第21話:冒険者の日常の結末と浪花節? ~終わり、自己満足の慰めと日常へ~



 今俺の前で冒険者の両親が泣いている。ギルドカードを渡した瞬間、母親は倒れ込んで号泣して、父親は「馬鹿な奴だ、冒険者になんてなるなんて」と顔を伏せていた。


 入手経路は、クエスト中に偶然拾ったと方便を使った。


 んで、俺は今回で得た報酬を全て香典として包んだ。


 もちろん何の慰めなんてならないけど。


 いや、慰めはあった。


 遺品を届けた遺族全員に、感謝されて、気持ちが軽くなった。


 俺の自己満足の慰めになったのだ。



――ギルド・ジョーギリアン



「お疲れサマンサ~♪」


 遺品を遺族に渡して帰ってきたギルドで待っていたファル。


「…………お疲れ」


 と俺はどかっと座る。


「ほれ、異世界ベルムス巻だよ、お食べ」


「え? ああ、ありがと」


 ともぐもぐ食べる。


「君は優しいというか甘いというか、なんなんだっけ? 何か言い方変えていたよね」


「浪花節」


「そう、君の世界での「なにわぶし」だ」


「なんだよ、何しに来たんだよ」


「家賃どうするの?」


「ビクッ」


 そう、さっきも言ったが報酬は、遺族への香典という形にしてしまった。


 だから無一文。


「ううむ、もう土下座は使ってしまったからなぁ、どうするか」


「ガクツチ」


 振り向くと、ファルは金が入った革袋を投げていて、俺は慌ててどさっと胸で受け止める形になる。


「お前、これ」


 中を見るが銀貨が数十枚入っている。


「報酬だよ、ボク個人からね、当分凌げるだろう?」


「……なんだ、お前も浪花節か? だが悪いが契約にはない、言っただろ、仲間だからこそお金はちゃんとしないといけない、施しは受けないよ」


「契約にはあるよ」


「は?」


「契約書を見なよ、クォイラと受ける時にサインしたでしょ?」


 クエストの受注について。


 全ての冒険は契約書によって縛られる、よって契約書は命だ。


 この契約書は、そのままギルドに提出され写しを交互にもつ。この契約書がない限りいかなる例外も認めない。


 とはいえ俺は非公式での活動だから契約書は存在しない、カミムスビの報酬の一部をクォイラから貰った形になる。


 仲間だけど、いや仲間だからこそ金はちゃんとしないといけないと俺の主張で、契約書を交わしての取り決めとなったのだ。


「ほら、ここ、見てみ」


 とティンパファルラが、指をさすが。


「いや、空欄じゃないか」


「はい、レンズ」


「レンズ? どれどれ(._.)」


 ん? なんか? 点線みたいな文字がある、ちっちゃ。


 思いっきり限界まで拡大すると。


――ティンパファルラの助手(パシリ)を命じる。

――契約金は銀貨40枚


 ( ゚д゚)は? なにこれ? ←カグツチ


「だから、これは契約金」


「いやいやいやいやいやいやいやいや、これ詐欺ですね、詐欺、詐欺詐欺詐欺、こんなのは通用しませーん」


「通用しまーす、ギルドの契約書は命と評されるのは、お互いの署名に命を懸けるからでーす、私の署名もありまーす」


「こんな小っちゃいの読めませーん」


「それはそっちの勝手でーす」


「とおりませーん」


「じゃあ、裁定所へどうぞ~?」


「へ!?」


 ギルド裁定所。


 冒険者としての活動をする上でモラル任せでは当然に秩序は保てない。その為の世界ギルド直轄の司法裁定所がある。


 日本みたいに、最高裁判所は世界ギルド直轄であり、ここら辺は地方裁定所がある。


「はいはーい「クラスD冒険者のジョー・ギリアン」さんや、クラスSクラン、アマテラスのメンバーでありクォイラ率いるクラスBクラン、カミムスビ所属のクラスB冒険者でもあるティンパファルラからの契約、これを裁定所に異議申し立てたら、目立つよね? 本来なら「ありえない奇跡」なんだものね?」


「こ、こいつ!!」


 こ、これが最初から、目的だったのか。


「って俺は、学術研究レベルの学は無いぞ! 研究論文なんて元の世界で大学時代に何本か書いた程度だ!」


「そんなことは知ってるよ、まあそれで十分さ。ボクの実学に付き合って欲しいからさ。大学辞めてフリーに戻ったし、それに今回の依頼でやっとアルスフェルド家の家名が使えるようになって知恵の樹の最高アクセス権を得たからね♪」


