第20話 お話から始めるオメガとアルファ(手遅れ)1

「オレたちは理解し合うことが必要だ」

「そうだね」


 オレの宣言を皮切りに、相互理解のための話し合いが始まった。

 王宮から帰ってきたオレたちは、食堂で昼食を摂りながら、互いのことを話すことになったのだ。

 他人に聞かれるのは恥ずかしいからと、魔法道具で防音しながらの話し合いは、ちょっとツンケンしながら始まった。


「アンタむかつくけど、オレは大人だから、譲歩してやるっ」


 オレの宣言に対して、ルノワールが無言なんだが。

 解せぬ。

 昼食は、ハンバーグステーキにサラダ、コーンスープにパン。

 侯爵家のシェフは腕が良い。

 ハンバーグステーキは、柔らかいヤツではなく、あらびき固めのヤツだ。

 噛み応えがあって、オレは好き。


 ピッチピチの18歳男子だからね。ガツンと来るヤツのほうがいい。

 生野菜のサラダは、あんまり好きじゃない。

 けど、侯爵家のは青臭くなくて、割と食べられる。

 コーンスープは甘めで好きなヤツだ。

 パンも甘めでふわふわしていて美味しい。


 機嫌よくバクバク食べながら、ルノワールをちょっとだけ睨んでみる。


「一応、オレも貴族だからさ。基本情報くらいは、手に入るでしょ?」

「んー。そうだねぇ……」


 確かにオレは一切の社交はしていないし、あえて存在をアピールする必要のない、伯爵家の三男でオメガだ。

 が、あまりにもルノワールは、オレのことを知らなすぎた。

 ランバート伯爵家三男の情報だって、オメガに関する情報だって、手に入れようはあるだろうに。

 急な話ではあったが、そこは結婚相手なんだし、侯爵家に入る人間なんだから、ルノワールがキチンと抑えるべき所だと思うんだよね。うん。


 綺麗な所作で上品に食事を摂るルノワールに、その程度のことが出来ないとは思えない。

 だからこそムカつく。


「資料はセルジュに用意して貰ったんだけど……」


 優秀なセルジュは急な事だったにも関わらず、オレに関する情報をキチンと集めていてくれたらしい。

 国王さまからも情報は来ていたようだ。

 オレが【魔法道具マグまぐ商会】に関わっていることくらい、セルジュが用意してくれた書類を読めば分かったことなんだよ。

 それにさー、渡された書類くらいチェックしようよ。大人なんだからさ。

 と、思ったんだが。


「この屋敷に、他人がやって来るなんて、久しぶりだったから……」


 どうやら、このバカ(シェリング侯爵家当主)は、舞い上がってしまったようだ。

 両親は既になく、婚約者すらいない孤独な男のもとに、オメガ(美形で可憐で庇護欲をそそる存在(予想))がやって来る。

 男であっても、オメガは可愛くて魅力的という噂(なんでそんなトコだけ情報通?)だ。

 そして暴挙に出た。

 全・裸・待・機である。

 本人曰く、調子に乗りました、ということだが。

 いや、調子に乗るなら全裸で待機するより話をしようよ、と、オレは思ったけれど。


「いや、ちょっと自分を止められなくて……」


 とーめーろぉー!

 全力で止めろよ、バカッ。

 だって、だって。この屋敷へ着いた時にさー。

 緊張して目元赤らめたカッコいいアルファが、オレを待ってたら……とか。

 ちょっとだけ。

 ちょっとだけだけど。

 期待したんだぞっ。オレだって。


 結婚願望なんてなかったし、恋人すら欲しいと思ったことなんてないけど。

 そもそも、男同士なのどうよ? ってのはあるけど。

 放置&全裸待機は無いわ~。

 それだけは無いわ~。


「だから、ごめんって……」

「もう、ホントっ。あーゆーのは勘弁してくれよなっ⁉」

「うっ……うん、承知した」


 素直は素直なんだよなー。

 バカだけど。

 サラッサラの銀髪は綺麗だし。

 バカだけど。

 俯いて、ちょっと上目遣いでこちらを見る青い目は、色っぽくて可愛い上にカッコいい。

 バカだけど。


 あー! なんか、ムカつくー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る