第8話:小さな冒険でもいいじゃないか・後篇
「もう、終わったのですか!?」
クォイラの報告に目を白黒させる領主、目の前には40体弱のゴブリンのコアがあった。このコア自体も二束三文だけど、討伐証明として持っていかなければならない。
「はい、我が優秀なクランの仲間のおかげですよ」
としれっと答える。
「ほ、ほんとうに、ありがとうございます! 本当に皆困っていて!」
と勢いよく頭を下げる。
「礼にはおよびません、それでは領主、達成した成功報酬を」
「報酬、で、ですが、本当に、この報酬でよろしいのですか? というよりも、報酬というか」
「もちろん、その為に来たのもありますから」
「はい、ただいま用意いたします!」
とすぐに都市の幹部に命じる領主。
会話のとおり成功報酬とは金ではなく。
――都市・中央広場
「それでは皆様、乾杯」
「「「「「かんぱーーーい!!!」」」」」
クォイラの音頭で領主のほか都市民が酒を酌み交わし、宴会が始まった。
「段取りありがとうございます、領主」
「そ、そんな、お礼はこちらの方です、クォイラ嬢、まさか成功報酬が宴会だなんて」
クエストを受けるにあたり、成功報酬として提示したのは宴会を開くことだ。
しかもクォイラが一次会の宴会代は全部持ちだ。
これも領主は最初は驚いたが、こういった活動が重要とのことで納得。クォイラもちゃっかり政治に利用している訳か。
クォイラは、領主を始めとした幹部達と会話をしている中俺は。
「ギリアン!」
とテンション高く声をかけてくれる男、彼が件の遊び仲間のクラスD冒険者、ホヴァンだ。
「ありがとな、なんか手間かけさせたみたいで」
「いやいや、俺は陳情しただけだよ」
「でも、それでまさかカミムスビが動くなんて信じられなかったぜ、正直、ドタキャンでもされるのかと思った」
表向きは、俺がギルドを通じて陳情したところ、カミムスビが動いたことになっている。
「俺もだよ、連絡が来たときはまさかと思ったよ」
「それにしても、いくらゴブリンとはいえあのクリアまでの速さ。貴族令嬢なんて言うけど流石クラスBの冒険者だぜ。でもどうして受けてくれんだろうな、本当に気まぐれなんだろうか?」
「まあ、クォイラ嬢は変わり者って噂だからな」
「そんなものかね、ってかさ、彼女はあの伝説のクラン、アマテラスの一員だろ? ひょっとしたら失踪中のガクツチが口をきいてくれたりとかしてくれたんかな?」
「…………」
「まあ、それはないか! ガクツチの失踪は公国や他国の関与してるって話だし、こんな小さな塩漬けクエストなんて存在すら知らないだろう、まあ、マジに貴族様の気まぐれってところだろうな」
「そう、だな」
そのクラスSの頼みだからだよとは言えない、俺は心の中でホヴァンに謝る。
とも思ったらホヴァンはニヤニヤしながら笑いかけてくる。
「まあでもギリアン、クォイラ嬢って間近で初めて見たけど、滅茶苦茶美人だよな、しかもほれ、胸も大きい、ウヒヒ」
「ふっ、ホヴァンよ、美人はともかく、胸はあれ全部パッドなのだグハァ!」
「へ? どうした急に?」
「おおおううぅぅ~、な、んでも、ないっ!」
とケツに刺さったナイフを抜く、あ、あいつ、投擲もできたのか、しかもピンポイントにケツを、二つに割れたらどうするんだ!
