第3話 洗礼



休んでいた俺と居織であったが居織が急に言葉を放つ。


「さて、そろそろ向かうか。」

「向かうってどこに?」

「そりゃ、セーフエリアだ。あそこなら少し作戦会議とかもできるしな。」


…あのとき言ってた安全エリアのことか。と内心思いつつ、居織についていく。

そこでふと思う。

この世界は自分がいた世界と人が全くいないことを除いてほぼ同じだ。

建物、標識その他もろもろ。まるでコピーアンドペーストをしたのかのような感じなのだ。


「…間違っても安全エリア以外の建物に入ろうとすんじゃねえぞ。建物の中には何がいるかわからねえからな。」

「殺してくるような危ない人がいるってことか?」

「まあ、そのときもあるんだが…ああいうところにはな。ゲームでいう敵対エネミーがいるんだよ。そいつらを倒せばポイントも手に入るが…一つの拠点をつぶして五ポイントとかだからな。強ぇのにわりに合わねんだ。」


改めて居織が言っていたことがわかる。

残り一か月でポイントを十万ポイントを集めるのはほとんど無謀に近い。

でも、人が減ったらポイントを得る手段がなくなるはず…ほんとにこの異の境界というモノは何がしたいのだろうか。

そう考えながら、たまたま扉が開いていた建物を見た。

思わず目を見開いた。

そこには…人の死体があった。

「うっ…」

吐き気がする。

人が死んだ。

現代のそれも日本でこんなことを見る機会はそうそうないだろう。

それも体がバラバラに血と肉であふれている。


「ありゃ、こっちの世界に来たと同時にやられたか?…妙だな。」


そんなことを言う居織であったが俺には聞こえてなかった。

さっきまで人を死なせたくないって言ったのに。

間に合わなかった。

拳に力が入る。


「…おい。一応、言っておくがこの程度で泣いたり吐いたりするような奴が全員救おうって言ってたやつじゃねえよな?」


居織の言葉を聞いたせいか。それともパッシブが働いたせいか急に俺は落ち着きを取り戻す。

吐き気もない。

だが…わかっている。

助けられないことも全て、俺の偽善はこんなちっぽけなものであると感じるとともに少し怖い。

人の死を見て何も思わない自分が怖いのだ。

精神は安定しているはずなのに心臓はうるさいままだ。


「そうだ。せめて、埋葬してあげなきゃ。」

「…。」


居織は何も言わない。

居織だって悪人というか人が死ぬのを良いと思っているわけではないから埋葬程度なら許してくれるはずだ。


「…待て、森羅。その建物に近づくな。」

「えっ?」


居織に止められる。

それはまだいい。

想定の範囲内ではあった。

目の前の建物には先程までいなかった、一つ目の犬のような生物がいた。

他にもクラゲのようなものだったり中には謎の飛行物体もいる。


「…罠か。それもプレイヤーの能力っぽいな。あのバケモノども見たことがねえタイプだ。どうせバケモノどもを作って操る能力だろ。ほら、逃げるぞ。」


居織はそう言った。

確かにこれは罠だ。

それは俺も思った。

少しバケモノが何であったかに俺は気づく。


「ひ、人?」

「あ゛…?」


先ほどまでの肉片が積み重なり一つ目のバケモノに変化していく。


「…ッ。趣味が悪ぃな。」

「趣味が悪いとは失礼な奴だな。」


居織以外の声がした。

声がした方に顔を向けるとバケモノたちを従えた少年がいた。


「ボクの傑作で最高のチカラだろう?どいつもこいつも…みんな泣きわめいてくれてほんっとに最高だったなあ。さあ、君たちの断末魔なきごえを聞かせておくれ。」


少年はそう言った。

確かにそういった。

俺は一つの木刀を作り出す。

それにもう一つの能力で強化を施す。

