第27話:宗教というのは・前篇 ~アマテラスの最後の1人~


 宗教。


 俺のもといた世界では「神を信じる方が常識」と言っていい程浸透しているものの、日本ではどうしてもカルトイメージが先行してしまい良いイメージは無い。


 日本は決して無神論国ではない。


 とはいえ神社にも寺にもお参りするし、クリスマスもする、神が複数おり宗派に拘らないのはやはり特殊だ。


 この異世界でも宗教は存在する。


 フェノー教。


 異世界での二大宗教の一つ。


 人間の魔法は才能により与えられるため神の所業といったものであり、才能に恵まれた人物は、人間の世界に還元せよといった教え。


 当時、魔法は特殊な才能が故に国や地域によっては迫害されることもあり、世界中にいる魔法使いたちの共感を得て、布教施策を展開する。


 結果、世界中に教会を持ち、勢力を拡大にするに至った。


 現在、フェノー教は布教の為に様々な施策を用いているがメインの施策の一つに回復魔法の寡占化を目指している。


 魔法。


 所謂ファンタジー魔法と一緒であり、攻撃魔法や補助魔法等がある。


 ただ一つ違うのは使えるためには生まれ持った才能が全てという特殊な技能。


 才能限界が存在し、それを超えることができない。


 そして地域や人種、身分を問わずに出現し、強さもまちまち、法則は分かっていない。


 例えばアルスフェルド子爵家では、クォイラは特別強いバフデバフ魔法、生活魔法が使えるが、実父である子爵家当主や奥方、兄弟姉妹も魔法は全く使えない。親戚に何人かいる、という程度だそうだ。


 だからこそ努力ではなく才能が全てという事象を「神の所業」としており、故に魔法を使えるというだけで、フェノー教では輔祭の地位を得ることができる。




――ルザアット公国・フェノー教本山




 その中で彼女は、聖母と呼ばれていた。



 彼女は、回復魔法で飛び抜けた才能を発揮し、人々の役に立つためとフェノー教に入信、大主教という大幹部の職階にいながら修道服に身を包み、恵まれない人たちのところに積極的に赴き、身体を癒す。


「……大主教様」


 修道士が大主教座で休んでいた彼女に声をかける。


「はい、なんでしょう?」


「その、あの、、、」


 言い淀む、その内容を察した彼女は微笑む。


「大丈夫です、困っている人がいるのですね、行きますよ」


「で、ですが、もう、ずっと休みなしで」


「私が回復魔法の才能を持って生まれたのは神の御意志、この魔法をもって、私は人々を癒します、それが私の信条です」


「大主教様、、、、」


 魔法とはチートではない。


 いくら優れた才能があっても、使い続ければ疲弊する。


 彼女は立ちあがるが、、。


「あの、顔色が、、、」


「だい、じょうぶです、私を待っている、人がいる、、、、」


 とふっと体勢を崩して、慌てて修道士が受け止める。


「大主教様! 大丈夫ですか! だれか!! だれか!!!」


 と彼女を助ける為に人を呼ぶ修道士に対して。


「これは困ったな」


 と聖職者服を身につけた中年の男が姿を現した。


「首座主教様!」


 首座主教、枢機卿に次ぐ、ルザアット公国の聖職者のナンバー2がいた。


「このままだと今日の日課がこなせないな、これは由々しき問題だ」


「日課って! 首座主教様、恐れながらこの場合は、大主教様の御身を優先で!」


「あの女に頼め」


「…………」


 あの女、端々に憎々しさを滲ませる総主教。


 当然に、あの女とは誰かを理解する。


「金を積めば、何でもやる女だ、報酬は私が適当に融通する」


 と吐き捨てるように言う。


「…………」


 修道士はため息をつきそうになるが、首座主教の前だと思いぐっとこらえる。





 重い足取りの修道士が向かった先は、ルザアット公国の教会、、、、ではなく。


 公国演劇場だった。


 彼女は、講演が終わったVIP席で観覧を終えて劇場から出てくる。


「素晴らしかった、特にあの悪女役の女優は当たり役だった、しかしソロ観劇は周りを気にしないでいいけど、語り合えない仲間がいないのは寂しいね」


 と呟きながら周りの紳士達の注目を集める妖艶な雰囲気を持つ女。


 そんな彼女は。


「うげ、、」


 修道士の顔を見た瞬間に顔をしかめる。


「あらあら、お使いご苦労さま、どうしたの?」


「ど、どうしたも何も、この時間はお勤めの時間では?」


「分かっていないね、人生ってのは一度きり、楽しまなければ損、お勤めなんてつまらないことに時間を割く暇はそれこそ無い」


「つ、つまらないって、楽しいつまらないの話ではないのでは!? そ、それに、その恰好は、聖職者にあるまじき」


「あーーー、うるさーーーい、説教は聞かなーーい、だから用件は?」


「そ、そうです! 実は!」


 と修道士は事情を説明する。


「なるほど、例の出世したくてゴマすり大好き首座主教様の点数稼ぎの為に、私に回復魔法を使えってことでオーケー?」


「い、いえ、その、あの」


 口淀む修道士、それは十分に修道士も分かっている顔だ。


「だ、首座主教様は、大主教様の治療費に、予算を割くと」


「ふーん、本当に予算を割いてアタシに報酬を払うの?」


「はい」



「だが断る」



「エ!?」


「このジウノアが最も好きな事の一つは自分で偉いと思っている奴に「NO」と断ってやる事だ」


「エエーーー!!」


 とツカツカと歩き出そうとして、慌てて止める。


「で、ですから、その、総主教様の事情を抜きにしても癒しを待つ人たちが列を作って待っておりまして!」


「つったって、ゴマすりの紹介信者なんてマジでどうでもいい」


「ど、どうでもいいって! 何と説明すれば!」


「じゃあ、あれだ、確か、そう「神は留守だよ、休暇を取ってベガスにいってる」だ、そう答えておいて」


「べ、べがすとは、どこに?」


「ん? 異世界だよ」


「い、異世界? そう、そうですね、神は現世にはおらず世に顕現され」


「そのとおり、その「べがす」ってのは異世界の娯楽都市なんだそうだ、神様にも休みが必要なのさ、だから私にも必要、これからそこにかないと」


「そこにって、何をしに」


「金儲け」


「っ! 大主教様! 金金金と、どうかと思います、現に聖母様は倒れるまで無償で」


「あの女は、アレはアレでイカれていて好きだけどさ、私はそれよりもさ」



「才能を利用する輩こそどうかと思うけどねぇ」



「っ!」


「それを抜きにしても、大事な用事があって行かなければいけないのさ、とまあ、それだとアンタが怒られてしまうからね、件の首座主教様は、本山にいるんだろう?」


「は、はい」


「なら行こうか」


「え?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る