第4話 番人




「…そろそろ着くぞ。」


居織がそう呟いた。

やっとかと思う。

スマホを見れば今の時間は次の日になる寸前といったところだった。

埋葬をしていたとはいえ、ここまで時間がかかるとはと思いながら前を向く。

しかし、そこには何もなかった。

いやある。歪んだ空間がそこにはあった。

驚いて少し止まっていた俺に居織が気づいたのか声を出す。


「あそこの歪んでるとこに入れば安全地帯だ。」

「ここまで人がいないだけでただの街だったのにあそこだけ違うのか?」

「まあな。でも、こういうところがあるだけでありがてぇだろ?」


…正直複雑な気持ちだ。

安全地域だから死にたくないという理由であそこにひきこもる人もいただろう。

だが、制限時間ができた以上あそこにひきこもるだけではいけなくなってしまったのだ。


「ん?」


突然、居織が止まる。

安全地域は目前だっていうのに居織はピクリとも動きやしない。


「――どうしたんだ、居織。」

「誰かいやがる。それも所謂エネミーじゃねえ。れっきとした俺たちと同類だ。」


居織が向いている方を観察すれば、確かに人がいた。

一言で言うなら屈強な男だろうか。

何もいない場所で姿勢を崩すことなくまるで番人でもしているかのように佇んでいた。


「どうする。居織。」

「…わりぃやつかわからねえからな。警戒しつつ話かける。一応てめえも武器の準備しとけ。」


わかったと返事をしつつ、木刀を作成する。

そしてその木刀を道具強化でより強力なものにかえる。

これなら、すぐに砕かれることはないはずだ。

少し時間を空けて居織が前にでる。


「てめぇ、そんなところで何してやがる。出待ちでもしてんのか?」


そんな居織の言葉に反応し男はこちらを向きながら口を開く。


「…ふむ、いやなに。オレはここに来た奴がどんな奴か確認したかったからここいるだけだ。所謂門番ってやつさ。」

「へぇ。俺からすれば、てめぇが初心者狩りでもしたいように見えたぞ?」

「そう見えるのも無理はない。だが、実際オレは何もしていない。ただここで人を見ていただけだ。それともオレのポイントでも確認するか?」


相手のそんな言葉に居織は少し止まる。

恐らく何かを考えているのだろう。


「…疑って悪かったな。」

「それでオレの言葉が嘘だったとしたらどうするつもりだったのだ?」

「そのときゃ俺たちの負けだ。でも、ただで負けるつもりも毛頭ねえけどな。」

「――そうか。お前たちなら通ってもいいだろう。」


ほんとにただ門番をしていただけだったのかこの男と思いつつ居織の後ろについていく。

そして歪んだ空間に入る直前に男は口を開いた。


「待て。見たところ新参者だな?」


その質問は居織ではなく俺に来ている質問だと気づくのに時間はかからなかった。


「お前人でも殺したのか?お前はそういう目をしている。」

「…何を勘違いしているかはしらねえがこいつは人は殺してねぇよ。」

「いや、それこそ勘違いだ。これは事実かどうかを問うものじゃない。おかしいだろう。ただ普通の生活をして普通に生きていた人物がそういう目をするのは先天的なサイコパスか後天的な何かだ。それこそ、目的のためならなんでもするというようなものだな。」


…その言葉は俺に深くささった。

いや、間違っていることを言っているのに正論を言われたようなそんな感覚だ。

そう、俺はただの高校生のはずだ。

パッシブスキルがあるとはいえ、人が死ぬところも初めて見た。

そもそも小さいときから正義の味方やヒーローになりたかったわけじゃない。

誰かのために生きるのも将来のことを思ってのことだ。

意味もなくそれを人助けをするようなそんな善人ではなかった。

もし仮に普通の高校生がこのゲームに参加していれば、人助けなんかしないだろう。

自信が過剰になって死ぬかひきこもるかといったところか。

だが、俺は人の死を見て、死んでほしくない。それを助けたいと思ったのだ。

死んでほしくないは普通の高校生でも思う人がほとんどだろう。

だが、実際にそれを見て全員を助けてやろうと思うだろうか?

つまり、このゲームが始まるとき俺に何か心の変化があったということだ。

…それがどうしようもなく怖い。

怖いのだ。

いつの間にかクローンかなにか置き換わったようなそんな感覚がある。

でも、人助けをすること自体は悪いことではない。

だから、無意識に肯定していたと今になって思う。


「―羅?森羅大丈夫か?」


ふと、気がつくと居織がこっちを気にしていた。

すまない。一言を言うと男の方を向きながら口を開く。


「たぶん、あんたの言ってることは正しいと思う。これが先天的なのか後天的なのかわからない。でも、目的のためなら俺は人だって殺す自信がある。」

「ほう。ならばその目的を今ここで言えるか?言えないならばお前をここに入れるわけにはいかない。」

「俺の目的は――――


――俺の目的はこのゲームを終わらせることだ。

そう、そのために必要な犠牲は問わない。

矛盾していることなどわかっている。

でもこれは偽善だ。

これは俺が俺として生きるための人生最大の人助けなんだ。」


ここで引けば何かを失う気がする、そう思いながら言葉にする。


「だから誰にも邪魔させない。自分の言ってることはおかしいと思うけど、この意味は言葉にできるようなものじゃない。この世界に来て俺はナニカが確実に変わったんだ。」


そう言ってつけていた眼鏡をはずす。


「そのナニカが俺の考えを根本から変えてるものだとしても俺はこの目的が間違がっているものだとは思わない。それが俺ができる唯一のことだ。」

「…いいだろう。このゲームを終わらしたいというのはこの世界にいるものの全員の望みのはずだ。その目的最後まで付き合わせてもらう。」

「協力してくれるってことか?」

「ああ、そもそも今から十万ポイントなどとふざけた数を集めるのは無理な話だからな。オレは紅月頼男。よろしく頼む。」


屈強な門番の男はそう名乗った。





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後書き的な奴

主人公はがっつり思考がこの世界に来るにあたって変化しています。

というか作中にも書いてますけど普通の高校生がこのデスゲームに参加して人を助けたいの精神になる方がおかしいと思ったので今回そこを描写しました。

もちろん、この変化はのちのち明かしていくつもりなのでよろしくお願いします。




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