さらに薄く木刀を別の物質でコーティングを行う。


「おい?!待て、森羅!」


居織はそう言ったが俺は止まらない。

大丈夫だ。

俺は冷静だ。

少年に向かって走り出す。

だが、それは阻止される。

バケモノが横から割り込んだのだ。


「邪魔だ!」


俺はそう言って木刀を振るう。

しかし、それはいともたやすく防がれた。


「…まさか木刀でボクと戦おうだなんて。最低でも拳銃ぐらいもってこないと歯が立たないよ。」

「クッ…。」

クラゲのバケモノの触手が俺に突き刺さる。


しかし、追撃はなかった。

クラゲのバケモノは体の中にあった球体が壊れ近くにいた俺の攻撃を防いだバケモノも爆発四散したのだ。


「…へぇ。そっちはまあまあみたいだ。」

「少なくともてめぇよか修羅場はくぐってるつもりなんでな。」


居織がそう言って出てきた。


「待てよ。居織、そいつは俺の相手だ。」

「…下らねえ。」

「え。」

「下らねえつってんだよ!てめえのそれは"偽善"なんだろ?自分で言ってたじゃねえか。でもな。人を助けたい。死なせたくないって信念があるならそれを最後まで突き通しやがれ!偽善だなんて関係ねえ。俺はな。今が好きだ。でも過去は嫌いだ。人が死んだ。ああ、そうだ。こいつは反吐がでる野郎だ。だからってな…一人でやる必要はねえんだよ。俺にもやらせろ。じゃなきゃ、俺の堪忍袋も切れそうだ。」

「居織…。」


そうだ…俺は一人じゃないんだ。

仲間がいる。

強い仲間が。


「来てくれ。竜よ。」

「…随分、お熱い名言を言ってくれてありがとう。やっぱり君たちを狙って正解だよ。主人公みたいなをバカを一度、殺してみたかったんだ。そして君たちをバケモノにすればどんなのができあがるかな?」


少年はそういって、バケモノの量を増やす。

少年はとどめと言わんばかりに巨大なバケモノを出す。


「…コントパフォーマンスが悪いけど、君たちにはこれを出すに値するよ。」


少年はそのバケモノどもを俺たちに向ける。

その光景に居織はまずいと思ったのか俺に心配する顔を向ける。

大丈夫だ。


「…はっ?」

それは少年の困惑であった。

巨大なバケモノが吹き飛んだのだ。

文字通りの意味で。

そして小さな竜は呟いた。


「…ふむ。お前が敵だな。ぷれいやー。」

「…ッ!」


何かを感じとったのかバケモノたちの量を増やす。

まだ…こんなにと思うのも束の間。

それは同時に爆発した。


「させるかよ。」


居織である。

居織はさらに複数の石を持って投げる。

それらの石は光を纏っており、それはそれぞれが手榴弾のごとく爆発した。

俺はそのまま走る。

持つは木刀だ。

「歯ぁ食いしばれよ!」

「へぼっ…」


俺はそのまま顔面に向かって木刀を振るった。


「でも、残念だったね。君たち。その女の子の力とか驚くところはあったけどボクだって何も負ける可能性を想定していないわけじゃない。」


そういって、少年は一つの肉塊を取り出し、言う。


「"今"のボクの奥の手さ。楽しんでくれよ。」


肉塊が変化し、明らかに人よりもでかい大きさとなる。

それはまさしくバケモノであった。

全身は筋肉が露出したかのように血肉でできていて、人の頭が体に無数についている。

近い形でいうなら熊のようでカンガルーのようなナニカだろうか。

まあ、動物の耳らしきものは見当たらず体に生えた人の部位に人の耳が付いているのだが。


「じゃあね。主人公っぽい偽善者さん。君たちとの再会楽しみにしているよ。」

「ま、待て!」

少年はどこかへと走って逃げようとする。

俺は止めようと少年に向かうもそれは構わない。

すでに横にはバケモノの拳が迫っていた。

ガン!

