第17話 オメガはオメガを助けたい

「ミカエル君のことは、【魔法道具マグまぐ商会】の情報を集めている時に知ったんだよ」

「そうなんですか」


 あら、意外。

 国王さまにも知られているとは、オレの商会である【魔法道具マグまぐ商会】も、まんざらでもないなぁ。

 ニマニマしてきちゃうよ。


「お兄さまたちとやっている商会、なんですってね」

「はい」

「そうなんだ……」


 上機嫌で王妃さまの言葉に頷けば、隣でルノワールが呆然と呟く。

 両陛下が知っていることを知らないバカ(シェリング侯爵)は、オレの横でどんどん萎れていく。

 面白いから放っておこう。

 

 国王さまが言う。


「しかし【魔法道具マグまぐ商会】では【オメガ】関連のものは扱っていない。けれど、キミ自身は体調をしっかり管理できている。そこでキミのことを、調べさせて貰ったんだ。どうやら自作の魔法薬で、体調管理をしているようだね。そう報告を受けている」

「はい。魔法薬については母が処方を残してくれていましたから」


 オレの答えを聞いて、王妃さまがニッコリと笑う。


「ええ。お母さまが、アリエルさまだと聞いて納得しましたわ」

「はい。ありがとうございます」


 母が生きていた時代には、女性が前に出て働くのが難しかった。

 今であれば優秀なアルファである母は、もっと活躍できただろう。

 でも当時は難しかった。

 なのに知っていてくれる人が居る。それが、とても嬉しい。


「ランバートの家は、母が立て直したようなものですから」

「魔法薬が、お得意でしたのよね?」

「はい、そうです」

「効果のあるオメガ向けの魔法薬が、アリエルさまの時代からあったのは驚きですわ」


 確かにそうだ。母の時代からあったのなら、今は普通に出回ってなきゃオカシイよな。


「民間薬として使われていたものが、当時もあったようです。それを母が改良して。その処方を、更にオレが改良しました」

「それを使うと、ヒートが楽に乗り切れると?」


 国王さまが真剣な目をして問う。女性オメガよりも男性オメガのほうが、ヒートの問題は深刻だ。

 同性である国王さまにとってヒート時のことは、王妃さまよりも気になる問題なのだろう。


「はい。オレ自身はヒートに苦しめられた経験はありません」


 国王さまは思案深げに、何度も頷いた。王妃さまが首を傾げながら問う。


「効果が高いのですね。それを売ろうとは思われなかったのですか?」

「自分で使うのは良くても、販売するとなると……色々と手続きが大変ですので。それに。【オメガ】関連となると、審査が途端に厳しくなるんですよね」

「まぁ」

 

 王妃は眉をひそめた。

 それはそうだろう。薬があるのに使わせない、と言っているようなものなのだから。

 オレの作った魔法薬があれば、オメガだって自己管理ができる。

 体質によって個人差があるから完璧とは言えないだろうが、自然のままにヒートを迎えるよりは楽になるはずだ。

 それを邪魔する奴らがいる。

 それがオメガの生きにくさの原因にもなっているのだ。


「それは少し調べてみないといけないね」

「そうしていただけると助かります、アルバスさま」


 国王さまの言葉に、オレは乗っかった。

 もっとも、調べるまでもないことは、分かっているけどね。

 オメガのための薬なんて甘やかしだ、って兄さまたちはハッキリ言われたらしいし。

 オメガなんて男女合わせたって人数は少ないし、八つ当たりみたいに嫉妬を向けられる存在だからさ。

 世間一般的には『少しでも楽に』なんて考えはないんだよ。

 それは分かっている。

 でも、これからは変わっていくのかもしれない。


 王妃さまが話しかけてくる。


「ねぇ、ミカエルさま」

「はい」


 強い光を放つ黒い瞳が、オレを捉える。


「あなたに、この子を助けて欲しいの」


 このオレが、未来の国王のために働く?


「この子のために、魔法道具と魔法薬を、お願いしますね」

「はい……わかりました」


 それは、とても光栄なこと。


「男性として生まれても、女性として生まれても、我が子の幸せを願う気持ちは同じです。それはオメガであっても、アルファであっても同じこと。オメガの……男の子であっても、幸せになって欲しいの」


 それでも、どこかモゾつく気持ちが湧くのはなぜ?


「王族ともなれば、貴族とは違った大変さがある。その中でオメガとして生きていかなければならない。そんな運命を背負ってしまう我が子を、どうやって守るのかを考えるのは親の務めだ。それをキミに手伝って欲しい」


 特別な子の話、だけだから?


「王族。そして第一子の男児。おそらく、この子の立ち向かわねばならない運命は過酷です」

「その過酷さを和らげるための手立てを一緒に作ってはくれないだろうか?」


 王妃さまと国王さまの気持ちは分かるんだ。

 我が子は大事。

 しかも世継ぎの王子となれば、国としても大事。

 だけど。モゾモゾする気持ちを無視できない。


「……あなたの過酷さを助けることができなかったのだから、納得できない気持ちがあっても仕方ないと思うの」


 そうか。オレが助けて貰えなかったから、モゾつくのか。

 ……いや、違うな。

 オレだけじゃない。むしろオレは十分、助けられたと思っている。

 助ける方法があるのに助けを得られなかった、今も苦しんでいるオメガがいることに、オレはモゾついているんだ。


 両陛下は、真摯な眼差しをオレに向けて言う。


「だから、私たちは誓うよ」

「我が子を救うだけに留めたりはしないわ」

「私たちの子だけでなく、全てのオメガが幸せに暮らせるよう努力すると誓おう」


 そうなったら素晴らしいけれど。それを期待していいのかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る