第9話:クラスD冒険者の日常・前篇
クラスD冒険者で一人前と言われている。
これは別にそう決まっているからではなく「クラスDになれば冒険だけで食える」と言った理由だからだ。
クラスDはギルドに一定の利益を提供できるから、ギルドからも信頼されるようになる、つまり立場が対等になる。
ギルドとの関係が良好なら、冒険者有利の契約を結ぶことだって可能だ。
ここまでは以前にも述べたとおりだが、実情はクラスDでもピンキリだ。
ギリギリ1人で貧乏暮らしをしているクラスDから、家族を養っているクラスD、上位になれば庶民よりも倍稼いでいるクラスDもいる。
冒険者のスタンスとしても色々だ。
クラスDの気楽さが好きで腕が立つのに留まっている冒険者もいる。
一方でクラスDなんて通過点、クラスCに昇格するために過ぎないと意気込む新進気鋭の冒険者もいる。そういった有力なクラスDは、クラスCクラン、見込まれればクラスBクランに所属し腕を磨いている。
だけど、そういう新進気鋭冒険者が所属するクランにありがちなことは、、、。
「お前はクビだ」
とここはとあるギルド、剣呑な雰囲気でクラン長であるクラスC冒険者が言い放つ。
目の前でぐっと噛みしめるのは1人の男。
「そもそもお前は知り合いがどうしてもというから入れただけだ」
「言われたこともできない、使えない」
「お前にクランに何が貢献できるんだ?」
と周りの幹部達に口々に罵られ屈辱に耐えている、そんな彼はE級冒険者。
「っ!」
ついに屈辱に耐えきれず、踵を返してギルドを後にする。
その冒険者に対して向けられる視線の意味は様々だ。
「あれがクラスC冒険者のピグか」
「エンブレムも新調したらしいし、新進気鋭って奴だな」
「凄腕だが……言葉がきついね、俺は嫌だな」
繰り返すが冒険は現実的な言葉だ。
上を目指すの為に熾烈な実力主義を敷いているクランも多い。いらないと判断されれば解雇されることも珍しいことではない。
だからこんな感じのベタな異世界追放系なんて、数多くとまではいかないが、ままある。
そして現実にはザマァ展開なんてものはない。
一方的な追放は理不尽ではあるが、それも現実なのだ。
(大変だなぁ)←ガクツチ
確か、あそこのクランは優秀ではあるけれど、上昇志向が強くて有名なところだ。実績を上げ続けているのは知っているが、あまり暴走しなければいいけど。
そんな具合にクランのカラーは本当に色々ある。さっきのクラスD冒険者の話ではないが、お互いに楽しくやればいいと和気あいあいとしているクランもある。
また別のクランはクラスBにまで成り上がったが、立ち上げた創設メンバー全員が実力不足でクランを去って名前だけ一緒の別物になったなんてのもある。
クラン経営も綺麗事だけじゃない、だから口は出さないのが流儀。
ちなみにエンブレムとは、これはそのとおりクランの代紋だ。大体クラスC以上になるとエンブレムを作りそれで自分の立場を誇示する。
エンブレムは一発で自分の立場と実力が周りから理解されるから便利だ。
一応アマテラスも作った、俺の趣味丸出しで。
と、まあ余所は余所、うちはうちだ。
え? そんな俺は今何をやっているのかって? それは。
「集合クエストに並んでいる冒険者の方! 抽選を始めまーす!!」
というギルド職員の声の下、俺を含めた40人の冒険者たちが順番に箱に手を入れて抽選券を受け取る。
「この抽選券に〇が付いている方が当選でーす! 受注手続きをお願いしまーす!」
「…………」
ドクンドクンと胸が高鳴る。頼む、この美味しい依頼を。
(神よっ! 俺を祝福しろっ!!)
開いた先に、、、〇が書いてあった。
(奴隷は二度刺す!! クラスC依頼ゲットだぜ!!!)
