第7話
4日目
先に目が覚めたのは優人だった。
「やっぱり、綾佳ちゃんと一緒に寝ると安心感からか、ちゃんと眠れるんだよな」
そう言いながら、綾佳の寝顔を今日もかわいいと思って見ていた。
「あれ、昨日私が寝たふりしたときは呼び捨てだったのに。今日はちゃん付けなんだね。呼び捨ては2回目だね」
優人は呼び捨てを聞かれていたことをごまかす。
「おはよう。今日の予定は?」
早口で綾佳に訊いた。
「『綾佳、おはよう』って言ってくれたら教えてあげる」
「……綾佳、おはよう」
少し棒読みで優人は言った。
「うーん。まぁ合格」
綾佳は少し納得いかなかったが、朝からキュンとしたため、よしとした。
「今日は朝から授業があって、その後そのまま、夕方までバイトなの。だから、夜は家で優人と一緒にお酒飲みたいな……って思ってるんだけど」
優人は呼び捨てにドキッとしたが平静を装った。
「わ、分かった。何か買っておいて欲しいものとか、作っておいて欲しい料理とかある?あっ、あと家事とか」
しかし、呼び捨てされたことに動揺している優人のことを、綾佳はかわいいと思った。
「じゃあ3つ、お願い聞いてもらおうかな?」
「何でも言って」
優人は綾佳に頼られることが、何より嬉しかった。
「1つ目はちゃんとお昼ご飯を食べること。2つ目は夜飲むお酒と、そのおつまみも一緒に買ってきてほしいってこと。3つ目は私が帰ってきたときに、『おかえり』って言うこと」
綾佳はこの3つを優人にお願いした。
「分かった。約束するよ」
優人はまっすぐ綾佳の目を見て言った。
「うん。じゃあ朝ごはん食べよ」
そう言って2人は朝食を食べた。
「そういえば、家事とかってしてほしいことないの?」
優人は朝食を食べ終えた綾佳に訊いた。
「洗濯とかお願いしたら……私の下着……見られて恥ずかしいから」
綾佳は準備をしながら、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「そう……だね。じゃあ、自分で使ったものはちゃんと自分で洗っておくね」
「ありがとう。優人が一緒にいてくれるだけで嬉しいよ」
そういって、洗面台へと行った。優人は、絶対に綾佳と結婚すると心に決めた。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言って綾佳は大学へと向かった。それを見送った後、優人も出掛ける準備をしようと思ったが、あることに気がついた。
「あれ、待てよ。僕1人で買い物なんて、できる訳ないじゃん」
そう思いながら、綾佳が「自由に使って」と、大学へ行く間際に置いていったクレジットカードを眺めていた。
「そうだ。ネットスーパーで買い物して、置き配にしておけばいいんだ」
思いついた瞬間に、ネットスーパーでお昼に食べるうどんと、夜に綾佳と一緒に飲むお酒とおつまみを、12時過ぎに届くように注文した。ひとまず、頼まれてた3つの内の2つを終わらせた優人は、飛び込むようにベッドに寝転んだ。ベッドには、ほんのり綾佳の匂いが残っていた。優人はもう綾佳に会いたくなっていた。
「本当に綾佳に見つけてもらえてからの3日間、色々あったけど幸せだったなぁ。本当に……本当に綾佳ちゃんに見つけてもらえていなかったらどうなってたか。よかった……本当に……」
少し涙を浮かべた優人は、ベッドに顔をうずめた。優人は綾佳の匂いに安心したのか、そのまま眠りについてしまった。
「ん…………綾佳……好き…………はっ、寝てたのか。って今、何時だ」
優人はスマホを見ると12時前だった。そして綾佳から何度か不在着信が入っていた。
「授業中だったらあれだろうし、次かかってきたら出よ」
背伸びをして、机の上にあった朝食の後片付けを始めた。
流し台で洗い物をしていると、部屋の外からガタッという音がした。優人は、おそらく荷物が届いたのだろうと思った。そして玄関を開けると、優人の予想通り荷物があった。その荷物を持って中に入った。すると、綾佳から電話がきた。
「もしもし」
