第20話:冒険者の日常の結末と浪花節? ~死生観と倫理観・後篇~



 倫理観と死生観。


 これも一言では語れない、国によって全く違う。日本では遺体を生前と同様に丁重に扱う。無下に扱えば「無礼、非常識」と非難される。


 だが国が違えば「身体はタダの入れ物」としか認識していない国もある。


 カタコンペなんて一番最初に見た時は割と衝撃的だった。同じ人でも国が違えば死生観はこうも違うものなのかと。


「すまないな、貴重な学術品じゃないのか」


「生態調査とは直接関係ないからね、ふむ」


 見上げる。


「やはり特別な物みたいだね」


「なあファル、例えば冒険者以外を襲う事は考えなかったのか、そっちの方が楽のように思えるが」


「だからこそ「勇敢」を示していたかもしれないよ。「雄達」によく見られる行動、人間のオスだってそうだろう?」


「……そうか、そうだったな」


「さて、ガクツチ、こっちの準備は整っているよ」


「ああ」


 ファルは、今回の生態調査の手段として一番大事なのは疑似的に暮らしてみることだと言っていた。



 そこから、俺達はコボルト達の生態に合わせて起きて寝て、食料の採取やら同じのを食べた。


 ファルは興味深そうに熱心にノートを取り、何やらブツブツ言っている。


 俺はコボルトの生態をじっと見ているだけ、その絵はシュールだったかもしれないけど、確かに色々とわかってきた。


 繰り返すコボルトは弱いが知能が高い。


 知能が高いとは社会性があるという事だ。


 異常行動を起こしたコボルトの一日は。


「なるほど、やはり食料が人間というだけで、他のコボルトと差が無いねぇ、ふふっ」


 ファルは楽しそうにしている。


 そう、何も変わらない、


 一番面白かったのは金品を品定めしている点だ。何故金品と思うが、実はコボルト達はこの金品を「人間に横流しする」のだから、人の業は深い。


 結局、驚くぐらい平和な調査になった。


 だが、その調査中に、ファルは。


「ガクツチ、手伝ってもらう事はもうないから、遺品を持ってクォイラのところ行っていいよ」


 と言い出した。


「…………大丈夫だよ、何でちょっと過保護なんだよ」


「はっはっは」


「笑ってごまかすなよ、わかってる「手は出さない」よ」


「ん、わかった、ならガグツチ、おそらく近日中に実行よろしくね」


「わかった」





 その日は、コボルト達の雰囲気がいつもと違っていた。普段の生活ではなく群れ全体で広場中央に祭壇を作っていく。


 そして日も落ち始めた時、火を使い、場を整える。


「ファル、コボルトは儀式なんてやるのか?」


「知性がある魔物によく見られるよ、種としての強さは関係ないのが特徴だね」


「知性が高くなると儀式が生まれるか、なあコボルト達は儀式なんかしてどうするんだ?」


「何を言っているのさ、人と一緒、神にでも祈っているのだろう」


「神って」


「神ってのは、そういう存在だと思うけどね。繰り返すけどコボルトは人間よりも弱く天敵の数も段違い、無事であること神の御心として解釈することに、特段不思議だとは思わないが」


「…………」


「ま、宗教に突っ込むとアイツがうるさいからコメントしないでおくとして、ちょっと前に資料を見せたでしょ? あのボクが食われたクラスCの魔物、特にあの魔物が好物しているのがコボルトだよ、まああの魔物は群れを作らないから壊滅的な被害を与えないけど」


「……そうか、つまり人間にとってのドラゴンがたくさんいるってことだな」


「そのとおり、ボクたち人類も元は天敵の数はコボルト位多かったけど、知恵と魔法と技術を駆使して、天敵の数を減らしてきたのさ」


 そんな会話をしていると、コボルト達の儀式が始まった、何やら神官らしきコボルトが音頭を取り儀式が進んでいく。


 単調な音楽、だろうか、そんな音に導かれて、神輿の様なものに担がれて「それ」が現れた。



 祭壇にあげられた「それ」は神官の言葉の後、群れ全員で均等に取り分けられて、「それ」は感謝を捧げられて食された。



「…………」


 ファルの「手を出すな」とはこのことを指す。


 件のファルは、その様子を映像記録装置を使って熱心に撮影している。


「ガクツチ、何を考えているんだい?」


「……子供」


「は?」


「いや、可愛いじゃないか、子供が可愛いのは、種を問わずだよな」


 コボルトは犬に似た風貌だ。


 飼っていたわけではないが、犬に限らず猫も普通に可愛いと思う。友達が飼っていた犬が結構好きで遊びに行った時はずっと構っていたっけ。


 でも飼おうとは思わなかった、とてもじゃないが、命に責任なんて持てないからだし、ペットロスも耐えられる自信なかったし。


「……辞めるかい? ボク1人でもやるけど」


「だからなんで過保護なんだよ、ちゃんとやるさ、今まで魔物討伐なんて飽きるほどやっただろ」


「わかった、はいよ」


 コボルトの集落に丸印をつけた資料を手渡す。


「ここに住んでいるコボルトの二家族を検体として確保することに決めた。全員健康、丁度数を満たすからね。さて、必要な情報は全て揃ったから学術調査はこれで終わり、実行日は今夜寝静まってからだ。クォイラ、聞いてる?」


