灰色の令嬢〜眠る力と蘇る記憶〜

第5話 アリエルの逃避行とスキルの開花

シェルターが空に浮かび上がった瞬間、地上ではメイドたちが困惑し、混乱が広がった。「あれは何？ 植物の塊が動いているの？」と一人のメイドが驚きの声を上げると、先ほどアリエルを見つけたメイドが「アリエル様が…あの植物の中にいるのよ！」と答えた。

周囲を警戒しつつ、メイドたちはアリエルの姿を捉えようと必死だった。しかし、シェルターは柔らかな葉に包まれ、空中で優雅に舞い上がっていく。メイドたちの視界から逃げるように、アリエルは高く、遠くへと移動していった。

その頃、ローデンは滞在しているリゼルの屋敷で報告を受けていた。震える声でメイドの一人が、「申し訳ありません、ローデン様。アリエル様が植物の塊に…突然、空中に浮かんでどんどん行ってしまいました。メイドの一人がその中にアリエル様がいらしたと言ったのですが、私たちはどうしても捉えられませんでした。」と告げた。

ローデンは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻した。「アリエル様の力が増しているのか…これは予想外だ。しかし、アリエル様が逃げられたからといって、私たちの計画が揺らぐわけではない。」と冷静に言った。

ローデンはアリエルの逃走を知った瞬間、彼女の動きを追うために自らの直感力を最大限に働かせた。「直感力上級」のスキルを使い、アリエルの行動を予測するための集中を始める。心の中で彼女の気配を感じ取り、どこに向かうのかを見極めようとした。

その時、妹のリゼルが部屋に飛び込んできた。「お兄様、アリエル様がどこにいるか、私にも分かるかもしれない！」リゼルは目を輝かせ、今、まさに予知夢を見たことを伝えた。

ローデンは彼女の言葉に耳を傾けた。「夢の中で、アリエル様が緑の葉に包まれて空に浮かんでいるのを見たの。どこか高い場所へ向かっている気がするわ。」と語るリゼル。

ローデンはその情報を基に、すぐに行動を起こすことにした。「なら、早速追跡部隊に知らせて、アリエル様の行く先を特定しよう。私の直感が、アリエル様はこの辺りの森を抜けて、さらに北へ向かうと言っている。」

彼はすぐにメイドたちに指示を出し、追跡部隊を編制した。リゼルはローデンの隣で心を落ち着けながら、再度夢の内容を思い返す。「でも、いつも間一髪で逃げられるの…私たちが追いつく前に、何か手を打たないといけないわ。」

ローデンは頷き、妹の言葉を真剣に受け止めた。「そうだ、私たちの行動を予測されないように、素早く動く必要がある。アリエル様がどこにお逃げになるのかを知っていても、アリエル様の魔法の力が増している今、私たちはさらに念入りに準備しなければならない。」

追跡部隊は急いで支度を整え、ローデンとリゼルは最前線で指揮を執ることにした。彼らはアリエル様の行く先を見定め、すぐに森の中へと足を踏み入れる。

森の中での追跡は容易ではなかった。ローデンの直感とリゼルの予知夢が交錯し、アリエルの行動を知っても、間一髪で追いつけ無かった。「アリエル様を探しなさい。アリエル様はスキルのレベルを上げていらっしゃるのだ。これ以上レベルを上る前にお連れしなくてはならない。」とローデンはメイドたちを見つめた。

一方、アリエルは空中で心地よい浮遊感を楽しみながら、新たなスキルの開花を目指していた。ローデンたちが追ってくる気配を感じてはいたが、彼女は自分の力を信じ、これからの戦いに向けて心を整えた。決意を胸に抱き、「絶対に、スキルを全部開花させるわ」と呟きながら、彼女はステータス画面を見つめた。

まずはスキルをできるだけ早く開花させる方法を考え、訓練方法を鑑定することにした。新しい発見があるかもしれないという淡い期待を持っていたが、これが大正解だった。すると、「全てのスキルを開花させる」という項目が浮かび上がった。

