第3話:この世界における冒険者とは?ギルドとは?


「なんだ、クォイラか、愛想振りまいて損した、どっこらしょっと」


 とギルドの席に座る。


「随分暇そうですね?」


「んなわけあるか、商売繁盛、寝る暇もない」


「今なら洗剤を付けますよ!」


「…………」


 くそう、意地悪な女だ、もう。


 とはいえ、コイツとはこんな感じでいつも軽口を叩き合う仲で、クラスS冒険者が失踪する時、また新しく冒険者として始める時、本当に色々と世話になった。


「カグツチ、前から気になっていたんですが何で洗剤なんですか?」


「うるさいな、俺の祖国じゃ定番文句なの!」


「日本でしたっけ?」


「まあな、良い国だぜ、いつか連れて行ければいいよな、んで、何の用だ?」


「なんのって、客としてきたんですよ」


「悪いが断る」


「早いですね」


「お前は大事な仲間だ、施しは受けない」


「男のプライドという奴ですか?」


「そのとおりだ、それに暇だとは言ったが、仕事はある、我がギルドに優秀なクランが一つ所属しているからな!」


「ああ、何か男女5人のクランでしたか?」


「よく知ってるな、そう! 先日入門クエストを無事クリア! そして今、F級に昇級し初単独クエストを実施中、いずれこのギルドに貢献してくれる前途あるクランなのだよ!」


 クラン。


 冒険者たちで構成されるパーティーの事をいう。


 唯一の規則は、ギルドに登録された冒険者であること。


 クランの人数の上限は原則としてない、そしてクランの階級は構成されたパーティーの中で一番上の冒険者の階級を名乗る。


 クラスC冒険者がトップなら、そのクランはクラスCとして認定される。


「まあ、鍛えればモノになりそうだな、別に根拠はないぜ、そう囁くんだよ、俺のゴーストが」


「はいはい、好きですねぇ、そのセリフ」


 とさして興味もない様子。


 ふん、まあいいのさ、とここで、事務机の魔法紋が輝く。


「よっしゃ! 通信魔法キタ!」


 通信魔法。


 当たり前ではあるが、冒険者にとって自分がいつどこで何をしているのかという情報の伝達手段は生命線。冒険者の中で通信魔法は最重要魔法だ。


 とはいえ魔法は才能と適性が全て、適正の無い魔法はどんなに努力しても絶対に使えない。


 だから人間は技術を発展させ、通信魔法を道具として使えるようにしたのだ。


「ほれほれ、クォイラさんや、見てみなされ、おそらくクエストを達成したという連絡だぜ~、はい、もしもし、こちらギリアン、どうぞ」


【あ、ギリアンさん、クエストクリアしました】


「でかしたぞ!」


【それとすみませんけど、他のギルドに声かけられて、いい条件で契約してくれるって言ってくれたんで、そっちうつりまーす♪】


 とブツッと切れた。


「…………アイツら男3人と女2人にクランだからあれだよ、なんか2人のうちの女の1人がいかにもヲタサーの姫みたいな感じだったから痴情のもつれとかで解散するよ、俺にはわかる」


「残念でしたね」


「くそー! あいつら、入門クエストとか面倒見てやったのに!」


 さて、続いて説明しよう。


 冒険者登録と述べたが正確には冒険者はギルドと「契約関係」にある。


 つまり冒険者は「ギルドに所属」するのだ。


 そして最初はクラスGで契約する時には、規定により


 ・報酬はギルドが全て受け取る、つまり無報酬。

 ・クエストにかかる費用は冒険者持ち。

 ・クラスFに昇格するまで契約解除は不可。


 これで統一されている。


 そう、ギルド側が一方的に有利な契約で冒険者生活が始まるのだ。


 そして入門クエスト等を通じて、ギルド側が「査定」をする。将来有望と認められれば、冒険者側に有利な契約が進められる。


 故にクラスGに昇格するまでの解除不可は、才能がない人間を振るい落とすためと、契約乱用を防ぐためだ。


 とはいえクラスGに昇格しても報酬や費用については、ギルド側が有利になるのは変わらない。


 冒険者として一人前として認められるのはクラスDになってからだ。


 クラスDが一人前と認められるのは、ここでやっとギルドと対等になれるからだ。報酬の交渉、クエストにかかる費用の交渉、そして今回みたいに何処に所属するか選べるようになる。


 つまり冒険で食えるようになる。


 更に壁を超えた者たちと称されるクラスCになれば、今度は冒険者に有利になる。


 自分が所属するギルドが気に食わなければ、他のギルドに移籍したり、好条件を提示されて乗り換えも当たり前のようにおこなわれる。


 とはいえ、建前の部分もあり、有力ギルドにはスカウト班もいて、将来有望な人材は、青田刈りもするから、クラスGであるにもかかわらず、ギルドと対等な契約を交わす場合もあるけど。


