オメガだからって甘く見てるから溺愛する羽目になるんだよっ!

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話 甘くみられたオメガは股間を蹴りあげる

 結婚って、こんなもんだっけ?


 ご機嫌で風呂から上がってきたオレ(ミカエル・ランバート伯爵家三男(18歳))は、ドアを開けた途端に固まった。


「やあ。はじめまして」


 バカみたいにデカイベッドの上。

 天蓋から垂れ下がる白いカーテンが綺麗なドレープを作る向こうに、素っ裸の知らない男が片肘をつき寝そべって、オレのことを見上げていた。


「わたしの名はルノワール。今日からキミの夫になる男だ」


 サラサラの長い銀髪が白いシーツの上に垂れ広がり、顔立ちは整っていて女性みたいに美しい。

 男心を惹きつける女性的な美貌を裏切るバッキバキの筋肉は、乳白色の滑らかな肌に覆われていた。

 スッと切れ長の大きな目にはまった青い瞳が、オレをジッと見ている。


「……っ」

 対してオレは、貧相な体にバスローブ一枚引っ掛けただけの姿だ。

 思わず息を呑み、オメガの首筋を守るチョーカーを掴む。

 喉が動いたのをチョーカー越しに感じた。


「ぁ……オレはミカエル・ランバート……」


 辛うじて名乗ったオレの髪はびしょ濡れで、タオルを巻きつけただけの頭からは水が滴り落ちる。

 どうってことない薄茶の髪と瞳。

 男としては貧弱で、オメガにしては育ち過ぎの体。

 目前のアルファに比べたら魅力の差は歴然としていた。

 なのに。アルファの男、ルノワールは余裕のある笑みを浮かべて、オレとの差を見せつけてくる。


 なんていけ好かない男だ。


 そう思っているのに、オレのどうってことない薄茶の瞳は、嫌味なほど魅力的なルノアールアルファの姿から視線をそらせない。


「今日からは、シェリングだろ?」

「……っ」


 バカにしたような薄笑いを浮かべるルノアールに、そう指摘されてオレは唇を噛む。

 

 確かにそうだ。

 オレは今日からシェリングになった。


「さぁミカエル。初夜を始めようか」

「……はぁ?」


 確かに今は夜だけど。問題はそこじゃない。


「白い結婚じゃなかったのかよ⁈」


 オレは驚いて思わず叫んだ。

 なのに、余裕の笑みを浮かべてアルファルノワールは言う。


「結婚した当日の夜は、初夜だろ?」

「そりゃ、そうだけど……」


 アンタ、オレが屋敷についてから今まで顔を見せなかったよな?

 オレのこと、気に食わないんじゃないの?

 それに、さ。


「初顔合わせが裸って……ないだろ?」


 オレの背中を冷や汗がダラダラ流れていく。

 無いわぁ~。

 イロイロ……無いわぁ~。


 とか思いながら精神状態立て直そうとしているオレに、余裕のアルファさまが言う。


「何を言ってるんだ、キミは」


 裸の美丈夫がシュッと身を翻して起き上がり、ベッドからスッと降りて立ち上がる。


 さすがアルファさま。

 裸で歩いていても様になる。

 アソコはブラブラ揺れてるけどな、などと呑気に思っていたら。


「……っ⁉」

 

 オレはいきなり抱き上げられた。

 いわゆるお姫さま抱っこ状態である。


「⁉ っ! ⁉」

 

 言葉も出ないまま動揺するオレはそのまま運ばれて、ベッドの上にポフンと落とされた。

 慌てふためくオレを見下ろして、アルファルノワールは言う。


「オメガにヤる以外の価値などない」

「そんなわけあるかぁっ!」


 抱き込まれて引きずり込まれたベッドの中で即座にオレは、ルノワールの股間を容赦なく蹴り上げた。

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