第21話 お話から始めるオメガとアルファ(手遅れ)2

 食堂で昼食を摂りながらの長話。

 防音の魔法道具は置いてあるけど、セルジュとマーサの見守る目が妙に温かくて落ち着かない。


 何あれ?

 他の使用人さんたちの目も、妙に優しいんだけど。

 何あれ?

 オレは気付かないフリして、ルノワールと必要なことを話し合っていく。


 途中で出されたレモンシャーベットは食後のデザートだったのか、お口直しというヤツだったのか。

 分からないが、甘酸っぱくてホロ苦くて美味しかった。

 引き続き、ケーキやら、スコーンやら、クッキーやら並べられて紅茶を出された。

 話ながら食べていると、あら不思議。

 いつの間にか無くなって、いつの間にか補充されている。

 侯爵家には妖精さんがいるのかしら? って、給仕の人がしっかり見てるんだよ。


 防音の魔法道具のせいで、向こうの気配も感じ取りにくいけど、結構な人数の方々に見守られてるんだよ。

 恥ずかしいから、意識しないようにしてるけど。

 オレは、必要なことを思い出した。


「あっ、そうだ。セキュリティのこと、どうする? オレの実家と、こっちの部屋を転移魔法陣つなぐなら、しっかり考えないと」

「セキュリティか。確かに、そこはキチンとしておかないと危険だな。王宮での貴族たちの雰囲気もおかしかったから、警戒しておいたほうが良い」

「やっぱ、あれって変だよな?」


 オレは顔をしかめた。


「他のオメガを知らないから、何とも言えないが。キミがオメガであることを、皆が知っていたのは変だ」


 ルノワールが顔に手をあて、思案深げに首をひねる。


「社交の場に出ないから、ランバート伯爵家の三男であるオレの存在を、知っている貴族は少ないだろうし。オレがオメガって情報だって、あまり出ないようにしているし。結婚相手であるルノワールならともかく、他の人たちには、気付かれるの早すぎだよね」


 王宮ですれ違った男たちの視線を思い出して、オレはブルッと震えた。

 ルノワールが真剣な表情で言う。


「王宮だから情報が早いとしても、用心したほうがいい。何かあるのかも」

「魔法薬や魔法道具を持ち込むの、邪魔されるとか?」


 オレ自身には、たいした価値がない。思い当たるとすれば、そちらだ。


「ああ。すり替えとか、ね」

「なにそれ恐いっ」


 ルノワールの言葉に、オレは震えあがった。

 魔法薬は赤ちゃんに使うようなものではないけれど、悪用されたら簡単に毒が盛られてしまう。

 ルノワールが当たり前のことのように言う。


「オメガが国王になる、なんて話になれば面白くない貴族もいる。命を狙われることがあるのはもちろん、ヒートやフェロモンのコントロールを邪魔したい輩も出るだろう」

「そうだね。殺されなくても、ヒートが悪いタイミングで起きたら社会的に死ぬ」

「次期国王ともなれば、公的な場に出る機会も多い。そこを狙われてヒートを起こされたら危ない」

「あー。ヤバそう」


 オレは性的に狙われたり、誘拐されたりしないように引きこもっていたわけだけど。

 次期国王になるなら公式の場に出る必要がある。

 公式の場に出ず、王位も継がないとなっても、王族なら危険な場面はいくらでもあるわけで。

 その危険から守る役割をオレが助けるのか。責任重大だな。


「それに。キミにしか作れない魔法薬となれば、キミ自身だって攻撃対象になる。注意しないと」


 あぁー、そうだ。

 今まで隠れるようにして暮らしてきたし、自分の分しか作ってないから、忘れてたけど。

 あの魔法薬も、項を守る魔法道具も、オレにしか作れないんだった。

 オレを殺してしまえば、オメガのヒートを管理することも、フェロモンを抑えることも出来なくなるんだ……。


 オレはブルっと震えた。


「あぁ……うん。気を付けるよ」

「そうしてくれ。……ジルベルト」


 ルノワールは食堂に控えていた、シェリング侯爵家の護衛騎士隊長を手招きした。


「ミカエルと一緒に、セキュリティまわりをみてやってくれ」

「承知しました」

「よろしく~」


 軽く挨拶するオレに、経験豊富な護衛は柔らかく礼をした。

 ジルベルトの眼差しも、セルジュとマーサと同じで妙に優しい。

 えーと……オレとルノワールの間には、あなたたちが想像しているようなものは、何もありませんよ⁉

 ホントだよ⁉

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