第4話:仲間からの依頼



 ルザアット公国は、貴族が統治する社会。


 貴族の階級は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵で、ここに属する人たちが正貴族と呼ばれる人。


 その中で子爵は下から二番目であるから貴族の中では下位貴族に位置する。


 しかし下級貴族と侮ってはいけない、伯爵以上は公に姿を見せることは余り無いため、国家の所掌事務の全ての窓口はアルスフェルド子爵家が取り仕切っているし、子爵家の中では序列は最上位に位置する。


 しかもクォイラは、当主の娘、当主継承権はないが家内での序列も上位だ。実はおいそれと出会える存在ではない。


 こんな感じで気さくなのは、本人の度量だ。


 大家さんはクォイラに挨拶すると手に持ってきた袋を持ちあげる。


「先ほどお姿を見かけまして、実家の野菜が届きましたので、どうぞ」


 と色とりどりの野菜を袋に詰めて持ってきて、その野菜を見て目を輝かせるクォイラ。


「まあ! これはありがたいです! 味も美味しいし体の内部から綺麗になるから好物です!」


 と珍しくテンションが上がっているクォイラ。


「はい、そう思って持ってきたんですよ」


 と嬉しそうに返す大家さんは、2人はそのまま世間話に花が咲くけど、、。


「ちょっと待った、なんで2人とも知り合いなん?」


 普通に俺は知らない。そんな俺にクォイラは「色々とありまして」とはぐらかされた。


 そんな俺に大家さんは「ふんふん」と頷くとその大きな袋をどさっと置く。


「? なんで俺? 俺にもくれるの? ひもじいから欲しいけど」


 という言葉に呆れた表情をして大家さんはこう言い放った。



「何言ってんだい、アンタさ、クォイラ嬢のヒモなんだろ? 荷物持ちぐらいやってあげなさい」



「…………」


「…………」


 シーン。


「ぇ?」


 なんだって。


 かすれて声が出ない。


「それにしてもクォイラ嬢、名門子爵家令嬢でそんなに綺麗なのに、どうしてヒモなんて」


「貴族令嬢と言っても本家では異端の存在なんです。まあ後は女の甲斐性ですか。それにこのような男にも取柄があるんですよ」


「そうなの? まーったく、ギリアンさん、クォイラ嬢の事、大事しないといけないよ!」


「」←ガグツチ


 とクォイラに挨拶をしてギルドを後にした。


「ヒ、ヒ、ヒヒヒヒ、ヒヒヒヒ」


「急に笑わないでください、怖いですよ」


「笑ってねえよ! なんだよヒモって!!??」


「前に野菜をいただいた時に関係を聞かれてヒモだと答えました」


「なんでそんなこと言うん!? なんでそれで大家さん納得するん!?」


「面白そうでしたので、大家さんも「ああーそういうことね!」って」


「なにしてくれてんの( ノД`)シクシク…」


「あながち間違っていないでしょう?」


「間違いだらけじゃ! 別にお前に頼らなくても」


 カランカラン。


「そらきた!」


「こちら、ギルドギリアンのギルドマスター、ジョー・ギリアンと申します。どんな依頼でもお受けします、冒険者登録をしてくれれば、入門クエストもサポート万全! 今は洗剤をお付けしますよ!」


 と頭をあげた先。


 一人の男が立っていた。


「あの、討伐依頼をお願いしたいんですが」


「(キター!!)これはこれは! 相談料は無料となっておりますよ! ささ、とうぞ!」


 ふふん、どうだ、クォイラにと隠れてドヤ顔をする。


 ギルドにクエストを依頼するのは公的機関だったり企業だったりが主だが、個人で依頼をすることもできるのだ。


 さてさて、どんなクエスト何だろうと問いかけたところ。



「浮気した彼女を討伐して欲しいんです」



 と言い放った。


「あー、そうですかー、浮気した彼女の討伐ですかー、ごめんなさいねー、冒険者ギルドの規定に合わないとー、クエストは受けられなくてねー」


「困っている人を見捨てるんですか!!」


「見捨てる訳じゃなくてねー、こういう相談は、そうですねー、あ、役所とかも~」


「アイツラこそただの税金泥棒! 何もしてくれない!」


「あー、そうですかー、お役所仕事は本当にねー、でもうちでは受けられないですねー」


「使えねえ」


 と吐き捨てて出て行った。


「そんなだから浮気されるんだこのハゲ!! つーかよく彼女なんていたな! 浮気した彼女に逆に同情するわ!!」


 まったく、さっきからロクな奴が来ない。


「…………」←クォイラ


 クォイラの視線が気になるが今更取り繕ってもしょうがない、さて、隣のギルドに。


「クラスCの依頼があるんですが」



「ガタッ!!」



 クラスC、大半の冒険者がクラスDかEで終えるとは先に述べたとおり。クラスCと所謂壁を超えた者の依頼だ。


 クラスCを境に報酬も跳ね上がる。


 そしてクラスCの依頼料なら、溜まった家賃や他の借金全部返すことができる。


 だがクォイラは大事な俺の仲間だ。


 さっきのヒモの話じゃないが、この依頼を受けては本当にヒモになってしまう。


 そう決意した俺は立ちあがり、キッチンでお茶を用意して、応接スペースの椅子を磨き、クォイラをどうぞと座らせる。


 俺はそれを見届けると体面に座り足を組む。


「だが背に腹は代えられない、用件を聞こう」


「プライドは?」


「これが俺のプライドだ」


「わーお」



:用語解説:


・ギルド、ジョー・ギリアン

 ガクツチが開設した公国の裏通りに構える閑古鳥も声が枯れるぐらいの貧乏ギルド、従業員は当然ガクツチ1人のみ。斡旋できるクエストは塩漬けクエストのみである。

 ガクツチの住居を兼ねていて、貧乏暮らしだがこの事務所を気に入っている。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る