アリエルはシェルターの中、ひとり静かに座り、目を閉じた。自分の内なる力を解放し、全てのスキルを急いで開花させるための集中が必要だと感じていた。強い意志を持ち、未来の自分の姿を心に描きながら、一つひとつのスキルが形を成すのをイメージする。

深く息を吸い込み、短い瞑想に入る。未来の予知、スキルの模倣、感情の共鳴、選択の影響を見極める能力、マルチタスクの才、時空間の歪み、そして現実の修正…。その全てが、自分の中に眠っている力であることを感じ取るのだ。

アリエルはふと目を開け、行動に移した。まずは、周囲の気配や空気の流れを敏感に感じ取り、未来の予知を試みる。すると、何かが見え隠れするような感覚が湧き上がり、彼女はその予感に耳を澄ませた。

「私にはできる…」と自分に言い聞かせ、自信を向上させていった。彼女の中にある信念と希望が、全てのスキルを強めていることを確信していた。

次に、彼女はウツボカズラの力を感じ取り、そのエネルギーを周囲の植物たちに分配していると知った。ウツボカズラが捕食した生物を栄養と魔力に変えて他の植物に与えることで、彼女のシェルター内の植物たちは常に活力を保ち、アリエルの命令に従って素早く反応できる状態を維持していることがわかった。

燃えやすい火魔法が襲いかかっても、ウツボカズラから得た魔力によって植物たちは再生が早く、アリエルを守る盾となる。

アリエルはその間にも、ウツボカズラの力を利用して自らのスキルを高める方法を考えていた。彼女は、ウツボカズラが捕食した生物から得た魔力をさらに増幅させ、他の植物にもその影響を及ぼすことで、シェルター全体の防御力を強化できることに気づいたのだ。これにより、アリエルはより強力な攻撃と防御を同時に実現できると確信した。

彼女はさらに、他者の存在を想像し、その感情や心の動きを共鳴させていく。信頼できる協力者が共にいると仮定して、自らの力を磨き上げていく。

アリエルはさらに深い集中に入り、自分のスキルが確実に開花しつつある感覚を得ていた。彼女の心の中には次々と自分の行動や結果を振り返るイメージが浮かび、それぞれのスキルがどのように働いたのかを分析し始める。失敗も成功も、今のアリエルには重要な成長の一歩だった。

しばらくして、彼女はふと小さな笑みを浮かべた。「焦らずに進むことが大事…」と静かに呟き、自分を信じる力がさらに強くなったのを感じる。

目を開けたアリエルの瞳は、以前よりも確かで、鋭い光を宿していた。今や彼女は、内なる力が少しずつ引き出され、全てのスキルが共鳴し合い始めているのをはっきりと感じ取っていた。次なるステップを踏み出す準備は整ったのだ。

アリエルは、ローデンの直感スキルは恐ろしいと、思った。文字化けして植物系の魔法だと誤解しているが、直感スキルがアリエルのスキルを秘匿し囲い込む事がローデンたちに有利だと告げたのだ。もしアリエルのスキルの事実を知れば、こんなゆるい追跡では済まないだろう。多分、一族の総力をかけて追ってくるだろう。アリエルはスキルの表記が日本語で本当に良かったと思った。彼女は今、強大な力を手に入れ、次の挑戦に備えようとしていた。

アリエルは空中で浮遊しながら、自分の力をさらに引き出すための方法を考えていた。彼女は他人のスキルを模倣できるが、実際にそのスキルをどこまで使うことが出来るのかはわからない。そこで、彼女はあるアイデアを思いついた。

「山の中で旅人を探して、彼らのスキルを真似する練習台にしよう。」アリエルは心の中で決意した。彼女は、実際に他人のスキルを使ってみることで、より理解を深め、自分の力を高めることができると考えた。

「でも、ただの練習台として使うわけにはいかないわよね。お礼として、果実を実らせて、その果実を渡すからと交渉してみましょう。」アリエルはその考えに満足し、シェルターの中での浮遊感を楽しみながら、旅人を探しに山へ向かうことにした。

