第6話:この世界における冒険者に求められる能力とは?
俺とクォイラは、別邸を後にすると、都市の正門を抜ける。
「~んーーーーっ!!!」
思いっきり伸びをする。
正門を抜けた瞬間に広がる木々と山、毎回冒険に出かける時の、この一気に視界が広がる感じが大好きだ。
横目で見るとクォイラは自身に身体強化の魔法をかけている。
「国境到着は明日ってところだな~」
と軽く準備運動をすると、そのまま揃って走り出した。
この世界に移動手段は沢山あるけど、馬車が主流だ。
だけど特に支障がない限りはこうやって身体強化の魔法をかけて走って行動している。
クォイラのアマテラスでの役割は、バフ、デバフ魔法を担当する。才能に恵まれて一流の補助魔法使いである彼女は、こうやって人の数倍速く一日中走っても3キロ程度ジョギングした程度の疲労しかない。
移動手段としての走るってのは便利、路面状況に左右されないし、好きなルートを選べるから必然的にこれが一番効率良い移動手段となったのだ。
さて目的地に着くまでにちょっとこの冒険について説明しよう。
世界ギルドは、冒険者の為の推奨項目をいくつか設けている。
その中で一番重要なのが単独ではなくクランを組むことだ。
つまりソロは推奨されていない。何故なら色々な危険から身を守るには複数人の方が対処効率が良いからだ。
ここでいう危険は何も魔物だけを定義しない、怪我、病気等の事故も含む。1人で動けなくなれば誰かが助けに来ない限り野垂れ死ぬ、これが冒険だ。
こう推奨しているにも関わらず「過信魔法があるし1人が気楽だから」という理由でソロでクエストに挑んだ結果の死亡事故は毎年必ず発生している。
次に推奨されているのが、冒険者に求められる能力を充足する事だ。
求められる能力、さて、ここで問題、冒険者にとって一番必要される能力は何なのか。
ここで戦闘能力と答えるのは素人だ。
何故なら人間の特性として、攻撃系の能力は発動しやすい。なんだかんだで前線で戦う充実感は最高だ。
だがはっきり言って「戦闘能力が強い冒険者」ってのは替えはいくらでもきくのだ。
じゃあクォイラのようなバフ・デバフといった補助魔法使いなのか。
実はこれは3番目だ、ちなみに2番目は回復魔法使い。
その一番必要な能力はクォイラが持っている。
そうクォイラは、クランに必要な1番目の能力と3番目の能力の両方を持っており、しかも両方一流の腕を持つのだ。
さて、その能力とは。
「ふう、今日はここでキャンプですか」
丁度7割程度の行程を得ると日が落ち始めた。山の中腹あたりに丁度いい平地のスペースがあったので、そこでキャンプを張ることに決めた。
クォイラは結界石を四方に打ち込むと、魔力を籠める。
これで魔物はこちらを認識できなくなるどころか、無意識に避けるようになる、この魔法の継続が約半日も続くのだから、これだけで規格外だ。
そして続いて寝床の準備だ。
クォイラは、すっと手を広げると。
ストレージ魔法で魔法空間からテントを取り出す。
ただのテントと侮るなかれ、所謂高級テントにカテゴリーされるもので、備え付けのベッドもあるどちらかと言えば、簡単なコテージのような感じ。
俺がベッドメイクをする傍ら、クォイラは同じくストレージ魔法で取り出した簡易キッチンで火炎魔法を使って料理を始めた。
さて、結界石もこのテントも簡易キッチンも全部クォイラのストレージ魔法から取り出している。
そう、必要とされる一番目の能力とは、快適な冒険環境を提供できる生活魔法使いだ。
何故なら冒険とは、れっきとした現実な行動だからだ。
創作物語のように着の身着のままで冒険なんてできない。
食料はもちろんの事、寝床に使う道具、素材をはぎ取るのならその道具、全部持つなら1人で持てる量ではない。
重い荷物を持てば動きが鈍くなる、疲労も蓄積する。
仮にいざキャンプをしたところで、いつ魔物が襲ってくるかもしれないという緊張感の中眠る事も出来ない、疲れが取れる事はない。
だからこそ、快適な冒険環境を提供できる生活魔法使いは必須だし、更に生活魔法使い自体が稀少なため、各クランに引っ張りだこだ。だからクォイラは生命線。
着の身着のまま冒険は出来ない、なんて言っておきながら、クォイラがいればまさに着の身着のままの「ファンタジー冒険」ができるのだ。
「うま!!」
野菜のスープを夢中でかきこんで食べている。
「塩を振っただけなのですが凄いですよね。実は我が家にも卸してもらっている野菜なんです、あまりに美味しいので無理を言って時々個人で分けてもらっているんですよ」
「いやー、これは凄い」
とたらふく食べ終わった後は、食器を洗い簡易キッチンと共にストレージ魔法に収納。
しかも食後のシャワーだってあるんだ。ゴシゴシと身体を洗って体を清潔に保つことができる。
後は、満天の星空を見ながら、お互いに話したり本を読んだり、眠くなったらベッドにもぐりこんで寝る。
