第32話:人になせる業なのか?
ジウノアは思い出す。
ここに来る前にクォイラ邸でのことを。
――出発前、クォイラ邸
「ジウノア、例の通信魔石、もう一度再生してくれないか」
ジウノアはガクツチの指示でもう一度再生する。
――「ジウノア、大主教、さま! &’&$&’が、きて! たすけ!」
「……やはり、明らかにおかしいね」
「え?」
「自分のピンチをこれだけ分かりやすく、しかも犯人が綺麗に隠れるように録音されている、まるで推理小説のダイイングメッセージだ。これ、いつどこで誰がどうやってやったんだろうな?」
「……なるほど、確かに私だったらもっと端的に伝える、パニックになっていたとしても、その冷静さが逆に際立つわけか、つまり罠ってこと?」
「…………」
「ガクツチ?」
「ここで問題なのは、罠かどうかというよりも誰が黒幕ってことだ」
「? どういう意味?」
「感じるままに、いいか? 全員肝に命じろ、滞在中常に意識する一番大事なことは」
――「嘘をついてない時だ」
「嘘をついていない時とはどういうことか、不自然な状況が発生した時に、関係者が嘘をついていないということ」
「トストの失踪、そして私たちの仲間の失踪、その時に、私達に会った全ての人に話を聞いてもよどみなく答えていた」
「となると「村ぐるみ」なのか。いや、これはありえない、何故ならやる理由、ここでいう利益がないからだ」
「となるとアマテラス(私達)が狙われた? それも考えづらい、もちろん名をあげたい奴は大勢いるし、そいつらの対処はマジで面倒だけど、それでも本気で敵対しようとする奴は、本当に何も知らない馬鹿かクラスAぐらいだった」
「ここで最初に戻る。ガクツチはこういった「大事なのはうそをついていない時」だと。嘘をついていないのなら、結論は一つ」
「誰かに操られている」
「人を操る魔法は存在する、けど、どんなに強い魔法でも「機嫌を悪くする」という程度で終わる。魔法ってのは面白いよね、攻撃魔法は簡単に人を殺せるほどの威力を持つのに、秩序を崩壊させる魔法は存在しないなんてね」
「だが、それは人に限ればの話、これを魔物に広げると少し違ってくる」
「今回の犯人は、ある条件を満たせば多数の人を操る事も可能になる。ある条件とはまず範囲が限定されること、次にその範囲が自分の支配下であり長期間操る対象が範囲内から出ない事」
「だから嘘をついていないのが肝要、なれば嘘をついた奴が怪しい」
そうやって1人語るジウノアの目の前に領主が立っていた。
「…………」
表情を変えない領主にジウノアは語り続ける。
「更に、私はアンタの正体も分かる」
それは、この世界では珍しくはあるが、ありうる出来事。
――人を食らう魔物。
食物連鎖。
元いた世界では、人は食物連鎖の環を外れた存在となった。
もちろん人が人以外の動物に喰われたり殺害されたりする自体は発生する、だが仮に捕食目的だとしてもそれは「事故」としての域を出ない。
だがこの異世界では違う、人は食物連鎖の環を外れていない。
明確に捕食目的として人を害する存在が魔物だ。
ただ食べると言っても色々ある。
例えば自分達が討伐したドラゴン、ドラゴンの好物は人間であり、捕食して栄養源としている。これが俺達人間も変わらない。
だが魔物の中には「人の能力」を食べるものも存在する。
「以上のことを鑑み得て、この村でオストだけ「つじつまが合わない」、それはオストだけ魔法の才能を持っている、つまりオストは食べられたって訳だ」
「人の魔力を食べる、文献に僅か18例しか記録されていない超稀少の魔物」
「名前はマンドガレ」
目の前の領主、いや彼はタダの人間。
あくまで「アバター」だ。
マントガレとは。
領主の後ろにある見守るように立っている樹が正体だ。
その脅威度は。
――クラスB
クラスBの冒険者は財産と呼ばれる程に扱いが変わるとは少し触れたが、それは魔物にも適用される。
極端な話、異常行動を起こしたと言えどコボルトの脅威度は大したことは無い。
だがクラスBともなれば、食人行動は人が畜産動物を食らうかの如く、常識として存在し、かつ強力な力を持っている。
「さて、マントガレ、てめーの目的は何だ?」
「お前だ、ジウノア」
「ふーん」
「お前の弟子を食べた時、お前の記憶を見た、類まれな魔法の才能、これほどの魔力を得られれば、私は更に高次元の存在となる。そして、副産物もあった、お前たちの仲間の3人もまた、かなりの魔力を持っていたよ」
「やはり目的はアタシ達だったのか」
ジウノアは言いながら思いっきり伸びをする。
「おっと、妙な動きをするなよ、我が根はこの村全てに張り巡らせている。即座にその根を村民たちに突き刺し、皆殺しに出来る」
「…………」
