第35話:それぞれの考えと進む道・後篇


「……終わったのか?」


「ええ、遺族の下に還っていったよ」


「そうか」


「ガクツチ、死後の名誉について、どう思う?」


「……救われるのは生者だよ、いつだってな、死者より生者が優先される、当たり前の話だ」


 ジウノアはくすっと笑うと続ける。


「そう考えられる人は少数派だよ」


「そうかい?」


「信仰なんてものはさ、その脆い人の心を補填するためのシステムなのよ。だから語らざるもの表現されざるもの、それが神様だと私は思っている、だから「神は応えないモノ」なのさ」


「それでも誰にもできる事じゃないと思うがな、お前の中に神がいるんだろうよ」


「ふふっ、さあ、いくよ」


「え?」


「楽しみにしてたんじゃないの? 約束の公演日、今日だよ」


「……ああ、もちろんだ、滅茶苦茶楽しみにしていたからな」


「クォイラ」


 ジウノアは今度はクォイラに対して盃を傾ける仕草をする。


「講演が終わったらさ、付き合ってよ、ここで、アマテラス全員で、ぱーっと楽しんで、ぱーっと飲みたい気分」


「分かりました、秘蔵のワインを開けましょうか」


「流石太っ腹、2人ももちろん付き合ってくれるよね?」


「分かったよ、下戸だが、今日は俺も酒を飲みたい気分だ」


「ボクももちろん付き合うよ、まあ嗜み程度には付き合うさ」



 といって、俺とジウノアは後にした。




――クロルソン公爵邸




「公爵閣下」


 執事が執務室に現れる。


「枢機卿等の都市外放置処分、執行完了しました」


「首尾は?」


「遠目よりコボルトを主食とする蛇型のクラスCに捕食された場面を確認しております、映像も保存しておりますが御覧になりますか?」


「必要ない、フェノー教からは?」


「聖下より遺憾の意を示すと」


「そうか、聖下には枢機卿と首座主教の後任人事についてはそちらに一任すると伝えろ」


「……よろしいのですか? 今ならこちら主導で枢機卿を出すことも可能ですが」


「その程度で借りを使ってはつまらんだろう、それに今は向こう主導の方がよい」


「と申されますと?」



「ジウノア大主教」



「…………」


「彼女がいる限り、我が貴族からの枢機卿、首座主教は出さない方がよい」


「……アマテラスですか、閣下、本当に彼の仕業なのですか?」


「あの現場の荒れ具合から見て取れるだろう?」


「現場、ですか?」


「あの吹っ飛ばされた執務室の机の事だ、尋問が目的なら荒らす必要はないだろう? 枢機卿が抵抗したからの脅し目的というのもつじつまが合わない。なれば拷問? ナンセンスだ、脅しはともかく、あの男は拷問にはまるで向いていない、ならどうしてこれだけ現場を荒らす必要があったのか、答えはただ一つ」



「仲間を侮辱したのだろう」



 嗤いながら話す公爵。


「あの男は稚気に富む、功績に反比例してね」


「…………」


「アマテラスの動きはどうだ?」


「クォイラ嬢が問い合わせの対応にあたる以外は現在動きはありません。その、閣下、指示された例の件について」


「解除でかまわん」


「え?」


「少し露骨過ぎたか、気づかれたようだな、誘いには乗ってこないよ、さて」


 部屋のイスに深く腰掛ける。


「久々にいい気分だ、1人で飲みたい気分、葡萄酒を持ってこい、特級畑(グランクリュ)のな、ああ、そうだ、確かそのクォイラ嬢が大好物の銘柄もあったな、誘ってみようか、傑作年(グレードビンテージ)の秘蔵が何本かあるからな」