 んで話を戻すとクラスDともなれば、個人でギルドを開設することもできるのだ。


「とはいえ個人経営のクラスDギルドなんて、舐められて当然だと思いますが、冒険者が得するようなクエストを斡旋なんてできないでしょう?」


 とは皮肉を込めたクォイラの言葉。


 ギルド。


 個人等色々なところから来る「クエスト」を「冒険者」に斡旋する場所だ。そして世界ギルドの規定により、クエストはギルドを通して受注しなければならない。


 当然冒険者にランク付けされているように、ギルドもランク付けされており、クラスDはギルドでは最下級に分類される。


 クエストの内容は本当に様々で一言では語れないから追々説明していくとして、良いクエストは当然に有力ギルドに来る。


 だから有力ギルドは、有力冒険者の方から契約をして欲しいと願い出る。有力ギルド側も冒険者を選べるようになるし、使えなければ解雇できる。


 つまり先ほど、クラスを上げれば冒険者有利になると言ったが、これはギルド側にも言えて、地方有力ギルドはクラスC冒険者とも対等だし、国有数のギルドはクラスBとも対等になる。


 ギルドと冒険者は、そういう意味において相互補助の関係にあり、信頼関係は大事ではあるが、条件が良ければ移るのは当たり前だ。だから今回みたいな一方的契約破棄ことも当然にある。


 んで一方的に契約破棄されても文句言えない。


 それを防ぎたいのなら、一方的な契約破棄をしてはならないと契約書に入れるしかないが、それは俺みたいな弱小ギルドにはできない。


 何故なら斡旋できる依頼も塩漬け、つまり誰もやりたがらない依頼だったり、安価な依頼だったり、舐められるというクォイラの言葉はまさにそのとおりだ。


「まあ普通は、ギルド経営は引退した冒険者の第二の人生だからなぁ、いきなり開業はしないだろうからなぁ」


 とふうと一息つく。


「これで冒険者はゼロか、困ったね、仕事が無くなっちゃった♪」


「どうするんです?」


「どうするも何も、、、」


 すっと立ち上がる。


「ついに出すか秘中の秘」


 ざわ、、、


    ざわざわ、、、


「近くのギルドで頭を下げてクエストを受注してくる(キリッ)」


「わーお」


「この間の下水に出現したモンスター討伐は美味しい依頼だった、クラスGクエスト、そのとおりモンスターは入門クエスト級の雑魚なのに色がついてクラスDの報酬を貰えた、匂い落とすのは大変だったけど」


「…………」


「おい、距離を取るなよ! ちゃんと綺麗にしとるわ! それに下水設備は国家の運営の生命線なんだぞ!」


 下水設備を整えていない国家の悲惨さは言うまでもない、こういう「重要であり報酬も高いが、誰もやりたがらない依頼」ってのは美味しいのだ。


 俺が今から行こうとしている隣のギルドはクラスCという中堅ながらに地元密着が強みのギルド、だからこういう依頼を取ってくるのだ。


「相変わらず男なのに綺麗好きですね、風呂にもの凄く拘っていましたし、このギルド事務所も風呂だけは素晴らしいです」


「ふふん、日本人は、毎日湯につかり体を清める事が心もリフレッシュできるのだよ。てなわけで、俺は隣のギルドに行ってくる。えーっと、あそこのギルド長は、甘いものに目がないからな、限定のスイーツは確保済、付け届けをしっかりしないとね!」


「…………」


「なんだよ、かつての仲間の成れの果てを見に来たのかな、帰れ帰れ!」


 カランカラン。


「来訪者!」


 と思ったら、今度は大家さんが入ってきた。


「やや! これは大家さん、どうしました? あの、もうあの銀貨以上は、逆さに振っても」


「いや、アンタじゃなくて」


 すっと頭を下げる。


「クォイラ嬢、ご機嫌麗しゅうございます」


「こんにちは、大家さん」


 と頭を下げる。


 クォイラ・アルスフェルド。


 彼女はルザアット公国、アルスフェルド子爵家の令嬢であり、正真正銘の貴族令嬢だ。



:用語説明:


 冒険者ランクについて。


クラスS

 次元を超えし者。

 世界で9人しか与えられていない冒険者。舞台は世界、客は王族やら貴族。クエストも世界ギルドからの斡旋のみ。


クラスA

 人知を超えし者。

 国家トップの冒険者、舞台は同じく世界、国宝と称される。客も王族貴族。クラスSのお供であることも多く、クエストも世界ギルドからの斡旋が多くなる。


クラスB

 人を極めし者。

 国内有数の冒険者、地方の英雄レベルで財産と称される。客は地方の有力者で上流との繋がり強くなる。

 国有数の有力ギルドに所属し、国をまたいでのクエストも数多くこなす。


クラスC

 壁を越えし者。

 地区代表クラス、数はここでかなり絞られる。凄腕と称される。有力ギルドに所属するのは大体クラスC以上、クエストは自分で探すのではなく、ギルドから斡旋が来るようになり、報酬も跳ね上がる。


クラスD

 一人前の冒険者。

 周りからは冒険者としてようやく認知される、ここでやっとギルドと対等になれる。

 ギルドの開設も認められるようになる。大半がここかクラスEで冒険者生活を終える。


クラスE

 半人前の冒険者。

 クエスト受注に特に制限がなくなる、やっと戦力として認められるようになる。


クラスF

 見習いの冒険者

 入門クエストを3つこなすと自動的に昇級、ソロもクランでも活動ができるようになるが、ソロの場合はD級以上のお供がつくことが推奨されている。


クラスG

 始まりの冒険者。

 入門クエストを1つでもクリアすると自動的に昇級、ソロはクラスD以上のお供がつくこと、クランの場合は、ソロの活動が許される。


クラスF

 ペーパーだけで取れる、全ての冒険者としての活動にD級以上の冒険者お供がつく。





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