まるで金属がぶつかるような音がする。

竜のような少女が間に割って入ったのだ。

少女はすぐさま蹴りをバケモノに入れて吹き飛ばす。

バケモノには穴が開くも血肉の形が変わって穴は元通りになった。

今度は居織が光となった石を投げる。

ドン。

という爆発音とともにバケモノを爆炎に包み込む。

しかし、またしてや再生していくバケモノ。


「…ねえ。」


黙っていた少女が俺に向かって話しかける。

「どうしたんだ?」


少女は指をバケモノに指し言う。


「あれ。倒せばいいの?」

「…倒せんのか?」


居織が思わずそういうも手でグッドサインを出すとそのままバケモノに近づいた。

少女はバケモノを蹴り上げる。

それはもう高く。

バケモノの図体は全長でいうなら十メートルほどあるのだが…それをビルの屋上にまで届きそうな高さまで打ち上げる。

そしてそのまま地面に拳を使って叩き落した。

何かに引火してしまったのか爆炎が少女とバケモノを襲う。

少し心配する二人であったが、すぐに出てきた少女を見て安堵する。


「こういうのは…だいたい。再生できなくするまで攻撃するか…コアみたいなのを破壊すればいい。」

「…ず、ずいぶん、脳筋なんだね。」


思わず声に出たのだが彼女は頭に?マークを掲げ首をかしげる。


「脳筋ってなに?」


少女の言葉に二人は驚くのであった。

そんなのも束の間彼女の姿が半透明になり始める。


「…もう時間か。」

「まさか時間制限でもあるの?」

俺が聞くと彼女は頷く。

時間がない。

たぶん、彼女の再召喚にはクールタイム的なのがあるはずだ。

次がいつになるかわからない。

今彼女に聞くことを考える。

…聞くこと。

えぇと。

そして一つ思いついたことを聞いた。


「そうだ!名前は?」

そう聞くと彼女はうつむいてしまった。

「…ない。そんなものはない。」

そういって彼女は消えてしまった。


沈黙


「ま、まあなんだ。とりあえず、セーフエリア向かうか。」


居織の言葉に頷く俺であったがふと思い出したかのようにバケモノたちだったものに近づく。


「おい、あぶね…。」

初めは止めるつもりだったのか居織は俺に手を伸ばしていたが途中からやめてくれた。


「まともな死に方をしなかったはずだ。だから、せめて埋葬とまではいかなくても手を合わせるくらいはしたいんだ。それくらいならいいだろ?」

「…ったくしゃあねえな。」

「一緒にしてくれるのか?」

「そりゃ、"仲間"なんだからな。」


俺にはその言葉とてもうれしく感じた。





_____________________________


後書き的なやつ

何かすごいことになった…。

おかしい。もともと、セーフティエリアに向かう話になる話だったのに。

いつの間にかこうなってしまった。

次の話を含め一日の内容が濃すぎる…気がする。

まあ次回もお楽しみに。


追記…前話でパッシブと固有能力が五つまでと書いてあると思うのですが、それぞれが五つまでです。なので運が良ければ、固有能力が五つ。パッシブが五つ、計十つって感じになります。


さらっとキャラ紹介の回

<名前>龍嶋森羅

<性別>男

<身長体重>162cm55㎏

<得意なもの>なし。強いて言うなら運動かも?

<好きなもの>料理(主にスイーツ系を作るのが好きだが、お金の関係であまり作ったことはない)

<嫌いなもの>とくになし

<固有能力>

道具強化

道具生成

天■■■竜

≫?晢シ?シ?シ?シ??呻シ

<パッシブ>

精神安定

成長補助

再生補助

<作者からのコメント>

無鉄砲なジャンプ系主人公みたいなやつ。

精神安定なくても結構冷静。




<名前>鬼月居織

<性別>男

<身長体重>172cm73㎏

<得意なもの>視力検査

<好きなもの>スポーツ観戦

<嫌いなもの>アボカド

<固有能力>

エンチャント

「粉砕」「硬化」「爆発」の三つのエンチャントをものにかけることができる。

エンチャントした際の光は何も変わらないため能力をしっていても対処がしづらい。

一つのものに一つまでしかエンチャントできず、エンチャントの同時展開は六つまでである。

<パッシブ>

身体能力強化(小)

五感補助

<作者からのコメント>

無難に強い。








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