第8話

「実は、捨て猫を見つけちゃったの。だか

 ら、ミルクをあげてたのよ。ほら、ここに段ボール箱があるでしょう。その子、まだ小さくって震えていたから可哀想になっちゃって」


 千花の足元にはダンボール箱が置いてあった。中には小さな白い子猫が入っている。

 随分と弱っているようだった。

 想像していたほど事が大きくない事に安堵する気持ちと、子猫が捨てられているのは大事だろうという気持ちが混じってしまった。

「飼うんですか?」

「うーん、どうかしら」

 雪音は我ながら何をしているんだろうと思いながら続ける。

「動物を飼うことは大変なんですよ」

「わかっているけど」

 千花は子猫を見つめる。


「だけど、このままにしておけないじゃない。誰かに引き取ってもらわないと死んでしまいそうだし」

「私の家でも飼えませんね…、長くは。里親を探しましょう」

「でも、なかなか見つからないわよね」

「私も協力します」

「本当?」

「はい」

「ありがとう。うれしいわ」


 千花の笑顔を見て、雪音の心の中に温かい感情が広がる。千花の優しさにふれて、自分も変わりたいと思ったのだ。

(この人の力になりたい)

 雪音は初めて他人に対して興味を持ったのかもしれない。

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