第22話 アルファとアルファ 義兄と義弟

「こっちが長兄のノイエル。で、こっちが次兄のジョエル」


 オレは住み慣れたランバート伯爵家にある部屋で、ルノワールに兄弟を紹介した。

 ふんわりとした暖かさを感じる午後なのに、微妙に鋭い冷気を感じるのは何故だろう。

 兄さまたち、笑顔なんだけどね。なんだか迫力が……。


 魔法薬や魔法道具を作るにあたり、ランバート伯爵家にあるオレの部屋と、シェリング侯爵家の奥さま部屋を転移魔法陣で繋ぐことになった。

 自由に行き来できれば作業が効率的に進められるからだ。

 オレと一緒にランバート伯爵へ出向いたルノワールは、そこで兄たちとご対面。


 乱雑に道具が散らばる生活感あふれるオレの部屋での初対面である。

 それってどうよ? とは、オレも思う。

 うん。掃除はしておくべきだった。


「はじめまして。ルノワール・シェリングです」


 挨拶するルノワールが緊張でちょろっと引きつっている。


 へへっ。いい気味だ。


「はじめまして。ミカエルの兄で、ランバート伯爵家当主のノイエルです」

「はじめまして。ミカエルの次兄で、魔法省勤めをしているジョエルです」


 茶髪のノイエル兄さまと、赤茶髪のジョエル兄さまに挟まれたルノワールの銀髪頭は、頭半分ほど低い位置にある。

 オレがオメガとしては大きい身長178センチあっても、アルファってデケェな、と、思えるほど兄たちは背が高い。

 190センチはあるんじゃないかと思う。


 長兄であるノイエルは、文武両道タイプで締まった筋肉がついているタイプだ。

 次兄であるジョエルは、魔法使いなので筋肉質ではない。その代わり、ひょろ長くて兄弟の中で一番背が高い。


「この度は、良いご縁を国王さまが結んでくださったことを、家族一同喜んでおります。突然のことでしたのに、弟を迎え入れてくださってありがとうございます」


「弟はオメガで世間知らずのところがありますので、ご迷惑をおかけしていなければよいのですが」


 ノイエル兄さまも、ジョエル兄さまも笑顔なんだが。物腰も丁寧なんだが。謎の圧を発している。

 ルノワールは、汗を拭いてあげたほうが良い? って思うほどダラダラ汗をかき始めた。

 面白いから拭いてあげようかな。綺麗なハンカチ、あったかな?


「いえ、こちらこそ……」


 とかなんとか、ルノワールは答えているけれど。明らかに動揺しているの面白いな。

 オレがヘラヘラしていると、「ちゃんとしなさい」とノイエル兄さまにたしなめられた。解せぬ。


「それでセキュリティのことですが。シェリング侯爵家の護衛責任者であるジルベルトと、こちらの責任者との間で打ち合わせをお願いできますか?」

「はい。そうですね。そのほうがランバート伯爵家としても安心です。よろしくお願いします」


 ノイエル兄さまが防犯責任者を呼んで、ジルベルトと引き合わせた。

 オレの部屋同士を行き来しやすくしたいだけなんだが、それなりの家同士だから安全対策は大切。

 ランバート伯爵家は商会を抱えている上、防犯用魔法道具を得意としているから情報を守る必要がある。

 シェリング侯爵家は力のある家だから、こちらも防犯大事。

 二人が出て行くのを確認してから、オレは魔法道具を使って部屋のセキュリティを一段階上げた。

 アルファが三人もいるんだから安全だけど、癖なんだよね。


 ランバート伯爵家のオレ部屋と、シェリング侯爵家の奥さま部屋を繋いじゃえば、引っ越し作業も必要ないから楽ちん。

 とか、思ってたら。

「いずれはシェリング侯爵家の方で作業が全て出来るようにしますので」

 ルノワールが笑顔で言っている。

 えー、引っ越しするの? やだぁ、面倒ー!


「それは有り難い。ですが、弟とは商会のことなど話し合いも必要ですから、行き来はいつでも出来るようにしたままで、おねがいしたいですね」


 ノイエル兄さまはそう言いながら、妙な威圧感を醸し出す。


「そうして頂けると助かります。ミカエルは魔力が強いですが、未熟ですから。僕のサポートも日常的に必要なんですよ」


 ジョエル兄さまは笑顔だが、赤茶の瞳は狂気含みという器用な表情でルノワールを見ている。

 怖いんだよなぁ、ジョエル兄さま。魔法使いと狂気は組み合わせが悪い。

 何かされた事は無いんだけど、何かしでかしそうな空気感だけは忘れない、みたいなキャラなんで。


「あっ……そうですか」


 ルノワールから一旦止まった汗が、再び噴き出した。

 なぜかルノワールは主導権を握りたがっているようだけど、兄さまたちは質が悪いから下手なことを言わないほうがいいのに。

 懲りねぇヤツだな。


 オレがニマニマしていると、「調子に乗らない」とジョエル兄さまにたしなめられた。解せぬ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る