第7話:小さな冒険でもいいじゃないか・前篇
公国の支配体制については大雑把に語ると男爵以上の正貴族は直轄領を持る。都市という名前の、所謂「地方自治体」の長は領主が治める形をとっている。
ただ正貴族という訳ではなく騎士爵や準男爵といった人たちだ。
彼らは広義の貴族に入るが、ピンキリだ、正貴族に迫るような有力領主もいれば、領地を与えれたものの、その職責を全く果たせない領主も当然に存在する。
「ま、ま、まさか! 本当に!? え、ええ!!」
今、目の前にいる小柄な領主はその体を更に縮こまって恐縮する。
「依頼を受けてくれたと聞いた時は、ほ、ほんとうに、と思いましたが、その、あの」
しどろもどろの領主の視線の先は。
「クォイラ子爵嬢!」
クォイラが座っていた。
「子爵嬢は今は必要ありません。今はクラスB冒険者のクォイラです、はい、依頼を受け参りました」
「そんな! 恐れ多い! もし御身に何があれば私は!!」
「繰り返すとおり私はタダの冒険者です。冒険者の身分は問わず、それは冒険者になる時に誓約書を書かされます。これは法的責任が発生するもので、実際正貴族の冒険者が死亡した事例でも、それは自己責任で処理されました。つまり私がどうなろうとそれは「同意」の上である事、貴方の責としては問われませんよ」
「そ、そう、ですが、、」
とそれでも迷っている様子。
それは仕方がない、弱小領主にとって子爵家は雲上人、不興を買ったらと思うのだろう。
「まあ心配するのも分かりますが、私はあくまでも後方支援ですよ」
「え?」
「実際の戦闘については、今私の後ろに立っている私のヒ、ごほん、このカミムスビの仲間が行います」
(今、ヒモって言いかけたな)
ちなみに今の俺は、顔を変えて後ろに立っている。
「戦闘って、まさか彼が一人がですか?」
「まさか、複数人で処理をしますよ。彼はあくまでその1人、非常に優秀な戦闘員とだけ伝えておきます。実力はクラスCと考えて差し支えないかと」
「クラスC、、」
領主の反応を待ってクォイラはニヤリと微笑む。
「私のカミムスビは、このレベルの冒険者を数多く用意できるクランですよ」
「っ」
息を飲む領主。
クランの情報について。
複数の冒険者でクランを組むことが推奨されているとは述べたとおりだが、クランの人数に上限はないことも前に述べたとおり。
そして自分のクランの情報を秘匿するのは基本中の基本だ。
まあ駆け出しからクラスDまでだったら、そんなに重要ではないが、クラスC以上ともなれば戦術戦略も絡んでくるので重要度が跳ね上がる。
更にクォイラが人の限界を極めたと評されるクラスB冒険者であり、公国正貴族では最上位の冒険者、そして立場もまた本人の言うとおり貴族の中では異端、しかも元クラスSクラン、アマテラスのメンバーであり、自身もまた子爵家令嬢という事を鑑みれば。
「なるほど、言えぬ事情というやつですね」
というように「でたらめ」を真実として勝手に拡大解釈してくれる。
クォイラのハッタリに領主はずっと考えていたが。
「分かりました、よろしくお願いします」
とやっと許可をくれた。
「はい、さて依頼の内容について再度確認します。依頼内容はゴブリン討伐ですね?」
「はい、住みついてしまって困っていて」
ゴブリン。
戦闘力F級の魔物、男なら素人でも勝てるレベル。
だが問題なのが生態だ。群れを作って行動しており、集団で農作物や金品を強奪したり、糞尿をまき散らしたりする。
更に討伐したところで、部位が売れるどころか処分にも金がかかり、繁殖力も旺盛だから群れを全滅させるしか方法はない。
といっても戦闘力はクラスFであり、戦略も戦術も使わず殴る一辺倒であるから、群れを全滅させる難易度は決して高くない。故にやっかりな割に報酬も高くなく「割に合わない」のだ。
有力領主なら自身の財力で何とか出来るが、今回みたいに弱小領主だと、ギルドに依頼するしかないが、割に合わないので引き受ける相手がない。
つまりこれが塩漬けクエストであり、クォイラに頼んで今回引き受けてもらった。
「さて、潜伏場所は既に判明しております、早速討伐してきますよ」
という言葉と共に俺とクォイラは旅立った。
●
「どうして、このクエストを受けようと思ったんです?」
道中そんな事を聞いてきた。
「俺は元々、こういう冒険がしたかったんだよ。さっきみたいに魔物を討伐して金を稼いで遊んだり、ミクロな単位で困っている人達の為に冒険したりってな」
「…………」
アマテラス時代、クォイラ達仲間と協力しチートを使って何も考えずにクラスを上げることに夢中になっていた。
クラスを上げれば上げる程、周りからは注目され金もわんさか入る。それが気持ちよかったことも認める。
だがその先にある冒険者としての頂点について、俺は考えが足らなかったのだ。
「クラスSは相手が世界だ、スケールも大きく冒険者の成果が国を揺るがす事もある。だからやりがいがないわけじゃなかったけどさ、何もできないと感じていたんだよ。まあ根っこが庶民なんだろうな、俺は」
「…………」
「それに今の地元の遊び仲間にここ出身の奴がいてな、自分の故郷のことを愚痴っていたんだ、だからまあ、力になりたいと思ったのも理由だ」
「本当に貴方らしい、って、いましたよゴブリンの群れ」
クォイラの案内した先、そこはゴブリンの拠点があった。
ゴブリンは、拠点は自然に少し手を加えただけの簡素な造りとなっている。
その拠点でゴブリンは、ガツガツと略奪した農作物を食べている。
「クォイラ、四方八方に逃げられると厄介だ、結界魔法を頼む」
「はい」
と腕を上空にかざすと、そのままドーム状に結界を張る。
今度は、ゴブリンを直接退治するためにスッと降り立つ。
「ギ、ギギ」
俺の姿にすぐに気づき、敵意を向けてくる。
「お前達にはお前達の事情があるんだろうが、ここは人間の事情を通させてもらうよ」
と、そのままゴブリンとの戦いが始まった。
戦いといっても特に語ることはない、俺はゴブリンの首を撥ね続けて、かかった時間はほんの十分程度、これで「作業」が終わる。
「ふう」
と腕を軽く回す、しかし作業とはいえ、疲れなんて微塵もないし、殴る蹴るをしても体もまったく傷んでいない、戦闘に関しては本当にファンタジーになるよな。
「っ、腐敗が早いな」
既にゴブリンの死骸は悪臭を放っている、これが土を腐らせてしまうため、早急に処分しなければならない。
「お疲れ様でした」
と言いつつクォイラはストレージ魔法から火の魔石をたくさん取り出す。
死骸を焼くのは、相当な熱量がいる。
だから火の魔法を籠めた魔石を買い込み、油をまく、んで魔石を配置して結界の外に出て、そのまま火をつけた。
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