「もう、お前は、本当に、、、」


 とこれ見よがしにため息をつくと。


「わかった、金、ありがたく受け取る」


「おや、思ったより素直」


「……アマテラスに未練はあるんだよ」


「ボクもだよ、だからこんな詐欺まがいなことしているでしょ?」


 少しきつい口調のティンパファルラ。


「すまない」


「まあいいさ、事情は理解しているし、思えば今まで君がボク達を引っ張ってきた、だから今はヒモもいいだろう」


「ああ、…………って、なんて? え?」


「美女2人のヒモ」


「ヒモじゃねーよ!!」


「クォイラから、こんな感じでよく遊んでいるんだろう? それでお金をもらっている」


「人聞きの悪すぎる言い方じゃね(#^ω^)ピキピキ」


「そんな訳で、これから色々と実験と論文の日々だ。それが終われば、冒険者は自由だからね、ケセラセラ、ってな訳で論文を書くために研究所に行ってくるよ」


 とスッと立ち上がる。


「ファル」


「なんだい?」


「ありがとな、なんかあったら言ってくれ、お前は俺の大事な仲間だ」


 その言葉に振り返らず、手をひらひらさせる。


 なんか向こうの方が浪花節だが。



 一か月後。



「zzzzzzz」←ティンパファルラ


「あの、ティンパファルラさんや」


「zzzzzzz」


「もしもーし!!」


「うーーん、話しかけるのは無粋だなぁ、やっと報告書を学会に提出したんだ。疲れ果てて、それでも充実感溢れる疲労感に身を委ねているのに」


「あーうん、それはいいんですけどね、ここ俺のギルドなんすよ」


「誰もいないじゃん」


「い、いやぁ、誰もいないんですけどね(#^ω^)ピキピキ」


「胸元」


「は?」


「胸元に財布がある」


「それが?」


「鈍いなぁ、そこから今月分の家賃を取るといい」


「そんな「恵み」なんて受け取れるわけないだろがい! しかも胸元て!」


「恵みじゃない、言ったでしょ、それに今は住むところない」


「へ? なんで?」


「教授自体は大学で寝泊まりしてたし、研究所で論文書いていた時は研究所で泊まり込んで、んで論文提出したからなぁ、追い出されたよ」


「研究所にはスカウトされなかったのか?」


「されたよ、幹部待遇でどうだって、断ったけど」


「……いいのか?」


「君に気を使ったわけじゃない、冒険者稼業が向いているのさ、この自由さが良いさ、まあフリーランスの学者って奴だ」


「そのスタンスは素晴らしいしと思うんだけど、繰り返すとおり、ここ俺のギルドなんですわ」


「だからここに住まわせてよ、だから家賃、金は相当にあるからね、お好きにどうぞ」


「色々問題あると思うけどなぁ」


「ヒモじゃないか、遠慮しなくていいさ」


「だからヒモじゃねーーよ!!」


「大丈夫大丈夫、今はただのクラスB冒険者だからね、ここは居心地がよくていい」


「だったら冒険に向かえばよろしいんじゃないですかね(#^ω^)ピキピキ」


「だからクラスB冒険者に冒険を斡旋してくれたまえよ、ここはギルドだろう?」


「すいませんね、こちとら弱小ギルドなもので、塩漬け程度しか~というか、こんな場末のギルドにクラスBの冒険者が契約したら偉いことに、、、、」


「zzzzzz」


「…………」


 そうだった、コイツはこういう奴だった。


「zzzzz」


 まったくこいつは。


「zzzzzz」


 胸元か~。


「zzzzzzz」


 家賃払えなくなるからな~、しょうがないかな~。


 べ、べつにやましい気持ちはないんだからね!


 と、そんな、感じで手を、あ、もちろんなるべく触らないように~。


 そーーっと、そーーーーーーっと。



「何をしているんです?」



「ピギーー!!」←カグツチ


「何をしているのかと聞いているんです」


「ド、ドウシテ、ココニイルノ?」


「別にどうしてでもいいでしょう、だから何をしているのかと聞いているのですが」


「…………」


 やばい、絶対零度の目をしている。もちろん、これは嘘をつかず真実を。



「家賃を取ろうとしたんだよ!」



 と言った直後に気が付いた。


 まるで意味不明な理由だという事に。


 ガシっとアイアンクローを掴まれる。


「あ、あの、クォイラさん、お、おれは、うそなんて」



「クズめ、死で償え」



 と緋の目をしている。


 あ、みんな知ってる? あれって元ネタ王蟲なんやで、あ、知っているか、超有名だものね。


 そういえばあの作品って、俺が生きているうちに、というか作者が生きているうちに完結するのかな。


 バチバチと凄まじい魔力が集まっている。


 凄いのう、流石クラスB冒険者やで、ほんま。


「アゲエエエエエエ!!!!」


 とガクツチの断末魔が木霊し。


「zzzzzz」


 とティンパファルラは気持ちよさそうに寝ているのであった。



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