第4話 魔法の天才

 オレはオメガではあるが、庇護欲をそそる可愛い顔も、性欲をそそる魅惑的な体も持ってはいない。

 アルファである兄たちより身長は低いし肉付きも悪いが、下手したらその辺のベータ男性よりもデカい。

 顔も普通。髪色も目の色も茶色でごく普通だ。


 魅力に乏しいオメガであるオレは意外な所で才能を発揮した。

 魔法だ。

 オレはいわゆる魔法の天才ってヤツだった。


 普通のオメガは教育すらまともに受けられないのだが、我が家には魔法省に勤めるほど魔法に秀でた兄がいる。

 試しに教えてみたら魔力量は多いし、技術の習得は早いし、面白いほど急速に伸びたらしい。

 オレには自覚ないけど。


「お前は魔法で食っていける」


 ジョエル兄さまのお墨付きである。イェーイ。


 なにせ、オレの命は母の犠牲にしているのだ。

 粗末にはできない。

 そのためには自立すること。

 それしかない。


 番に人生を支配されるなんてとんでもない。

 普通の結婚でも同じだ。

 誰かの支配下に置かれるなんて気持ち悪いからごめんだ。


 政略結婚を避けるために長兄は頑張ってくれた。

 あとは自分で頑張るしかない。

 三男であるオレは、爵位を継いだ長兄のもとにいれば守られる。

 だからって、それに甘えるのは間違っているとオレは思うんだ。

 ノイエルに何かあれば、簡単に状況は変わってしまうしね。


 誰だって結婚したり、子供ができたりと状況は簡単に変わる。

 対してオレは一生オメガだ。

 兄たちの配偶者にも、その縁故者にも、警戒はしなきゃいけない。


 黙って従うしかない状況を変えなきゃ、一生怯え続けることになる。

 そんなのは嫌だ。

 オレの考えに兄たちも同意してくれた。

 だから協力が得られたのだ。

 彼らが優秀だったこともオレには幸運だった。


 自立の第一歩は学ぶこと。その学ぶことすらオメガには難しい。


 上の兄、ノイエルは文武両道タイプ。勉強や剣の扱いなどは彼に教えて貰った。

 家庭教師も迎えたけれど、トラブルはゼロとはいかなかった。

 だから、基本はノイエルに鍛えられた。


 オメガは体力がないし筋肉も付きにくいから大変だったが、その辺も長兄が調べてくれて無理なく効率的に習得できた。

 オレは賢い強いとまでは言えなくても、基本は身に付けることができた。


 オレは環境にも恵まれていた。


 下の兄、ジョエルは魔法の才に秀でている。実際、魔法使いになり魔法省勤めをしている。

 次兄は家を継がないが、しっかりと自立している。

 自立を目指すオレの手本だ。

 とはいえ、オレが勤め人になるのは難しい。


「ミカエルは魔力量が多いから魔法使い向きかもしれない」

 次兄からはよく言われていた。だからオレも魔法に関する学習には力を入れていた。


「でも人間相手に商売するのは難しいかもしれないね」

 長兄の言うことももっともだった。だからオレはオレなりに考えた。


 魔力量の多いオレは魔術の腕も上がった。だからといって、自分がどこかへ行って魔術を使うというのは向かない。


 勤めに出かけてるのも無理。

 出向く必要がなく、魔術の力を活用できるもの。

 そこに勝機があった。


「ねぇ、兄さまたち。オレ、魔法道具作ってみたんだけど、どうかな?」


 このチャレンジがオレの人生を変えた。


「いいね。ミカエルが作った魔法道具。コレなら売れんじゃない?」


 次兄のお墨付きを貰った。


「ああ、そうだな。ミカエルは表に出られないから商会を作ってしまおうか」


 長兄もノリノリで協力してくれた。

 だからオレは養育される期間も上手く乗り越えた上、自立する手段も手に入れたんだ。

 亡くなった母が作ってくれたレールの上を乗りこなせたと思う。

 母は大人になるための資金と協力してくれる人材を与えてくれた。


 不満があるとすれば、死なないでいてくれたら、と思うことはあるけれど。

 何とか乗り切れた。


 オメガにとって厄介なヒートについても自分で対策が出来た。

 ヒートは周期的に訪れるが、まともな薬ひとつないのが現状だ。

 自宅に引きこもるしかないオメガ向けに、何か作ろうと考える者などいない。

 人数も少ないから商売になりにくいし、オメガ自身には学がない。


 結果、民間療法的なものが少しあるだけで後は自然に任せるのが普通だ。


 自然に任せていると、ヒートの期間ってヤツはかなりキツイ。

 自分の事しか分からないが、他のオメガだってキツイはずだ。


 パートナーがいると子作りの期間になるわけだが、それはそれでキツイと思う。

 ヒートには個人差があるとはいえ、一日で終わるようなもんじゃない。

 パートナーが居たってその期間、付きっきりになれるとは限らない。

 妊娠中はヒートから逃れられても産んだらすぐに再開してしまう。


 ヒートから逃れるために、続けて妊娠してしまうという方法もあるけれど。

 間をおくことなく妊娠を繰り返せば、体を充分に休めることができず、寿命を縮めてしまうことになるのだ。

 オメガにとって、メリットのあることではない。

 だがアルファとオメガだと、アルファの生まれる確率が高いため、あえて放置されているらしい。


 とんでもない話だ。


 だからオレは魔法道具や魔法術式、魔法薬などで対策できないか色々と試した。

 幸い、次兄という優秀な先生がいたから相談相手には困らなかった。

 次兄のジョエルは優秀で幅広く知識を持っていたから教えて貰ったり、一緒に文献を漁ったり、実験したり。その繰り返しだ。


 魔法薬が出来たら出来たで、どうやって体内に取り入れるかが問題になる。

 毎日、定期的に摂取するのは意外と難しい。

 だからオレは魔法道具を使う方法を思いついた。

 アイテムとして選んだのがチョーカーだ。

 魔法と組み合わせてあるから、オレのヒートはかなりコントロール出来ている。


 ヒート時も日常と変わらず過ごせる。

 日常がそもそも普通じゃないけどな。


 それでもヒート期間の体調管理ができるのは楽だ。


 ヒート時の管理が出来るようになったことで、日常のコントロールも上手にできるようになった。

 他人に影響を与えるフェロモン。

 これをコントロールできるようになったのは大きい。

 襲われる危険性が格段に減るからだ。


 オメガの希少価値を考えると誘拐などの危険が減るわけではないが、そのつもりのない相手が暴走して襲ってくることは防げる。


 残念ながら、まだ売り物になるレベルじゃない。

 だが、オレの体調管理くらいなら難なくこなせる。


 将来的には誘拐対策の魔法道具を開発して組み合わせることでオメガを解放できるのではなかろうか、と考えるほどには上手くいっている。


 兄たちが協力して作ってくれた商会、【魔法道具マグまぐ商会】の経営も順調だ。

 【魔法道具マグまぐ商会】で、オレの開発した魔法道具や魔法薬を売って利益を出している。

 収入を得られる仕事が出来るようになったのだ。

 経済的にも自立し、やりがいのある仕事もある。

 オレは恵まれた【オメガ】だ。

 だから、【オメガの悲劇】からは逃れられると思い始めてたんだ。


 でも……。

 王命により結婚が決まった。


 オレは運命から逃れられない。

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