彼女はシェルターを離れ、緑豊かな森を抜け、山の入り口へと向かった。心の中で高鳴る期待感に胸を膨らませながら、彼女は自分の計画を実行に移すため、行動を開始した。

山の中では、様々な旅人が行き交っている。アリエルは彼らを観察し、どの旅人が練習台にふさわしいかを見極めようとした。彼女は目を凝らし、何か特別なスキルを持っている旅人を探し続けた。

しばらくすると、彼女の目に一人の旅人が飛び込んできた。その旅人は、鋭い目を持ち、剣を携えた戦士のようだった。アリエルはその姿に魅了され、心の中で決意を固めた。「あの人に声をかけてみよう。」

アリエルは、慎重に旅人に近づきながら心を落ち着けた。彼女はスキル感情の共鳴を使い「安心」や「友好」の感情を増幅して旅人の前に立った。「こんにちは、旅人さん。私はアリエル。あなたのような強い人に協力してほしくて。」

旅人は驚いた様子でアリエルを見つめた。「協力？よく分からないが、何をして欲しんだ？」

アリエルは微笑みながら答えた。「実は、私は他の人のスキルを真似することができるの。でも、まだ実際に使ったことがなくてあなたのスキルを真似して、少し練習させてほしいの。」

旅人は少し考え込んだ後、興味を持った様子でアリエルを見つめた。「なるほど、私のスキルを真似たいと。興味深い申し出だが、どうして私が協力しなければならない？私に何の得がある？」

アリエルはその問いに対し、心の中で考えを巡らせた。「お礼として、私が実らせた、果実をあげるわ。魔力を向上させる果実よ。それを食べれば、あなたの魔力が上がるわ。」

旅人はその言葉に興味を示し、彼女をじっと見つめた。「魔力を上げる果実？その果実を実らせる力があるというのか？ それなら、試してみるのも悪くないかもしれない。」

アリエルは心の中で勝利を確信し、旅人に微笑んだ。「それでは、まずは私があなたのスキルを見せてもらって、それを真似するわ。どうか教えてください。」

旅人は頷き、アリエルに剣術の基本的な動きを見せ始めた。彼女はその動きを見逃さないように、集中して観察した。アリエルはその動きを感じ取りながら、心の中で自分の力を引き出していく。

「今度は私があなたの動きを真似するわ。」アリエルは旅人の動きを真似て、優雅に舞いながら、剣の動作を再現しようとした。しかし、彼女は実際に剣を持っていないため、動きに少し戸惑いを感じた。

「もっと力強く、そして素早く。」旅人がアドバイスをくれた。アリエルはその言葉に耳を傾け、自分の心の中で力を込めた。

「私はできる、私はこの力を引き出す力を持っている。」アリエルは自分に言い聞かせ、さらに練習を重ねた。彼女の心の中で、旅人の動きと彼女の力が融合していく感覚を味わった。

しばらくの練習の後、アリエルは旅人に感謝の意を示した。「ありがとう。あなたのスキルを真似することで、私は成長できたわ。」

旅人はニヤリと笑い、「お礼の果実を楽しみにしているよ。」と言った。アリエルは頷くと「さあ、果実を実らせるわ。」と言って彼女は、ウツボカズラに魔力を注ぎこんだ。魔法に包まれたウツボカズラは、魔力を周囲の植物たちと共有し大地の中に新たな種を生み出した。

「私の魔力で、魔力向上の果実を実らせて！」彼女は心の中で強く願い、その瞬間、大地の種が反応してみる間に大きな樹木へと成長していった。

植物たちも魔力を集め、アリエルの意志に応じて樹木に力を流し、美しい果実を実らせ始めた。旅人はその光景を見て驚き、目を輝かせた。

「本当に果実が実るとは……礼としてこれを受け取らせて貰うよ。」アリエルが旅人に果実を手渡した、その瞬間、彼女の魔力も増えた事を感じた。

彼女は心の中で誓った。「これからも、もっと多くの人々のスキルを学び、私自身の力を強めていく。そして、ローデンたちに対抗できる力を手に入れるのわ。」

アリエルは未来予知の力を使いながら移動しその間にスキル模倣のスキルを高めて行く事にした。