第14話 国王と王妃

「キミがミカエル・ランバート伯爵家子息殿か。うーん。可愛いねぇ。やっぱオメガは、男の子でも可愛いねぇ」

「……はぁ……」


 オレは戸惑っていた。

 我が国の王が、ふにゃんと笑みを浮かべながら褒めてくるからだ。

 いや、身長178センチもある18歳男子が可愛いわけなかろう、とツッコみたいけどツッコめない。


 なにせ相手は国王さまなので。

 そもそも褒め言葉なのか?

 18歳男子に向かって、可愛いとか、男の子とか言ってくるのは。

 どう反応していいか分からない。


 相手は国王さまだし、オレは社交慣れしていないから、さっぱり分からん。


 ルノワールの後について入った部屋は十分に豪華だった。

 それでも、王宮内においては"リラックスできる部屋"扱いらしい。

 国王さまは、金髪碧眼高身長で、アルファらしい威厳と美しさを兼ね備えていた。

 赤に金の飾りのついた肋骨服に白のトラウザーが、リラックスウエアなのかどうかはともかく、よく似合っている。


 身長はルノワールよりも高い。

 兄たちもデカいから高身長の男には慣れているが、国王さまは厚みが違う。

 筋肉がしっかりついている体は、国王という身分を差し引いても、軍人から舐められそうな隙などない。

 国王さまとルノワール、二人が並ぶとアルファのなかでもランクがあるんだな、というのが分かる。


 ルノワールは、ちょっと線が細くて女性的だ。

 対して国王さまには支配者としての風格がある。


 国王さまは、緩やかな曲線を描きながら流れる長い金髪だし、まつ毛も長い。

 でも、スッと通った高い鼻も、青い瞳のはまった大きな目も、力強くて男性的だ。


 国王さまとルノワールは同じ年齢くらいのアルファなのに、何かが違う。決定的に違う。……地位か?


 いや、それだけではない気がする。


「ミカエルが戸惑っているから、止めて下さい。国王さま」

「いや、いつも通りアルバスでいいよ、ルノ」


 オレの横でキリッと抗議するルノワールに、くしゃっとした笑顔を向ける国王さま。


 これはアレだな。

 格の違いというヤツだ。

 国王さまの余裕が半端ない。


「では、アル。ミカエルを構うの止めろ」

「いいじゃない。ミカエル君、可愛いんだもの。構いたい」


 余裕のないルノワールに対して、余裕のある大人の男対応の国王さま。

 どっちに構われたいかと言えば、断然、国王さまである。


 とはいえ、国王さまに構われたら緊張で固まるので止めて欲しい。

 にしても気安いな、この二人。


「えっと……おふたりの関係は……」

「幼馴染なんだ。ルノから聞いてない?」

「軽くは聞きましたけど。本当に仲が良いのですね」


 普通、仲が良いと聞いていても、兄弟並みとは思わないだろう。相手は国王さまなんだし。


「んっ。ルノは有力侯爵家のアルファだからね。子供の頃から側近候補として一緒に育ったの」

「側近候補かどうかは別にして、割と一緒に育ったね」

「そうなんだ」


 軽い調子で言う国王さまに、軽い調子で突っ込むルノワール。

 んー、国王さまと一緒に育った男なのかルノワールは。侯爵って地位、高いんだな。


「うふふ。アルとルノは、昔から仲良しさんなのよ。わたくしも、子供の頃からの仲なのよ」

「王妃さまも、ですか」


 王妃さまは、黒髪に黒い瞳が印象的な美女だ。

 胸の下で切り替えのあるワイン色のドレスがよく似合っていた。

 背が高いうえヒールを履いているからか、身長はルノワールと同じくらいに見える。

 ルノワールよりも細いが、流石アルファという迫力を持った女性だ。


 部屋に通されたオレは、迫力のアルファ二人に圧倒された。

 それでもルノワールに倣って、どうにか挨拶を済ませることができた。

 その点は良かったのだが、実際に仲良しな関係性を見せつけられることとなり、早く逃げたい気持ちでいっぱいだ。


 我が国の前国王が早々に位を譲ってしまったため、現国王と王妃は若い。

 近隣諸国との争いごともなく、落ち着いた状態であることも考慮に入れて、若いふたりに経験を積ませるために、前国王が譲位を前倒ししたらしい。


 バタバタして新国王を立てるよりは、と周囲も好意的だと、兄たちから聞いている。

 この方なら大丈夫だろうな、というのはオレも感じた。


 だから不思議である。

 なぜオレとルノワールを、王命なんかで結婚させたりしたんだろう?

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