昼下がりの電子レンジ

夏休み、昼下がり。

窓の外では、運動部がなにやら練習をしている。相当気温は高そうだ。

僕はと言えば、涼しいパズル部部室内で、ゲームをしていた。

お昼時なのもあるのか、僕しか部室にはいない。

その中で僕はいまいちゲームに集中できなかった。

電子レンジがあるのだ。

部室内に、床直おきで。

昨日まで無く、今日突然現れた電子レンジ。

なぜだ。

謎まみれの電子レンジレンジから意識をそらそうとした時、扉の開く音がした。

音のした方を向くと、高梨さんがコンビニの袋を持って立っていた。

「買ってきたわ」

そして、中から惣菜パンを出すと、僕に渡してきた。

くれるのだろうか。

「ごめんだけど、漸くん。ちょっとこれ、温めてくれない?」

それだけ言うと、また部室を出ていってしまった。

自分でやればいいのに、と思いつつ、謎のレンジの方を向いて、ふと、思い立つ。

これ、高梨さんが持ってきたんじゃないか?

パズルを仕掛けに来ているんじゃないか?

僕は受けて立つことにした。


温める前に惣菜パンの裏を見る。

『500W 3分

 1500W 1分』

「500Wか、1500W。極端だな」

電子レンジを操作して、500Wに合わせようとする。ならない。

ならば、と1500Wに合わせようとする。ならない。

ワット数は1000Wから動かない。

今回のパズルは1000Wでは何分かかるか、と言うことらしい。

だけど、

「簡単じゃないか」

僕は迷わず、二分温めた。

二分後、しれっと高梨さんが戻ってきた頃、電子レンジのタイマーがなった。

惣菜パンを取り出す。だが、明らかに温め過ぎだった。

温めた惣菜パンを

「ありがとう」

と、受け取りながら、高梨さんは言う。

「見事、引っかかったわね。この数学パズル」

僕はむしろ、数学というところが引っかかりながら尋ねる。

「何分が正解なの?どう考えても二分だったけど」

「それがひっかけなのよ」

はむはむとパンをたべていたのをしっかり飲み込んでから高梨さんは言った。

「ワット数と時間から考えて、温めるのに必要な電力は

 500W × 3分 = 1500W分

 1500W × 1分 = 1500W分

でしょ。

1000Wで二分かけると

 1000W × 2分 = 2000W分

必要以上に温まるの。

だから、正解は

 1000W × 1.5分 = 1500W分

一分三十秒よ。まあ、こんなもの、パズルじゃなくて数学だけれど」

直感で答えたらミスリードするようにできていたのか。

高梨さんが書いた計算式を眺める。

この人が出してくるものが一筋縄で行くはずはない。

納得しながら、僕も昼ごはんを食べ始める。

このためだけに持ってきた電子レンジをどうするか困っている高梨さんを見ながら、パズル部の昼は過ぎていく。

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