第3話
「よかったわよねえ」
映画館を出たところで千花は言った。
雪音が黙っていると、彼女はまた口を開く。
「ねえ、感動した?」
「はい……とても」
嘘である。
雪音は退屈な時間を過ごしていたのだ。
「あたし、あのラストシーンが一番好きだ
わ。ヒロインが自分の命と引き換えにしてでも愛する人を助けようとするところ」
「あの話、要約すると、彼が死んだ後、彼女
が自殺するというだけのことですよ」
「来世でまた出会って幸せになったんだからいいじゃない、そんなふうに言わなくたって」
二人の間には微妙な空気が流れた。
「わざわざ、後追いさせて来世で逢わせるより他の人に出会えばいいじゃないですか」
「そういう考え方もあるけどさ。でも、やっ
ぱり、あのほうがロマンチックだよ」
「わかりません」
その後、しばらく千花は、彼女なりの解釈を話し続けていた。
「お金の無駄でした。それでは、帰りますね」
千花の映画の感想に怒ったのではない。雪音は人と関わることが怖かったのだ。
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