「あっ、優人。よかった。何回か電話かけたけど、出てくれなかったから。それで、買い物できたかなと思って?」
優人が困っていないかどうか気になって、綾佳は電話をかけていた。
「ごめんね。ちょっと寝ちゃってて。買い物はネットで注文して今届いたよ」
優人は、綾佳を安心させるような優しい声で言った。
「それならよかった。これからお昼食べて、バイト行くね」
「うん。バイト頑張ってね」
そう言って通話を切った。そして優人は買ったうどんを食べ始めた。
うどんを食べ終えた優人は、ゴミを捨てた。そして18時頃まで、ゆっくりとテレビを見て過ごしていた。そして綾佳が帰ってきてすぐにお風呂に入られるように、お風呂を沸かした。
「あとは、綾佳が帰ってくるのを待つだけだ」
優人は、綾佳に会えると思うと心が躍っていた。
「はぁはぁ、ただいま」
綾佳は19時過ぎに、息を切らして走って帰ってきた。優人は綾佳にビックリして玄関へ来た。
「どうしたの? そんなに走って。大丈夫?」
優人は心配そうに言った。
「優人に一秒でも早く会いたかったから。走って帰ってきちゃった」
綾佳はそう言って無邪気に笑った。優人は綾佳を抱きしめた。
「おかえり。綾佳」
緊張気味に優人が、綾佳の耳元で囁いた。
「私、汗かいてるけど、匂い大丈夫?」
「全然大丈夫だよ」
そう言って2人は部屋の中へ入った。
「お風呂沸かしてあるから、綾佳入ってきたら? 汗かいただろうし」
優人にそう言われて、綾佳は少し照れた。優人はそれを見て不思議に思った。
「その……一緒に入る?」
「本当に……いいの?綾佳がいいなら……その……いいけど」
優人は緊張しながら本当にいいのか確かめた。
「私は……いいよ」
そう言って2人は緊張しながら、浴室へと向かった。そして2人で40分ほど、仲良くお風呂に入った。
「はぁーっ。すっきりした」
綾佳はまるで緊張していないかのように振る舞っていた。
「お酒、飲もっか」
そう言って優人は冷蔵庫で冷やしていたお酒を出した。
「はい、綾佳の分のチューハイ。これ好きでしょ」
綾佳は自分の好きなチューハイを知っている優人に驚いた。
「ありがとう。でもなんで知ってるの?」
優人は自慢げに笑った。
「綾佳のことぐらい、顔を見たらなんでも分かるよ」
「冷蔵庫にあったとか?」
綾佳には何でもお見通しだった。
「正解。本当に僕のこと理解してるよね」
「当たり前でしょ……好きなんだから。さっ、早く乾杯しよ」
2人は缶を開けた。プシュっと良い音が部屋に響いた。
『乾杯』
カンッと音が部屋に響いた。2人は同時に1口目を飲んだ。
「優人もこのチューハイ、好きなの?」
綾佳は同じものを飲んでいた優人に訊いた。
「そう。僕も好きなの。このチューハイ」
そう言っておつまみのミックスナッツを一口食べた。
「私も食べたいな。あーんしてほしいな」
綾佳は口を開いて、優人が食べさせてくれるのを待った。
「もう酔っちゃったの? おつまみも自分で食べられないなら、もう寝たほうがいいんじゃない?」
優人はいたずらっぽく言った。
「自分で食べれますーだっ。どれ食べよっかな」
拗ね気味に、机の上にあるたくさんのおつまみを選んでいる綾佳を見て、優人は食べようと手に持っていたレーズンを綾佳の口のほうに持っていった。
綾佳は恥ずかしさ半分、嬉しさ半分で口を開けた。その口に優人はレーズンを入れた。
「美味しい……」
優人にあーんをしてもらった後、すぐにチューハイをゴクリと飲んだ。こうして、2人だけの飲み会は進み、徐々にお酒もおつまみもなくなっていった。
夜も更け、2人も酔いが回った。
「ほんとーーにゆうとくんがーーすき」
「ぼくのーーほうがーーすきだからーー」
何度も何度も、同じやり取りを繰り返してはキスをしていた。
そして2人はベッドに移動した。
酔ってイチャイチャしている2人には、想像もつかないほどの、辛く忘れられない5日目の足音が、すぐそこまで迫っていることを知る由もなかった。
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