第2話 オメガなオレ

 オレはミカエル・ランバート18歳。ランバート伯爵家の息子だ。

 もっとも【息子】と、言い切るには難がある。

 なぜならオレは【オメガ】だから。


 この世界には男と女という性別以外に【第二の性】と呼ばれる特徴がある。【アルファ】と【ベータ】、そして【オメガ】だ。【ベータ】が一番多くて、至って普通。【アルファ】は優れている。【オメガ】は男女を問わずに孕むことができる上にヒートがある。いわゆる発情期だ。

 この時期は優秀なはずの【アルファ】ですら抗えないフェロモンを放ち、発情を促すと言われている。

 ヒート時は発情しちゃってるオメガ本人の方が大変だと思うが、優秀な【アルファ】を手玉にとれることに対する嫉妬の方が重要なのか、印象があまりよろしくないらしい。だから【オメガ】の立場は低い。特に男の【オメガ】は。


 そんなオレが父の書斎に呼ばれた。悪い予感しかしない。

 久しぶりに入った書斎には、見覚えのある物と見覚えのない物が入り交ざっていた。

 下品でケバケバしい調度品と、長い歴史を感じさせる重厚な家具とが混在する部屋。

 この部屋は敵地だ。


 開け放たれた窓から流れ込む庭の香り。

 実母が愛していたと教えられた庭には今が盛りの薔薇が咲き乱れている。

 赤や白、黄色の花弁を広げて咲き誇る薔薇たちは午前の太陽を浴びてきらめいていた。


 華やかで晴れやかな初夏を感じる春の日。

 オレと同じ薄茶の髪と瞳を持っているショボくれた中年男が、椅子の上で精一杯の威厳を作って得意げに口を開く。


「お前の嫁ぎ先が決まった」

「……」


 オレは無言で父を睨んだ。オレは【嫁】になるのか。男なんだけどな。


「不本意かもしれんが、王命だ。逃げられない」


 父はにやりと笑う。

 下衆な表情を浮かべた父の顔に、オレは吐き気がした。

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