「正体に気付いていながら対策を怠ったか、だがジウノア、お前自身を私に捧げれば、お前を取り込んだ仲間も村民たちも開放しよう」
「…………」
「どの道、お前たちの仲間の魔力も、まあまあといったレベル、村民たちは誰一人として魔法を使える人物がいない、なれば、私は長くいる理由は無い。私にとってもリスクのある話だ」
「あのさ、体調、大丈夫?」
「……なに?」
マントガレが揺らぐ。
「アンタが餌としたアタシの仲間のことだよ、クォイラは美人だけどヤキモチ焼き、ファルも美人だけど中身はマッドサイエンティスト、そして一番はなんといってもガクツチ、見るからに不味そうでしょ?」
「…………」
「なんといってもアンタは魔力を食べる癖に、ファルとガクツチは魔力を持っていないんだよね、だから食あたり、起こすんじゃないのって心配なのさ」
「え?」
「正体がマントガレって分かった時の狩りの方法だよ。ずば抜けた物理的な戦闘能力を持った人物にあえて魔力を帯びさせて魔法使いと誤解させる、そしてそれに騙されたマントガレに食わせて」
「中身から食い破る」
「な、なにを、ぐ、グギギギギ!!」
ギチギチと音がする。
「栄養ってのは何でもそうなんだけど、例えば水だって、摂り過ぎだと中毒を起こす。クォイラはね、冒険者としてはクラスBだけど、単純な魔力量だけを取れば「クラスB如き」のレベル、まあ要はさ、根腐れするよね」
「グイギグググググ!!!」
ギチギチと根が動く音がする、当然に本体が攻撃を受けていれば、その本体を守るために、張り巡らされた根を回収し本体を守ろうとする。
「これでまず攻撃手段の喪失」
それを確認したかのように地響きが辺りを包み目の前にいる樹木がメリメリと音を立てる。
「グギギアアアアア!!!」
耳をつんざくようなマントガレの悲鳴、ベキベキと中身を喰い荒らしているのだろう、最後に縦に亀裂が走ると。
ガクツチとファルとクォイラが現れた。
「おおう、絵面はホラーだねぇ」
「ホラーって、お前な」
「ファルも、わざわざ食べられにいくなんて、でもありがとね、助かった」
魔物にあるコア、これを壊してしまうと死んでしまう。だからガクツチが物理的に内部から破壊する際にコアだけは傷つけないようにしてくれたのだ。
「なんのなんの、いやぁ~、マントガレに食べられるなんてはじめだったからね、素晴らしい経験だった、私、食べられちゃった、いやん♪」
「魔力を吸われるのは気持ち悪いですね、身体をまさぐられているようです」
とクォイラは心底気持ち悪そうな顔をしている。
「ジウノア」
ガクツチは、ロザリオを手渡す。
このロザリオの持ち主はもちろん。
「……おい」
ピクピクと瀕死の状態のマントガレを蹴り飛ばすジウノア。
「アタシの弟子、生きてんのか?」
息も絶え絶えのマントガレ。
「ま、魔力を限界を超えて吸い尽くされれば、死ぬ、身体も、すでに、養分としている」
「…………そうかい、そりゃ残念だ」
とジウノアは手をかざす。
ここでマントガレにかけた魔法は、、、。
回復魔法だった。
「…………」
この時、マントガレの、樹としての表情があるのなら、この感情は、、。
恐怖。
「私は、どうなる?」
ここで続きを述べたのはファルだ。
「人の群生を支配するクラスBの植物魔物は滅茶苦茶貴重なんだよね。クラスB冒険者で例えられる財産と称される程に、マントガレであることは当たりはつけていて大ビンゴ、既に国立研究所に話を通してある、ボクも幹部研究員として参加する予定だよ」
「…………」
「大丈夫、殺しはしないよ、死んだ検体よりも生きた検体が有効だ」
「っ!!」
と逃げようとするが。
凄まじい物理的な力で30メートルはある巨体が持ち上がる。
持ち上げたのはもちろん。
「思ったより軽いな」
もちろんガクツチだ。
「っ!!」
一斉に根が針状に変化し、数秒で数百回の波状攻撃、凄まじい攻撃だったが。
衣服に傷がついただけで無傷。
「な、なんだ! おまえは! このちからは?」
「補足するなら、人ではなく魔物だと思ったのは、俺達のことを知らないからさ。もし知っていれば、食おうとは思わないだろうからな」
「?」
「魔物っては原則個人主義者が多いからな、横の繋がりもなく、ピンとこないのも無理はない。マントガレ、人間の社会性にも詳しいのなら、冒険者の存在も知っているだろう?」
「…………」
「やれやれ、世界最高位の冒険者と言っても、魔物の間じゃ知名度はまだまだだってことか、それはまあどうでもいいか」
ドスンとマントガレを叩きつける。
「さて、これから色々と聞きたいことがある、まずは一番最初で一番大事な確認事項だ」
「お前は犯人ではあるが、黒幕じゃないな?」
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