「そ、そうか? いやぁでもいいなぁ、クラスSともなればあんな美人が仲間にできるのか~、ガクツチの愛人じゃないかって噂があるけど、どうなんだろうなぁ」
「それは絶対ないな、俺は清楚で可憐で健気で巨乳のアイィ!!」
「? さっきからどうした?」
「あ、あは、あぅ、な、でも、へいっ!」
と再びケツに刺さったナイフを抜く、お、お前、もう少しずれていたら、けつあな確定だったぞ、俺、そっちはバージンなの、初めてがナイフとか、(/ω\)イヤン。
「そ、そうか、って別にお前の好みは聞いていないけど。でもよ、美人の高位冒険者ってあのクソ野郎のセシルが軒並み手を出してるって噂だし、クォイラ嬢って確か超名門の貴族令嬢だからな、貴族の箱入りのお嬢様だから騙されて」
「はっはは! ひひひ! 箱入りのお嬢様!? アイツが!? 騙される!? そんなタマじゃないっての! 手を出したらその手を噛み千切るような奴ですアアン!!」
「な、なんだよ、さっきからお前おかしいぞ」
と再びケツに刺さったナイフを抜く、わ、わたし! は、初めてだったんだから! せ、責任とってよね!
「な、なんでもないわ、おほほほ」
「そ、その気持ちの悪いノリなんだよ」
「まあ、それよりもさ、お前のところの雑貨屋の子!」
「ああ~、いや、可愛いんだけどさ、ちょっとお高く止まっているというか」
「でも巨乳、それが正義、雑貨屋への買い物が楽しあべしっ!!」←セカンド童貞喪失
とまあ、こんな男同士のノリで盛り上がる。
こんな馬鹿なノリは楽しいし凄く落ち着く。
そしてホヴァン含めて全員で気の合う奴らで騒ぐ、この楽しさは何物にも代えがたい。
クラスSでは絶対に味わえない醍醐味だ。
人生は、楽しまなきゃ損だ。
そう、俺は思う。
――翌日・競馬場
【さあ、4番、徐々に追い上げており、これから最終コーナーに入ります】
「よーし、このまま勝てば、一気に家賃生活費ゲットだぜ!! 頼むぞ!! 明日の俺の生活はお前にかかっている!!」
とペンを耳に挟みながらレースを見守る。
さて、クラスCの報酬と副報酬が支払われていながら、何故家賃をかけて競馬なんてしているのか。
まず宴会代はクォイラが出してくれたことは述べたとおり。
だけどホヴァンつるんで遊ぶのが余りに楽しくて、大金が入ったことでつい気が大きくなって、ホヴァンとその友人たちと意気投合、4次会まで遊びつくして、虎の子を残して全て使い切ってしまったのだ。
まあいい、今日は固い固いレース、これを取れば問題ない。
(クックック、ダービーの時のディープぐらい固いレース、しかも倍率は2.5倍! これを取れば一気に、カカカ! ココココ!!)
【あーっと、ここで4番、落馬!! 鉄板と呼ばれた4番が落馬!! これは大波乱!!!!】
「」←ガクツチ
――ギルド・ジョーギリアン
「家賃は?」
「お願いします」←土下座
「家賃は!?」
「お願いします!!」←土下座
「家賃!!!!」
「お願いします!!!!!!」←五体投地
「うるさい!! ツテがある、いうたじゃろがい!!」
「本当はお金があったの! それが何故かなくなったの!!」
「だから馬は辞めろって言っているだろーが、、ってなんだい、あるじゃないか」
「ぎょ!!」
「ほほう、ちょうど、ひと月分にはなるか」
「ちょーーーっとまったーーー!! これは明日への生命線なの!! いくら何でも三食ベルムス巻はいやなの!!」
「というかひと月分じゃ足りないんだよ! これで一旦終わらせてやるだけ感謝しな!」
「オニ!! アクマ!!!」
「は? なら出ていく?」
「なんてね! お綺麗な大家さんでドキがムネムネしちゃう!」
「分かればよろしい」
と大家さんはギルドを後にした。
「くそーー! あそこで4番の馬が落馬しなければ!」
絶対に勝てるギャンブルだった、だから全部アイツが悪い。
「よし、しょうがない、ついに出すか秘中の秘」
ざわ、、、、
ざわざわ、、、、
「救貧院の炊き出しに並ぶか! まずは腹を満たさないとな!」
と身支度を整える。
ほら、冒険者時代は、救貧院に多額の寄付してたし、ね、そこはね(´;ω;`)ウゥゥ
おしまい。
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