そして翌朝、快適に目が覚める。
疲労は、そうだな、旅行先で豪華な部屋で寝て起きた時、住み慣れた自宅じゃないから感じる、まあその疲れ程度か。
これで何故冒険に生活魔法が必要か分かるだろう。今回クォイラがいなければ、結界石は持っていけるけど、虫よけ寝袋で干し肉だったのだから。
俺は確かにチートを持っている、
だけどあくまで無敵の戦闘能力に過ぎない。
チートを持っていれば全て上手くいくなんて幻想だ。
――翌日・国境付近
「いたいた、流石クォイラの索敵魔法やね」
手で望遠鏡代わりに覗き込む。
視線の先には森の中で寝ている四つ足の魔物がいた。
「ふむふむ、確かあれは人も捕食対象になっている魔物か、放っておくと危険だな、さてと」
ここでやっと俺の出番だ。
さて、一つ解説、俺のチートは無敵の戦闘能力とは繰り返し述べたとおりだが、何をもって無敵と評するのか。
要はタイマン限定なのか、多人数ならどうなのか、魔物相手ならどうなのか、魔法使い相手、軍隊相手、そして何をもって無敵と称するのか。
結論から言うと俺の場合はチートと称するとおり、そういった限定的な条件は付加されず、全てに適用できる最強という意味だ。
「そんじゃ、行ってきます」
と、そのまますっと、少し距離を置いた位置に降り立つ。
「zzz」
まだ魔物は寝ている。
これはマジで覚えておいた方がいい、現実世界における最強の攻撃手段、それは。
(不意打ち)
クラスC魔物ともなれば頭も回る、だからあんな明らかに無防備に寝ている姿にのこのこ近づいていったりなんかしない。
相手がちゃんとこちらの戦いやすいようにしてくれるわけがない。
先ほどの説明のとおり、俺の最強について限定的な条件は付加されない。
だが無敵の戦闘能力は不老も不死も伴わない。
俺は体の中にあるスイッチを入れる。
すっと下半身に少し力こめて、一気に跳躍する。
その瞬間凄まじいスピードと強度で魔物の頭蓋に近づき。
そのまま空中で体勢を変えて上から首を手刀で一閃、首と胴体を分離する。
魔物は一瞬だけビクッと震えると、分離された胴体は寝たままの姿勢で少し体制が崩れた。
「せめて楽に死を、ま、自己満足なんだろうけどな」
どんな生物も死は絶対に避けられない。だから自分の身に例えてみるとやっぱり苦しみながら死ぬのは嫌だなと思う、だから楽に死なせる、それだけ。
再び魔物に近づいて辺りを見渡してみるが、とりあえず罠は無かった。しかし間近で見ると改めてでかいな、4メートルぐらいある、流石クラスCの迫力だ。
「さてと、クォイラ!」
「はいはい」
と近くに来た、クォイラはストレージ魔法から剥ぎ取り道具を一式出してくれた
「よっしゃ! そのまま! そのまま!」
とロープを取り出し、よいしょよいしょと逆さずりにして血抜きをすると素材をはぎ取ったのであった。
――ギルド・ジョーギリアン
「あー、楽しかった! ありがとなクォイラ!」
帰ってきた我が家で思いっきりくつろぐ。
「いいえ、こちらも楽しかったですよ」
とクォイラも上機嫌そうだ。
俺達は都市に帰ってきた後、クォイラが所属するギルドにコアを納め、はぎ取った素材は素材屋に売って、肉は自分の食う分以外を売り払った。
クエスト達成の報酬の支払い方法は色々あるが、今回も場合はクォイラが所属するギルドに直接納め、その場でギルド鑑定員が鑑定、本物と認められれば金が支払われる。
そこは流石クォイラが所属するギルド、即金払いとは気前がいい。
え? 俺のギルド? そんな金はないっつーの、だから、俺みたいな弱小ギルドは世界ギルドにコアを送付して鑑定依頼をして、本物と認められれば金が送られて支払うのだ。
まあクラスCの依頼なんて来ないけどな(´;ω;`)ウゥゥ。
まあでもそれはそれ! これはこれ!
「うほっ、これは、素晴らしいですなぁ」
副収入を全部含めての総額、家賃は溜まったのを返しても余りある金が手に入った。
そう、これが冒険だった、楽しい上に金が入る、楽しかったなぁ。
当分生活には困らない訳だが、、、。
「……なぁ、クォイラ、一ついいか?」
「なんです?」
「もし時間があればなんだが」
「いいですよ」
「って、分かるのか?」
「分かります、長い付き合いじゃないですか、それに「それは私の責務の一つ」でもありますから」
「ありがとな、じゃ」
ギルドのクエストが張り付けてある掲示板から1枚とる。
「このクエスト、カミムスビで受けてくれ」
:用語解説:
・カミムスビ・
クォイラがアマテラス活動停止後に立ち上げたクラン。
クラスBであるが、子爵家令嬢が立ち上げたクランだけあって上流での知名度は世界レベル。メンバーはガクツチ以外の元アマテラスのメンバーで構成されている。
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