【はい、聞いていますよ】


「手筈通り外周警戒班から搬送班を待機させて、ボクの合図と共に実行する」


【了解】


「さて、それまでは不測の事態に備えて、ここで待機だ、何かあれば報告するよ、ガクツチ」


「なんだ?」


「待機と言えど暇な事に変わりはない、エッチな事でもするかい?」


「……へぇ!?」


「君のことは憎からず思っているし、縁を続けたいと思っているかアベベベベベベベ!!!」←電撃魔法を流されている


【突拍子もないこと事をすることは理解していますが、何をしているんですか、ティンパファルラ】


「繋がっている状態でいきなりは辞めてくれ! 凄いびっくりする!」


【びっくりで終わる当たり流石ですね。かなり本気で流したんですが】


「ふっ、身体が資本だからね、というわけでガクツチ、しっぽりとアベベベベベベ!!」


【からかうのは辞めなさい、モテなさすぎる男はちょっとしたことで勘違いしますよ】


「モテなさすぎる男って」


「ふっふっふ、それが狙いでもあるさ、ガクツチはチョロいし、そのうえクラスS冒険者で、金も持っているし、ああ、安心したまえ、クォイラを愛人にするのは許すアベベベベベ!!!」


「チョロいって」


 と俺達は軽口を叩き合う。


 モテな過ぎてチョロいか。


「ま、否定はできないよ、今の会話で気持ちが軽くなったからな」



――



 天敵がいる種族であるから、防衛策を練っているとはいえ、万全とはいいがたい。


 皮肉にも、俺達が結界を張っている間だけは、安全が保障されていたわけだ。それを知る由もないけど。


 既に家の周辺に睡眠魔法をかけてある。確保予定の二家族は、家の中に俺が立っているのに起きてくる様子はない。


 そして合図によって集合した搬送班、あ、ピグがいる。彼らは無言で音をたてないようにテキパキと担架に乗せて運んでいる。


 あっという間に回収終了、そのまま搬送班が撤退する。


 さて、検体の確保は終了した。


「さて、これで後は討伐だけだけど」


「繰り返すとおり俺1人がやるよ、検体を確保した後の保存もお前の仕事だろう」


「手伝う余裕はあるよ」


「いや、俺が1人でやりたい気分だ」


「……大丈夫なの? 子供もいるよ? まさか始末したふりして、逃がすとかしないよね?」


「まーったく、そんなことしねーよ、全員ちゃんと殺すさ。俺が1人でやるのはなんつーか、フェアじゃない感じがするからだよ」


「フェアとはまた、分かったよ、クラスSとしての君を信用するさ、ちゃんとお仕事出来たら、ご褒美にぱふぱふをアベベベベ!! って辞めてくれたまえよ!」


 と言いながら立ち去った。


「…………」


 人間の都合で他の命を使う。


 元いた世界でも日常の出来事。


 今の俺の心情は、そう。



 屠殺の動画を見た時に感じる、何とも言えない感情だ。



 例えばさ、牛とか鳥とか、家畜が屠殺される映像を見た時にさ「可哀そう」って意見があると、偽善だと炎上するよな。



 でも本当にそんな感情は一ミリもない?



 俺はあるね、可哀そうって感情。



 だってさ要は、女子供も皆殺しという訳だろ? 可哀想だろどう考えたって。



 そしてこう思うんだ、美味そうって、牛肉の霜降りのあの蕩ける感じとか大好きなんだよな。畜産農家の方々、本当にありがとうございますって思ってる。



 んで次に思うのは自分が家畜じゃなくてよかったって思う。



 ああ、うん、命を頂くのは生命の普遍の原理だとか、そんな理屈は百も承知だよ。



 その上での俺の感情、いや感傷かなぁ。



 さて、もういいか、誰もいなくなったし。



 「作業」を開始しようか。




――半刻後




【ここら辺一帯のコボルトの生体反応なし、討伐完了、ガクツチ、お疲れ様でした】



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