第18話 母を想う

「ミカエルさま。お腹、触ってみますか?」

「いいんですか?」


 驚いて問えば、王妃さまが優しく笑う。


「ええ。どうぞ」


 オレは椅子から立ち上がり、王妃さまの傍らに跪いた。手を伸ばして、少し膨らんだお腹の上にそっと置く。

 強く巡るアルファの魔力の奥に、小さく巡る柔らかな魔力の存在。


「うわぁ……ホントにいる」

「ふふっ。ミカエルさまも、こんな感じだったのでしょうね」

「そうかもしれません」


 お母さま、お母さま。お母さまのお腹にいたオレは、どんな風でしたか?

 答えを聞く機会はないけれど。ちょっとした疑似体験。


「オレと母は魔力が多過ぎたから、こんなに優しい感じではなかったかもしれませんが……」

「優しい、ですか?」

「はい。優しいと思います。リアナさま」

「ふふ。うれしい」


 王妃さまは白く細い手をオレに向かって伸ばし、薄茶の髪を撫でた。

 ふわふわの髪の間を滑る細く長い指は、手元にある温もりを味わいながら未来を夢見ているようだ。

 髪の間を滑っていく指にオレは、過去と未来を感じていた。

 自分の頭を撫でたかったであろう母の姿と、これから生まれてくる王子の姿。

 穏やかで心地よく満ちる愛。

 ここに存在して良いと思える肯定感。

 知らず頬流れた涙を、王妃さまの指が拭っていくことで知る。

 オレが顔をあげれば、そこにあるのは慈愛に満ちた王妃さまの笑み。


「この子を助けてくれると、嬉しいわ」

「……ええ。オレでよければ……」


 お母さま。お母さま。貴女が命かけて生み出した命が、役に立つ日が来ましたよ。


 オレはそれがとてもうれしい ――――――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る