 すっと視線を外にやり。


「アマテラスに乾杯」


 と上機嫌な様子の公爵だった。




――クォイラ邸




「プルプル」←ガクツチ


 目の前がぐるぐる、気持ち悪い。


 劇は素晴らしかった、大興奮だった、そのままのテンションで飲みに参加した。そしてウィスキーをコップ一杯飲んでしまって現在に至る、後悔? そんな余裕はない。


 吐けばいいって? 説明しよう、下戸は吐けない、何故なら吐けるほど飲めないから。


 繰り返すが俺は無敵の戦闘能力を持つ、だけど戦闘能力限定で、下戸は変わらない、体質ってのはどうしようもない。


「ガクツチ!」


 とジウノアが目の前に現れた。


「……ぁぃ」


「しっかりしなよ! アンタは酒さえ飲めれば最高なんだどねぇ」


「…………」


 体質だからしょうがないだろ、と思いつつも、思うだけで何も言えない。


「……もう駄目ネ、まずいネ、どうしようもないネ」


 と似非中国人みたいな話し方で同じように横たわっているファル。


 さて突然だが、アマテラス内酒の強さランキング。


 一位、クォイラ、蟒蛇だが量を飲むのは好まない、味にこだわる、好きなのは葡萄酒、飲んでも変わらない。


 二位、ジウノア、強い部類に入るし量を好み味は拘らない、飲むとテンション上がるのが楽しいらしい。


 同率三位、俺とファル、麦酒のコップ一杯で真っ赤になる、酒癖が出るほど飲めない。


「うーん、ジウノア、買ってきてもらってアレですが、あまり良い葡萄酒ではありませんね」


「まーた、そうやってひねくれる! モテないよぉ」


「必要ありませんので」


 この2人は割とこんな感じで憎まれ口をたたき合うが、なんだかんだで仲がいいんだよな。


「…………」


 ファルは既に虚空を見つめており、何も話さない。


「…………」


 俺も多分、同じ顔をしていると思う。


「だーはは!! クォイラさ! アンタ処女臭半端ないっての!! そんなに美人なのにーー! ウヒヒ、あれかい? ガクツチの為にとっておいアベベベベベベ!!!!」←電撃魔法をかけられている


「シュー」←ジウノア


「処女は余計なお世話です」←クォイラ


「復活! おやおや、ファルさんや、そのけしからん胸はけしからんですなぁ(モミモミ)」


「ひー、ボクは揉むのは好きだけど、揉まれるのは嫌なんだぁ」←ファル


「アベベベベ!!!」←ジウノア


「復活! ガクツチ!! 寝てないでアンタ男でしょ!! 何かカッコイイこと言ってよ!」


 えーーー、なにその無茶ぶり。


「早く!!」


 うー、今日はしょうがないか、カッコいいか、そうだな、カッコいい台詞といえば。


――「懺悔? 辞めておこう、全てを告白するには1週間はかかるだろうからな」


「ひっひひ! 確かに! アンタはかかるね!」


「そこは大爆笑するところじゃねえよ! カッコいい場面なんだよ!」


「もっと!」


 えーー、もっとって、、、、。


――「神か、最初に罪を考え出したつまらん男さ」


「あーっはっは! そのとおり! つまんねーー男だよね!!」


「そこ同調していいのかよ! 大主教殿!」


「もっと!」


「え?」


「もっと!!」


 ちらっ。


「…………」←本を読んでいるクォイラ


 ぐっ! 俺は助けないんかい!!


――「残念ながら今は休業中でね、もっとも背中のファスナーを下げたいっていうなら、いくらでも手を貸すぜ」


「はは! 気持ち悪!! だからモテないのよ!!」


「だから原作じゃカッコいい場面なんだよ!! 悪かったな!!」


「もっと!!!」


 こ、こいつ、まあでも、今日はしょうがない、付き合ってやらないと。


――「ニューヨーク・ヤンキースとロサンジェルス・ドジャースみたいなもんさ。オレたちのどちらかが倒れるまでオフシーズンは来ないのさ」


「だよねーー!! オフシーズン来ないよねーー!!」


「お前絶対わかってねーーだろ!! 日本を代表する球技の一つの最高峰のリーグで今1人の日本人が無双しててマジで凄いことになってんだぞ!! 投打二刀流で戦ってて!!」


「あははは!! すごい!! その日本人!! 球技なのに刀二本で戦うとかマジ痺れる!!!」


「もーやだーー!!」


 と夜も更けていくのであった。



 おしまい。


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