ベッドの端に腰かけたルノとの言い争いは、さっきからずっと続いている。

 昼も近い時間だろうに、ベッドの上というのはいただけない。

 でも、オレを抱いた後のルノは、異常なほど神経質になっていて、どうしていいのか分からない。


「キミは実家で媚薬を盛られたんだよ? 今回は媚薬だったから、ヒートくらいで済んだけど。アレが毒だったらどうするの? 命を落としていたかもしれないんだよ?」

「解毒魔法をかけてたから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないっ」

「なら、どういう問題なんだよっ」

「とにかくっ。事情がはっきりするまで、キミは動いたらダメだ」

「いや、だって……」

「嫌もだってもナシだ。キミはここにいて」


 ガッとルノがオレのことを抱きしめる。ギューギュー締め付けてきて苦しい。

 でも、縋りつくようにオレを抱きしめるルノを、無理に引き離すこともできない。


 ちくしょうっ! なんでこんなバカが好きだって、気付いちまったんだオレはっ!


 首筋あたりに顔を埋めている男に、オレは静かに問いかける。


「なぁ、ルノ。いつまでオレを、この部屋に閉じ込めておく気なの?」

「調べが付くまで、だ」

「調べが付く? 犯人が分かるまでってこと? そんないつまでも寝ていられないよ」

「だったら、部屋で出来ることをしたら?」

「そう言われても。道具を持ってきてないから、魔法道具の開発も出来ないよ」

「それ以外のことをしたらいいじゃないか」

「何を?」

「ん、例えば刺繍とか……」


 オレは思い切り顔をしかめた。

 貼り付いている男をベリッと剥がして、その顔を覗き込む。


「オレがそんなことするタイプに見える?」

「いや、見えないけど……」


 ルノの青い瞳が泳ぐ。

 オレが戸惑っているように、ルノも動揺していて、どうすればいいのか分からない状況なのだろう。

 だからといってこんな扱い、易々と受け入れていいはずがない。


「なぁ、ルノ。オレがそこそこ強いのだって知ってるだろ? こんなことやめてくれよ」

「こんなことって?」

「オレを監禁するような真似さ」


 ルノが眉毛を跳ね上げ声を荒げる。


「監禁してるつもりなんてないっ!」

「なら、軟禁か?」

「そんなつもりはないよ。私はキミを守りたいだけだ」


 自覚なし。余計に厄介だ。


「だったらさー……」

「もう、やめよう。今回の事件の首謀者が分かるまで、キミはココから出ない。それで決まりだ」

「ルノ……」

「話は終わり。終わりだからっ」


 ルノはサッと立ち上がると、部屋から出て行った。

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