第31話:散策


「下男さんですか? もう一足先にお帰りになりましたよ」


 朝になって戻ってこず、宿屋の主人に聞いた時の第一声がこれだった。


「…………」


「? どうされました?」


 宿屋の主人の言葉にクォイラは少し考えると。


「女子風呂覗いたんですね?」


「へ!?」


「ありうる」

「逃げたな」


「ええーー!!」


「違うんですか?」


「い、いえ! そんな報告は受けてないというか! あの、先ほどいったとおり、所用が出来たから帰るとだけ!」


「庇わなくていいんですよ、アルスフェルド子爵家として臣民は守るべき存在、邪な男から女を守るのは」


「あ、あの~、本当に所用が出来たからだと、その~」


「……そうですか、まあいいでしょう」


「そ、それで今日はどちらにお出かけで」


「まずは、散歩、その後、教会に行きますよ」



――フェノー教・教会



「お初にお目にかかりますジウノア大主教! オックと申します!」


 若い男の子が出迎えてくれた。


「御高名は聞き及んでおります! 類まれな回復魔法を持つと!」


「ありがと」


 とオックは、そのまま意気揚々とした様子で教会内を案内してくれる。


「執務室、見させてもらっていい?」


「もちろんです!」


 とここでクォイラが話しかける。


「オック輔祭、フェノー教の教義について聞きたいのですが」


「はい! 是非!」


「じゃあ、アタシは執務室、見させてもらうよ~」


 と手をひらひらとさせながらいった。



――執務室



 フェノー教は、世界二大宗教の一つ。


 その教会は、世界中に設けられており、活動の拠点となっている。


 教会、その規模に応じて教徒が住み込みだったり通いで赴任する。


 辺境の規模だと住み込みで1人、多くても2人で、ペマーでは1人だ。


 だから何か手掛かりを残しているのかもしれない。


 ジウノアは、執務室に入り家探しを開始する。



――同時刻・教会内



「輔祭は、職階では末端ですが、職務自体はそれこそ大主教と変わりありません。起床して、教義を行い、奉仕、つまり回復魔法を住民の方々に施し、寄付をいただく、後は地域の祭り等に参加したりしますね」


 オックがファルと話している。


「へー、となると回復魔法を使えないと聖職者の活動に支障が出るように思うのだけど」


「そんなことはありませんよ。回復魔法を使えない聖職者の方が多いです。回復魔法を使える方自体稀少ですから」


「回復魔法を使えない聖職者の奉仕はどうなるの?」


「今は魔石技術の発達により、回復魔法を魔石に込めて、それを供するという形になりますね」


「回復魔法の強さに比例して出世はするのかい?」


「難しい質問ですが、まあ上級回復魔法を仕える方々は例外なく大主教にまで昇格しています」


「ジウノアもそのパターンだと?」


「あの方はそれだけではありませんよ、まあ、その、風通しとても良くしてくださっています、私達みたいな下からとても人気があるんですよ」


 と部分を少し言葉を濁す。


「どこも変わらないねぇ~、でも神への祈りか、余り信心深い方じゃないけど」


「それで十分です、ティンパファルラ殿もどうです? 神にお祈りするだけで、心構えは変わってくるものですよ」


「そうだね、それでは」


 と腕を組み、祈りを捧げる。


「えーっと、美味しいもの食べたい、もっと色々と知識が欲しい、あのパシリがもう少し女心に敏感になりますように、南無南無」


 と正直なお願いにオックがクスリと笑っていると。


「まったく、罰が当たるよ、ファル」


 とジウノアが戻ってきた。


「祈りとは決意表明なんだそうだよ、愛するパシリがそんなことを言っていた」


「となると最後は望み薄だけどね」


 と軽口を叩き合う。


「クォイラ」


 と教会内で外の景色を眺めながら物思いにふけっている彼女に声をかけて、別の場所も


「ジウノア大主教」


「なに?」


「ここの温泉も素晴らしいですよ、是非」


「……はーい、ありがとね」





「何を見ていたの?」


 と外に出てジウノアが話しかける。


「ええ、樹を見ていました」


「樹」


 3人が視線の先には見守るかのように巨大な樹があった。


「樹は、知恵の道として称されるね」


 とはファルだ。


「深淵は、無数の枝葉が別れた巨大な樹なんだよ、人の記憶は連想という圧縮をかけてあるからだと言われているが、自然とそうなった、一度見せてあげたいけどね」


 という訳で、次に進むのは。


「ほほーここが、図書館か」


 ファルのたっての希望だ。


「それにしても本当に飽きないよね、公国図書館の方が余程充実していると思うのに」


「そりゃあね、だけどね、地元の図書館には地元にしかない知識がある、中には掘り出し物の本もあったりするからね♪」


 とウキウキ気分で図書館の中に入る。


「ようこそ、といっても、使っていない民家を改装しただけですが」


 と職員は当番制で決めているそうな。


「ふんふんふ~ん♪」


 と上機嫌そうに書物を読んでいる。


「ジウノア、どうでした、執務室は?」


「唯一の手掛かりは、勤務日誌、オックの日誌を読んだけど、日付は昨日からだったよ、昨日より以前の日誌は存在しなかった」


「……なるほど」


「感じるままに」


「え?」


「あの奴隷の言った事だよ、さて、ファル」


「ん~」


「私は温泉に入ってくるけどどうする?」


「ん~、てきとー」


 とのこと、つまり好きにするってことだ。


「クォイラは?」


「お供しますよ」



――



「ガクツチは、確か温泉に一日四回は入っていましたよね」


「あー、そうだったね~「そんなに入ったら逆に気持ち悪くならない?」って聞いたら」



――「一度目は雰囲気を、二度目は効能を、三度目は雰囲気と効能を、四度目は日本人であことを楽しむのさ」



「意味わかんねーって感じだったけど、凄い大真面目に言っていたから茶化したら怒っていたなぁ」


 と雑談をしていたら、、。


「ジウノア、私は明日領主の家の接待を受ける予定です、ジウノアは?」


「そう、行ってらっしゃい、アタシは、そうだね、再び散歩でもしますか」



 と一日が終わる。



 結局、ファルは図書館から戻らず、クォイラは領主の家に行くといって出て行って、消息を絶った。



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