第15話 王妃さまのお腹にいるのはオメガ

「この結婚。どういう事なのか、説明してくれよ、アル」

「まぁまぁ、落ち着けルノ。まずは座ろうよ」


 本題をサックリ切り出したルノワールに、笑顔対応の国王さま。そこに王妃さまも加わる。


「そうですよ、ルノさま。うふふ。落ち着いてください」

「無理です。いきなり結婚しなさい、って言われたら驚きますよ」


 なんだか、ルノワールが両陛下に構われている気がする。

 他人事なんで、オレとしては一向にかまわないけど。

 オレたちは促されるまま椅子に座った。

 テーブルを挟んで、左手に国王さま、右手に王妃さまが座っている。

 オレの右手には、ルノワールが座った。緊張する。モゾモゾして落ち着かない。


 ルノワールは、青い目をキッと鋭くして国王さまを睨んだ。

 睨まれた当人である国王さまは、へラリと笑って言う。


「あ? 訳ありだって分かっちゃった?」

「そりゃ分かります。でも理由が分からない。説明してください」


 うん。

 国王さまとルノワールの仲良しコントを見ていてもいいけど、説明は欲しいな。


「そうよね。説明は必要よね。ふふふ。まずは、結婚おめでとうございます」

「ありがとうございます、リアナ。って、説明!」


 そうか。ルノワールはツッコミ入れる係なんだな?

 王妃さまの余裕ある対応に比べると、ちっさく見えるツッコミだけど。


「うふふ」


 王妃さまは、余裕の笑みを浮かべてらっしゃる。

 文句なく美しい。


「うん、説明ね」


 国王さまもニコニコしていらっしゃる。

 さすがアルファ、余裕が優しくきらめく。


「そうです。説明してください、アル」


 ルノワールは、若干キレ気味。

 余裕ねぇーな、お前。

 でも気持ちは分かる。


「オレも説明して欲しいです。国王さま」


 不本意ながら、余裕なしアルファのルノワールに乗っかっての、質問タイムです。

 オレの言葉に、陛下は両手を広げ天を仰いで言う。


「あーミカエル君、呼び方が硬~い。私のことは名前で呼んでくれたまえ、名前で」

「えっ……それはちょっと……」


 ちょっと引く。

 なんだ、この国王。


「アルバス。アルでもいいよ~」

「えっと……アルバスさま?」


 でも相手は国王さまだから、突っ込まずに従っておこう。


「あっ。これ、いい。ちょっと固いけど、可愛いぞミカエル君っ」


 国王が青い瞳をキラキラさせて、オレを見ている。

 とても嬉しそうだ。

 ナニがそんなに嬉しいんだろう?


「では。わたくしのことは、どうかリアナと呼んでくださいな」


 国王の隣でソワソワしていた王妃さまも、黒い瞳を輝かせてねだる。


「えっと……リアナさま?」

「まぁ、可愛い。うふふ。」


 国王さまと王妃さまが、なぜか盛り上がっている。


 えっ?

 なぜ?

 オメガだから?

 そんなにオメガって珍しいの?

 珍獣あつかいなの?


「うふふ。可愛いわぁ、ミカエルさま」


「そうだね。楽しみだね・・・・・・


 ん?

 楽しみだね・・・・・・


 国王さまは、ニコニコしていて上機嫌だ。

 その隣で王妃さまも、満ち足りた笑顔を見せている。


「この国では、オメガが外に出ることは少ないからね。配偶者に迎えるか、家族にオメガがいるか。アルファがオメガと接点を持てるのはそれくらいしかない。こうしてアルファがオメガに会うという機会は、滅多にないことなんだよ」

「ええ。わたくしもオメガの方にお会いするのは、初めてですわ」

「そうなんだ。……でも、アンタは割と普通だったよね?」


 オレはルノワールを振り返った。

 ルノワールの肩が、ちょっとビクッってなったのは、なぜ?

 アレを普通と言うかどうかはともかく、両陛下とは反応が違ったのは確かだ。


「ルノさまは、ひとりっ子でいらっしゃるし。ご両親も早くに亡くされていますから、とても緊張されたと思いますわ」

「そうだね。ルノは兄弟すらいないからね。私たちとは、反応が違ったのかもしれないね」


 クスクス笑っている両陛下に対して、ルノワールは、バツの悪そうな顔をしていた。


「……」


 違いすぎる。違いすぎましたともっ。

 そいつ、全裸で初対面かましたんですけどっ。

 言いたいけど、言えない。

 言えないけど、言いたい。


「それで、私たちを結婚させた理由はなんですか? 説明してください」


 あっ。ルノワール・シェリング侯爵(バカ)が話題を戻した。

 すると国王さまはゴホンと咳をして、ちょっと改まった顔をする。

 横にいる王妃さまも少し澄ました表情になった。


「実は。キミたちに結婚して貰ったのには、リアナのことが関係している」

「リアナさまに何か?」

 

 心配そうな表情を浮かべたルノワールに、王妃さまが微笑みかける。


「ふふふ。心配なさらなくても大丈夫でしてよ、ルノアールさま。わたくしの変化、分かりませんか?」


 王妃さまは、ドレスの上からお腹のあたりをさすって見せた。


「えっ? まさか……ご懐妊?」

「ふふっ。正解」


 王妃さまは、とても嬉しそうに、とても優しい笑みを浮かべた。

 それはとても美しく、見ているこちら側の心まで浮き立つような笑みだった。


「おめでとうございます」

「おめでとうございます!」


 ルノワールに続いてオレもお祝いの言葉を口にした。


 わー。

 王妃さまにお子さまが?

 次期国王さまかも。

 楽しみ。


 思わず笑顔になるオレとルノワールに向かって、国王さまはなぜか真剣な顔を見せた。


「そこで、キミたちに結婚して貰ったわけだ」

「私たちの結婚と、ご懐妊に何の関係が?」


 ルノワールが怪訝そうな顔をした。

 うん。オレも疑問だ。


「それがな。どうやらリアナのお腹の子は、オメガのようなのだ。しかもキミと同じ男の子」

「えっ?」


 子供がオメガだと困るの?

 オレは眉をしかめた。


「あぁ、勘違いなさらないで。わたくしたちは、お腹の子がオメガであることを嘆いているわけではないのよ」


「そうだ。案じてはいるが。ミカエル君。キミなら詳しいだろう。オメガの悲劇というものに」


 国王さまは、思いのほか真剣な表情でオレを見た。


「……ええ」


 あー。そうだ。オメガだと……あー、色々と面倒なんだ。

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