第19話:冒険者の日常の結末と浪花節? ~死生観と倫理観・前篇~



 異常行動を起こしたコボルトの生態調査及び殲滅。


 クラスBの依頼、頭はカミムスビでクォイラ・アルスフェルドが指揮を執る。


 この依頼は二班に分かれている。1班は外周警戒班と2班は学術調査殲滅班。


 外周警戒班は、所謂ピグを始めとした、声をかけられて集まった冒険者達。


 そしてメインとなる学術調査殲滅班、これがカミムスビが担当する。


 当然、何人で侵入するかなんて秘匿だといつものハッタリをかましたクォイラ。


 実際の学術調査殲滅班は。


【外周、警戒配置完了及び結界魔法発動】


 クォイラの報告を受けて、結界の発動を感じる。


「凄いね、流石クォイラの魔法は相変わらずだ」


 空を見上げて感嘆する、ディンパファルラ。


 そう、俺とティンパファルラの2人だけだ。


 発動を確認した後、リュックの中から何やらいそいそと取り出す。


 キャンプ設備だ、クォイラはいないから、当分は寝袋が主体となるけど。


 彼女は資料をチェックしている。


「学術調査というが、何をするんだ?」


「まあ生態調査が主になるかな。まあ異常行動と言えどそこまで差異はあるとは思わないけど、この調査で一番大事なのは、検体の確保だ。色々な学術機関から検体の提供要望が来ているね、その数は12、内訳は大人のオスとメスが各4体の合計8体、子供が雄雌2体づつの合計4体だね」


「群れの中でそれほどの失踪が出れば何か勘づくんじゃないか?」


「それを選定するための調査をするということだよ。結界も無事張ったから逃がすことはないさ」


「別に人間を主食としているわけじゃないだろう? また狩りに出かけたら」


「その点も大丈夫だよ、異常行動を起こしたとはいえ、魔物としては弱者と言ってもいいのがコボルトだ、彼らにとって狩りは命懸けだからね。一度出たら数カ月は出ない、食料の備蓄に優れた群生魔物だよ、肉は好物だけど主食は果物や木の実だね」


「命がけか」


 俺は護送のクエストを思い出す。


 コボルト。


 犬に似た魔物、1体の強さはクラスE。


 群れを作り活動する、知能が高いため群れると戦闘能力が上がるため、脅威度はクラスDになるが、殲滅クエストは複数かつ能力が適切に分けられたクラスD冒険者による処理が適切とされている。


 一つの群れで大体30体程度、リーダーを頂点に動いているものの、繁殖はハーレムではなく、お互いに気に入った雄雌がツガイとなり家族を構成する。


「なあ、ティンパファルラよ。このコボルト達は自身の異常行動の結果、生きて実験体になるか死ぬかの未来しかなくなったよな」


「そうだね」


「そういう危機感は抱かないのものなのか? 人間という種に手を出すと滅ぶと、知恵が回るのならリスクに考えが及ぶはずだ」


「…………」


 ティンパファルラは、じっと俺を見る。


「ガクツチ、君の倫理観は、こう、わがままな部分を含めて繊細だね」


「な、なんだよそれ」


「まあいいさ、仮説は立てられる」


「仮説?」


「リスクを冒す理由については、人に例えると分かりやすい。それは「特別であること」だよ」


「特別……」


「コボルトにとって人を食料とすることは、神聖的な、儀礼的な意味があるかもしれないという話」


「よく分からないな、つまり?」


「人間を狩ることは英雄的行動でその肉を食べると一人前として認められる。それか人の肉は神聖なもので食べれば悪い物が遠ざかり、病が治る」


「…………」


 宗教的な民間療法。


 だがこれは馬鹿に出来ないし笑えない話だ。


 実際に元いた世界だって、医学を否定して怪しげな民間療法にハマる人は後を絶たない、これは世界的流行を起こした風邪の時で証明されている。


「まあ、目の前にサンプルがいるんだ、今それを語るは無意味、さてと」


 魔石を取り出すと首にかける。


 これには認識疎外の魔法がかけられている、これでコボルト達は認識できなくなる。


「別行動に移らせてもらうよ、ガクツチはワガママを通せばいいさ、ボクの方から特に制限をかけるつもりはないからね」


 とささっといなくなった。


「…………」


 と俺も首に魔石をかけて活動を開始する。




――




 前回の殉職者を出した護送クエストで、逃げ出した2人の冒険者を見た時、俺は助けることが出来た。


 当然だ、俺のチートは無敵の戦闘能力、造作もない。


 だが助けなかった。


(いや、あれを助けると表現していいのか)


 かつて冒険者として名を上げるのが楽しくてしょうがなかった時に、それこそ創作物語のように、ああいう場面では「助けて」いた。


 確かに見栄えは良い、そして「ただ者ではない」と注目される。


 だが結局、それは自分の足を引っ張ることになった。


 善意は利用される、考えてみれば元いた世界もそうだし、異世界でも変わらない。


 だから俺はあの時「クラスD冒険者」として行動した。


 だけど今は、隠れているとはいえ事情を知っている仲間であり、クォイラとファルのおかげで制限はあるけどクラスSとして行動することができる。


 だからこそ今は自分の心情によって行動するのが一番、クォイラよりあの依頼の話を受けた時、俺の「わがまま」は決まった。



 だから今からやるのは自己満足以外何者でもない。



 ファルから「場所のあたり」はつけてもらっていた。


 俺は門番を眠らせて中に入る。


 俺の「探し物」は、ファルの見立てのとおり、大事に保管されていて、あっさりと見つかった。


「特別であること、ファルのいう事は正しかったということか」


 俺が今いる場所、それは。


 食料の保管庫。


 中に入るとすぐに目の前に飛び込んできた、特別な装飾が施された祭壇、と表現していいのか、それはそこにあった。


 その祭壇の上にあったのは、、、。


 干し首。


「…………」


 あの時、逃げた冒険者2人だ。


 視線を横に移すと、肉塊がちゃんと整然と並べられて防腐処理もされている。


 そして身につけていたものも、丁寧に添えてあった。


 俺はそれぞれの身につけていたものをゴソゴソと探して。


 2人のギルドカードを簡単に見つけることが出来た。


「探し物は見つかったかい?」


 ファルが、後ろから話しかけてくる。


「ファルか、調査はいいのか?」


「心配になってね、それと場所の見立てが正しいようでよかった」


「心配って、もう、ああ、あったよ」


 俺の我がまま、それは。



――遺品を遺族に返す事



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