と無言で思いっきりガッツポーズを決める。
「~♪」
さて、クランも色々だが依頼については様々だとは繰り返し述べたとおりで、今回の依頼とは。
「受付を終了次第すぐにブリーフィングに移ります。会議室までお願いします、そこで今回の護衛クエストについて説明します」
――護衛クエスト。
官民問わずの有力者の護衛は、冒険者のメジャーな依頼の一つだ。
今回の護衛は目的地までの都市間の護衛。
都市同士を繋ぐ道は憲兵の巡回もあるから比較的安全な道とはいえ、人間を狙う魔物は多いし、ならず者だっている。
護衛と言っても俺達の仕事は護衛クエストの外周警戒、応募資格はクラスE以上の冒険者で報酬は1人頭クラスD中位の報酬。
十分に美味しい依頼、こんなクエストには今みたいに希望者多数のため抽選で決まる。
抽選に当選した冒険者たちは、ギルドのブリーフィングルームに通される。今回の依頼内容についての説明のためだ。
全員揃ったところで1人の冒険者が出てきた、彼が今回の「頭」だ。
「俺はクラスCクラン「ネンゼ」のリーダーのピグだ、今回の依頼について俺達が主体となって活動を行う」
そんな自己紹介をするのは、まさにさっきクラスE冒険者を追放したクラスC冒険者だ。
そのピグの言葉に自然と従う様子を見せる、俺達クラスDとEの冒険者たち。
冒険者の階級はあくまでも力の指標であって憲兵のような立場の指標ではない、だがやはり上位の階級には逆らえない雰囲気がある。
ちなみにクラスCともなれば、こんな抽選に応募する必要はなく、ギルドが直に斡旋してくれることも多くなるし、今みたいに大きな依頼には主体となって動くことが出てくる。
これがクラスCが壁を超えた者たちと評される所以だ。
「今回の依頼主が誰であるかなんてのはお前らは知る必要はない、何故なら護衛とはいえ、お前らは外周を固めてもらうだけだからだ」
有力者の動きは、そのまま国の動きになりうるから秘匿される。
これは状況に応じて責任者のクラン長のピグですらも知らされない場合があるほどだ、これもよくあること。
とはいえ今回がどっちかだって、それこそ知らないし知る必要もない。
「それぞれ1班6名、8班に分かれで行動してもらう、1班に抽選で当選した冒険者3名、我がクランから3名あてる。班長は全員我がクランから出す、後は班長の指示に従え、異変を感知した場合は即報しろ」
「一応言っておくが、自分勝手の判断で動くなんてことは辞めてくれよ。ま、そこまで馬鹿じゃないだろうがな、繰り替えずぞ。お前らの任務は報告と班長の指示に従う事。ここに資料を用意したから読んだ後に回収処分するからその場で覚えろ、覚えられない奴は解雇、補充を再抽選する」
「俺はさっき使えない冒険者を解雇した、見ていた奴もいるだろうから分かるな? 俺は実力主義だ、使えない奴は使わない。以上だ、30分後にここを出立する、準備を整えておけ」
とそれだけ言い残して立ち去った。
(ヤな奴!!)←ガクツチ
護衛任務ってのは美味しいとは言ったが、それを頭となっているピグからすればハイリスクハイリターンだ。
何故なら護衛任務は成功が前提となる任務だからだ。だから失敗した時に「上流からの信用を失う」というのは痛い。
ま、今回の依頼主は誰かを知ることはできないけどざっくり予想は出来る。
護衛を冒険者に依頼するあたり真の上流ではないのだろう、例えばクォイラの護衛なんてそもそもギルドに依頼しない、自分で何とかする。
とはいえ多数の冒険者を雇うぐらいだから資産家であることは間違いない。依頼主は上流との繋がりを持つことに間違いはないのだろうな。
渡された資料を見ると、二つ先の都市が目的地か。護衛体制が中心部に護衛対象、そのすぐ周囲をピグを始めとした有力者達で固め、外周はクランのメンバーと俺達即席の冒険者たちで各方位8班か。
「よう、ギリアン、またまたよろしくな~」
そんな感じで話しかけてくるのは、前回ゴブリン討伐をした町出身のホヴァンだ。
「また馬で大損こいて大家さんにどやされたんだって? だから辞めとけって言ったのに」
「うるさいな! 絶対に取れるレースだったんだよ!」
とお互いに軽口を叩き合う。
ホヴァンはこんな軽い感じの奴だけど、口が堅く気のいい男だ、だから前回クォイラに無理を言って討伐したんだけど。
「じゃあまた、クエスト終わったら飲みに行こうぜ!」
と別の班に交じっていった。
さて、俺の班はというと6人で構成されている。
俺以外の班構成はこんな感じ。
班長:D級冒険者(所属ネンゼ)
副班長:E級冒険者(所属ネンゼ)
班員:E級冒険者(所属ネンゼ)
班員:E級冒険者(ソロ)
班員:E級冒険者(ソロ)
班員:俺
だがここで問題なのが、、、。
「なんでお前がここにいる?」
班長が詰め寄る、そうソロの1人はさっきピグから追放されたE級冒険者だった。
「再抽選で当選しただけだ、俺は今はフリーだ、お前らに指図されるいわれはない」
「指図される謂れはある、班長は俺だ、指示には従ってもらうぞ」
「っ! 分かっている!」
と憮然とした様子。まあ当然に納得していないか、あれだけ使えないと罵られてそのまま引き下がるわけにはいかないか。
班長は「再抽選か、しょうがないか」とため息をつくと今度は全員を視線に移す。
「俺達はこのクエストでは二番目に重要な位置を任されている。だからクラスDの俺が班長になっている。そしてフリーでもクラスDであるギリアンを班に組み込んだ、ギリアン、アンタとは同格だが、理解しているな?」
「分かってるよ、指示を適切に守るのもまた戦闘職の冒険者に必要な能力だ。どんどんこき使ってくれよ」
俺の答えを受けて頷いた班長の指示が始まる、ここでの俺達のポジション、2番目に重要な位置とは。
「俺達は殿(しんがり)部隊だ、魔物やならず者に襲われた時に一番重要な捨て駒だ、覚悟を決めてくれよ、ただ、殿とはいえ原則は他の班と変わらず警戒任務のみだがな」
「了解」
「よし! 指示終了後、ピグの言ったとおり、正門前に集合だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます