第29話 実家でのお茶会
オレはルノワールと共に兄さまたちへの現状報告のため、実家のオレ部屋に来ていた。
夏の暑さがジリジリ来る午後だが、たっぷり魔力を注いだ魔法道具の効果により室内は涼しい。
さすがオレ。オレの作った魔法道具は優秀だ。
高揚感と満足感に包まれたオレは、ご機嫌で兄さまたちに報告した。
「王家との話し合いは現状、こんな感じです」
「ご苦労さま、ミカエル。それで陛下にはご満足いただけているのかな?」
「ええ。大丈夫ですよ。ジョエル義兄さま」
ルノワールの言葉に、ノイエル兄さまはニッコリと笑った。
「侯爵さまがキチンと見ていてくださっているから安心だな」
「うーん。それはどうかな?」
オレは隣に座るルノワールへ向かって、ニカッと笑いかけた。
「それはどういう意味かな?」
ルノワールは怪訝そうな顔をしてオレを見た。
「だって、ルノワールが陛下たちにいじられてるトコしか見てないもん、オレ」
笑顔を引きつらせたルノワールとオレを交互に見て、ジョエル兄さまが言う。
「こーら、ミカエル。旦那さまに向かって、そういう言い方しちゃダメでしょ?」
「大丈夫だもーん。ジョエル兄さまがうるさすぎる」
「私もジョエルと同意見だ。いくら夫婦とはいえ、ミカエルの態度はルノワールさまに失礼だと思うぞ」
ノイエル兄さまにもたしなめられた。
「えー。オレが悪いの?」
解せぬ。
「私たちはミカエルがルノワールさまと仲良く、幸せに暮らしていくことを望んでいるだけだよ」
ノイエル兄さまが苦笑しながら言う。
「んー……」
「不満そうな顔しない」
右前に座っていたジョエル兄さまが、オレの鼻を軽くつまんだ。
ルノワールは隣で笑っている。
オレは顔を振ってジョエルの手を逃れながら、ムッとしてルノワールを軽く睨む。
ルノワールが言う。
「ふふふっ。兄弟仲が良くて羨ましいです」
「あー。ルノワールさまは、ひとりっ子でしたっけ?」
「はい、そうです。」
ノイエル兄さまの言葉に頷くルノワールに、ジョエル兄さまが言う。
「じゃ、兄弟が増えたと思って、僕たちとも仲良くして下さいよ」
ノイエル兄さまもノリノリで賛同する。
「それが良い。そのほうが私たちも楽しいし、ミカエルの様子が分かりやすくて安心できます」
「そうですか? そうして貰えるなら、私も嬉しいです」
ルノワールもニコニコだ。
オレの兄弟なのに、オレ抜きで話がまとまっている。
解せぬ。
軽く三人を睨めば、更に笑いが起きた。
解せぬ。
そんな和やかな雰囲気を壊すように、突然ノックの音が響いた。
続いて、「よろしいかしら」と、よろしくない声が乱入してきた。
義母だ。
何しに来たんだろう?
† ♧*: ◇ :*♧* ☆ *♧* † *♧* ☆ *♧*: ◇ :*♧ †
「本日はお招き、ありがとうございます」
ルノワールが丁寧な大人の対応で、父に対応している。
その後ろに控える義母にも、丁寧な挨拶をしている。
そんな光景を、オレはちょっとぼんやりしながら眺めていた。
なぜか父たちとお茶会をすることになってしまった。
「息子が嫁ぎましたのに、まともにご挨拶もしていなくて申し訳ありません」
もっともらしい挨拶を父がしている。
父親らしいことなんて何もしてこなかったのに、どういうつもりなんだろう?
ろくに足を踏み入れたこともない実家の応接室で、なぜか父と義母と共にルノワールとお茶をしている。
兄さまたちは用があるとかで来なかったのだが、十中八九逃げたのではないかとオレは思っている。
つか、用事ぶっちしてコッチ来いや、って気持ちがあった。言わなかったけど。
席に着く前だったが、早くも帰りたい。侯爵家で落ち着きたい。
オレにとっての家は、既に侯爵家になっていたようだ。快適だったオレ部屋とは違って、応接室は暑い。
父たちが使っている応接室は兄さまたちも使わない。だから使っている魔法道具が違う。
オレの商会である【魔法道具マグまぐ商会】が気に入らないらしく、父は商会の商品は一切使わない。
格安で手に入り、魔力の消費が少ないのにも関わらずだ。
とにかく子供たちがやっていることが気に入らない、親と呼ぶのも嫌なくらいの父なのだ。
義母については言うに及ばす。
今日だって結婚の挨拶だのなんだの言っておきながら、着ているの真っ黒な喪服だからな。
夏だってのに暑苦しくてかなわない。
席に着き、お茶を勧められる。
オレは常に解毒魔法がかかるよう、チョーカーに細工してあるから毒を盛られても安心だ。
チロリと横目でルノワールを見る。彼にも解毒魔法をかけておいた。用心のためだ。
父がルノワールに話しかける。
「それで、息子はいかがですかな? 上手いことやれているでしょうか?」
「はい。大丈夫ですよ。御心配には及びません」
義母が言う。
「オメガということに甘えて、何も教えておりませんのよ。もの知らずでご迷惑をおかけしていないと良いのですけれど……ほほほっ」
よく分からない会話が続いていく。
王都で話題のケーキだの、遠方から取り寄せた珍しいお茶だのを父と義母が勧めてくるが。
茶器やら皿やらが、いかにも成金趣味で落ち着かない。
実家にいた頃も父たちの趣味はいかがなものか、と、思っていたが。
侯爵家の品がよろしく歴史もあり、さらに高価という品々を見てきた後なだけに実家の成金趣味が痛い。
恥ずかしくて汗が出るほどだ。
ホント熱い。
体が熱い。
……体が、熱い?
オレと目の合った義母が、ニヤリと笑う。
嫌な笑い方だ。
熱い。熱い。一体これは何だ。
ルノワールが驚いた表情でこちらを見ている。
その表情を見て、ある可能性に思い当たる。
あ……畜生っ。やられた。
媚薬は毒じゃない。ましてや、ちょっとした栄養剤なんて、解毒魔法が効くわけない。
フェロモンの分泌が盛んになる程度の薬物には、解毒魔法は反応しない。
濃くて甘い匂いが、自分から湧き上がるように香っているのが分かる。
ああ……これはヒートだ……。
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