第28話:宗教というのは・後篇 ~アマテラスの最後の1人~
――再びルザアット公国・フェノー教本山
ジウノアは、修道士を連れてフェノー教の首座主教の前に立っていた。
「きたか、さあ、早速行きたまえ、お勤めを果たすように」
「やなこった」
「な、な、な!!」
「あなたのゴマすりに付き合う義理は無いんで」
「ご、ごま、おい! 言葉に気を付けろ!! 私の職階を認識したうえでの発言なのだろうな!!」
「もちろん」
「っ! お前は卑しくも神に仕える身だろう! 教義に反することをするのは立派な」
すっと手紙を出される。
「な、なんだこれは!!」
「なるほどなるほど、神の思し召しに逆らうのはいけません、それは確かに首座主教様のおっしゃるとおり、となると、これは「総責任者である首座主教様より」お願いします」
と差し出された手紙のサインを見て、顔色がさっと変わる。
「アルスフェルド子爵家からの召喚状! クォイラ嬢の直筆サイン!」
「さあさ、首座主教様、アタクシはクォイラ嬢より直々の出頭要請を受けておりますわ、断ったら、まあ子爵家の心証が悪くなるのでどうしようと思っていましたの、クォイラ嬢とは親友ですし個人的にも付き合いがありますが、まあ、首座主教様が教義が大事だと、おお、聖職者の鑑、今から共に参りま」
「ま、待ちたまえ!」
と大声で止める首座主教。
出世。
生々しい話ではあるが、ある意味、目の前にいる下っ端の修道士はここにクォイラがいたとしても教義に正しければ意向に反してでも自分の意見を堂々と言えるだろう。
だが出世を目指す首座主教からすれば、アルスフェルド子爵家の心証を悪くするわけにはいかない。
子爵はルザアット公国では下級貴族ではあるが、それは立場が下であると同義ではない。
他国にも絶大な影響力を持つ正真正銘の有力貴族、フェノー教への貢献度も計り知れないし、息のかかった高位聖職者も何人もいるし、貴族の高位聖職者もいる。
「どうされました? 首座主教?」
と首をかしげるジウノア。
ギリギリと歯ぎしりをして、修道士を睨みつける。
「何をぼさっとしている! 他の神官を手配しないか! 信者たちが待っているだろう! 私の名前で手配しろ!」
「は、はい!」
と飛び出すように修道士が出ていく。
「あたり散らすのみっともないっすよ」
「ぐぎぎ」
小馬鹿にする態度を隠そうともしないジウノアに、屈辱に震える首座主教。
首座主教。
フェノー教の職階では頂点である聖下、枢機卿に続く三番目。
ルザアット公国では枢機卿に続くナンバー2の高位聖職者だ。
だが職階としては下の彼女をどうにもできない。
まず一つ目の理由として先ほどの会話のとおり彼女はアルスフェルド家令嬢クォイラと、親友であり、同時に彼女の後ろ盾であることを公言している。
二つ目は彼女自身の回復魔法の才能はフェノー教屈指の才能を持ち、彼女を冷遇すれば自身の出世にも響く。
更にクラスSガクツチ・ミナト率いるアマテラスのメンバーであるからだ。
首座主教は睨みつけたままだが、彼女は意にも介さず、首座主教座を後にした。
●
「お疲れ様でした、大主教様」
そんな彼女を迎えたのは追い出されたはずの修道士だった。
「……いいの? 早くしないと、また怒鳴られるよ?」
「いいんですよ、さっきはああ言いましたが、大主教様のおっしゃるとおり、信者の方は全て首座主教の息のかかった方ばかりですから、それにスッとしました、そのお礼を言いたくて」
その言葉にジウノアは驚いて目を見開き、修道士は発言する。
「聖母様が倒れた時、部下ではなく自分の立場を心配されていましたから。あの方はいつもそうです。それなのに首座主教の座にいる、今の枢機卿猊下の推挙があったと聞きましたが何を考えておられるのか」
「みーんな、自分のイエスマンが好きなのよ、アタシには全然わかんないけどね、ただね、あまりああいうタイプを馬鹿にしては駄目だよ」
あの首座主教は、部下への責任転嫁と責任逃れの身の保身、つまり典型的な出世するタイプ。
こう書くと創作物語では小物扱いが通例となるが。
「いい? 奴隷は無能じゃないできない、有能だからこそ奴隷ができるの」
ぎょっとする修道士にジウノアはポンポンと頭を叩く。
「私は大っ嫌いだけど、嫌われるのはアタシだけでいい、アンタまで不興を買う事は無いよ」
「はい、承知しました、その、大主教様」
「ん?」
「その、機嫌がよさそうだなと」
「おや、目端が利く、アイツも少しは見習えばいいのにね~」
「アイツ?」
とここではっと気が付く。
「だ、大主教様! まさか! アイツって!」
「そう、ある時はパシリ、ある時はヒモ、そしてアタシの時は奴隷」
「へ!?」
「てなわけで私は「べがす」に行ってくるさ、おほほ」
「…………」
修道士は圧倒されつつも笑顔で「いってらっしゃいませ」と見送る。
彼女は、身の保身とゴマすりで出世した人物ではない。
先ほど述べた、子爵家の令嬢という親友であり後ろ盾を得て、賢人会の所属する程の頭脳を持った女性学者とも親友、そしてクラスSに見いだされた自身もクラスBの高位冒険者。
だから大主教という職階でありながら政治を必要としていない。
そして部下を守るために上に逆らい、不興をものともしない。
現場の風通しを良くしてくれるのは間違いなく彼女であることは分かっている。上の受けは非常に悪いが下の受けは非常に良いのだ。
「YOU SHALL BE AS GODS」
「え?」
修道士の言葉でジウノアは立ち止まる。
「汝ら神の如くならん、確か異世界語ですよね?」
「あれ? それって」
「はい、存じております、堕落させた言葉であると、そう教えていただきましたから」
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